第339話 解決の糸口

 数日後、帝城で嫁たちと過ごしたケビンが携帯ハウスへ帰る際に、傍まで寄ってきたアリスが悲しそうな表情で双子へ別れを告げていく。


「元気でね、リンちゃん、シャンちゃん」


 この双子の名前はアリスが当然の如く「カワイイ名前があるはずです!」とケビンへ聞き出した時に、悩みに悩んだ末ケビンが出した結論が【リンリン】と【シャンシャン】だった。


 だが、アリスから「2回も同じ名前を繰り返すのに意味はあるのですか?」とつっこまれてしまい、前世での様式美が通用しなかったことに対してケビンが項垂れてしまったあと、「特にないから【リン】と【シャン】でいいよ」と伝えて様式美を諦めるのであった。


「何かあったら指輪で連絡してくれ」


 帝城にいる期間中に、ケビンは嫁たちの指輪に通信機能を付与させて個々で連絡が取れるようにしたのだが、その時はそれを喜んだ嫁たちからひっきりなしに連絡が入ってしまい休む間もなく誰かと話していることが多かった。


 通信中は嫁たちの楽しそうな声を聞いて、さすがに用もないのに連絡するなとは言えず、ケビンは嫁たちが気の済むまで話し相手をするのであるが、ソフィーリアへ対する祈りもこんな感じで色々な人から届くのだろうかと思うと、神様の仕事も大変だなとケビンは仲間意識が芽生えてしまう。


 そのようなことがあった帝城での生活を終えたケビンが携帯ハウスへ転移したら、リビングにティナとクリスの姿が見えないので寝室を覗いて見たのだが空っぽだった。


 念の為にもう1つの部屋をそっと開けると、そこにはベッドの上で全裸となり抱き合って眠る2人の姿があった。室内は女性の匂いが充満しており、2人の周りにはこの世界にない大人のおもちゃが多数転がっている。


 それを目撃してしまったケビンはそっとドアを閉めて固まってしまった。


「ケビン様、如何なさいましたか?」


「……いや、見間違いだろ。うん、そうに違いない」


 ケビンは自分に言い聞かせるように言うと再びドアを開けるが、現実は現実としてケビンへありのままの状態を突きつけるのだった。


 再びそっとドアを閉めるとケビンはソファへ座り込んだ。


「ニコル、お茶を頼む……」


「かしこまりました」


「主殿よ、どうしたのだ? ティナたちはまだ寝ておるのか? 起こしてくるか?」


「起こさなくていい……あの部屋には近寄るな……」


 ニコルからお茶を出されたケビンは1口飲むと心を落ち着かせて、ニコルにもクララと同様にティナたちが眠る部屋へは近づかないように伝えるのだった。


 それからリンとシャンをベビーベッドに移動させると、ソファへ再び座り込んでおもちゃを与えたであろう人物へ連絡が取れるか試すのである。


『ソフィ……聞こえるか? 聞こえたら返事を頼む』


 ケビンはダメ元でソフィーリアとの会話を試みると、意外にもすんなり返事が返ってくる。


『聞こえているわよ。どうしたの?』


『ティナとクリスを携帯ハウスに留守番させて今戻ってきたところなんだが、2人が大人のおもちゃに囲まれてベッドで寝ていたんだ』


『ああ、やっと使ったのね』


『やっぱりソフィが与えた物か?』


『そうよ。ティナの性欲ってあなたにだけ向けられていたけど、複数人でした場合は周りの女性にも向けて凄いじゃない? だから少しでも1人で発散できるように渡しておいたのよ』


『まぁ、確かに凄いけどな』


『ちなみに男性のシンボルはあなたのものを忠実に再現しているわ』


『変なところで凝り性だな』


『その方が使う女性も嬉しいでしょう? それともあなたは違う男性の形のもので大事な人たちの中を開発されたいの?』


『それだけはごめんこうむる。そうなったらそれを渡したソフィを怒ってしまいそうだ』


『あなたに怒られるのもありかもしれないわ。あなたってちっとも怒らないから。私を甘やかして駄女神にするつもりなの?』


『それはそれで見てみたい気もするが、俺はしっかり者のソフィが好きだからな、駄女神になるのは今のところエッチ限定で頼む』


『ふふっ、いっぱい勉強しておくわね』


『楽しみにしてるよ』


 ケビンがソフィーリアと会話している中で、ベッドの上で眠っていたクリスが目を覚ます。


「う、うーん……体がだるい……ティナ頑張りすぎだよ……」


 クリスが辺りを見回すと散々な状況であることが誰の目にも明らかであり、隣では未だスヤスヤと眠るティナの姿があった。


「ん……あれ……? ケビン……君……?」


 未だハッキリしない頭で微睡んでいるとドア1枚隔てた向こう側に人の気配があり、それがケビンのものであると認識したら朧気な頭が次第に覚醒していき、今の状況がどういうものか理解してしまうと同時に焦りが一気に頭の中を支配した。


「ティ、ティナ! 起きて、起きてってば!」


「う……うぅぅ……何、クリス……欲しくなったの? またする?」


 頭のハッキリしない状態のティナが手探りでおもちゃを探していると、それをクリスが手で押さえてやめさせるのであった。


「ん……? クリスがしてくれるの? 寝起きだから優しくしてね」


「それどころじゃないって! ケビン君が帰ってきてるの!」


「ケビン君……? ……ケビン君……んー……ケビン君っ!?」


 ケビンの名前を頭の中で反芻していたティナが一気に覚醒すると、そのまま飛び上がりリビングへ向けて走って行った。


「ちょ、ティナ待っ――」


 バタンと勢いよくドアが開かれてその音で一斉にみんなが注目すると、真っ裸のティナがケビンを視界内に捉えて飛びついた。


「ケビン君!」


 ケビンは驚きで目を見開くが、ティナが怪我をしないように勢いを殺して受け止めるのである。


「ケビン君、ケビン君!」


 膝上に乗ったティナは、もう何年も会っていないかの如くケビンへ抱きついてグリグリと股間を刺激しながら、たわわな胸にケビンの頭を沈みこませた。


「うわっぷ……く、苦しい……ティナ……」


「ケビン君、欲しい……欲しいの!」


 結局ケビンは収まりのつかないティナとともにクリスがいる部屋へ連れていき、散らばっていたおもちゃを使ってティナとクリスの2人を腰砕けになるまで抱き続けた。


 行為後の室内は女性の匂いと更に男性の匂いが混じって酷い有様になったため、ケビンが魔法で全て綺麗にするとダウンして気絶してしまった2人を残してリビングへと戻るのだった。


「主殿よ、起きたのにまた寝かせてしまっては意味がないだろう?」


「想定外だ」


「ケビン様、お茶でございます」


 その後、午前中はのんびり過ごしてお昼ご飯を食べ終わってくつろいでいる時に、ようやく2人が目覚めたようでフラフラとしながらリビングへと現れる。


「お風呂に入ってスッキリしておいで」


「……そうさせてもらうわ。おかえり、ケビン君」


「ケビン君、遅れたけどおかえりなさい。まさか言う前に私の中へ帰ってくるとは思わなかったけどね」


 クリスが若干皮肉った内容で話すも、ケビンとしてはおもちゃを使ってあられもない姿を晒していた2人が悪いという判断で、特に気にもしていなかった。


「それはそうと、俺のいない間は2人でお楽しみだったようだね」


「クリスが甘えさせてくれたから」

「ティナに襲われたから」


 ケビンと話し終えたティナとクリスがそのままお風呂へ向かうと、ケビンたちは再びくつろぎだす。


 そしてその日は大して何もできないだろうと思い至ったケビンは、予定を立てずにのんびりとした1日を過ごすことにしたのであった。


 その晩、ティナが2人で話したいことがあると言ってきたので、ケビンは別室にティナと2人で入り、遮音の結界を張って話をすることにした。


「実はクリスのことで相談があるの」


「クリスのこと?」


「そう、私に関係していること」


 ティナはそれからケビンがしようとしていたことと、クリスが今現在していることを包み隠さず打ち明けた。


「このままだとクリスの妊娠がいつになるかわからない。だからケビン君の魔法でクリスを孕ませてあげて」


「多分、それは難しいな。ソフィが絡んでるなら俺の魔法でどうこうできるような避妊薬は作ってないだろう。鑑定でわからないのならいよいよもってその確率が高いと思う」


「そんな……」


「それに、もしできるとしてもクリスの意志を無視してはいけない。それはティナに対するクリスの厚意を踏み躙る行いだ」


「でも……クリスには幸せになって欲しい……種族のせいで私がクリスの足枷になってる……」


「よし、クリスを呼んで3人で話し合おう」


 それからケビンはドアを開けるとクリスを招き入れて、3人で話し合いを再開するのだった。


「――というわけだ」


「あらら、ティナ話しちゃったんだ」


 そのあとに続いてケビンは、ティナへしようとしていたことをクリスにも口外厳禁で伝えると、クリスはガックリと肩を落とすのであった。


「もしかして私……余計なことをしてた? 私が妊娠していたらティナは確実にその後で妊娠させてもらえてたんだよね?」


「いや、余計なことじゃない。俺がティナを想う気持ちとクリスがティナを想う気持ちの手段がすれ違っていただけだ。逆に俺は嬉しかったよ。仲がいいと言っても自分の妊娠時期をずらしてまでやるには覚悟がいることだし、何よりティナは種族違いでいつできるかもわからなかったんだ。クリスの行為は尊敬に値するものだと素直に思えるよ」


「私はなんだかんだでソフィさんやアビーを除けば1番年上だからね。他のみんなのことは妹みたいに可愛いんだよ。だからお姉さんとして頑張っていたんだけど、今回は空回りだったみたい」


「ねぇ、今まで我慢してたんだからクリスが先に妊娠して。もう避妊薬は飲まなくていいよ」


「うーん……それでもやっぱり私はティナのあとでいいよ。アビーのことも気になるけどケビン君の話を聞く限り問題はなさそうだし、やっぱり私はティナが先に妊娠してくれた方が嬉しいかな。避妊薬を今やめてもすぐには妊娠できないってソフィさんが言ってたし」


「すぐには無理なのか?」


「なんか“はいらん”?ってのが止まってる状態にしてあるから、よくわからないけど、再活動させるのに体の準備がいるんだって」


「うーん……ちょっと待っててくれ」


 ケビンは丸く収まる可能性を思いついたが確認しなければならないことができたので、解答を知っていそうなソフィーリアへ会話を試みるのだった。


『ソフィ、度々すまんが聞きたいことがある』


『なあに? 私が今勉強中のビデオタイトルとか?』


『それはそれで物凄く気になるが、クリスの避妊の件についてだ』


『あら、バレてしまったのね』


『今まさに3人で話し合い中だ』


『クリスを責めてはダメよ?』


『責めてない。逆に褒めた』


『上出来よ。で、避妊の何が聞きたかったの?』


『飲んでいる最中は妊娠しないよな? それと避妊薬をやめても準備とかですぐには妊娠しないんだろ?』


『そうよ、服用中は妊娠しないようにしたし、やめても妊娠する準備が必要なの』


『で、仮に服用をやめた時に、俺が懐妊魔法を使った場合の妊娠確率は?』


『1発大当たりよ』


『え……妊娠する準備は……?』


『地球と異世界では教育に差があるのよ。進んでいる文明が違うのだから』


『つまり……?』


『教えた場合は別として、異世界の人が何故妊娠するかのメカニズムなんて知っているわけないでしょう? 電子顕微鏡なんてないのよ? あなたの作り出した魔法はメカニズムをある程度知っている上での魔法よ? 即排卵を促すのだから準備なんてないわ』


『わかった……つまり避妊薬をやめたら全く問題ないと』


『そういうこと。クリスの体の中から避妊薬の成分を抜いておくから、この際、魔法を使って2人を一緒に孕ませなさい。あと、帝城へ送った時にアビーも孕ませるのよ? アビーだけ自然任せなんてしないようにね。クララに関してはあなたに任せるわ』


『助かった。ありがとう』


 ソフィーリアとの会話を終えたケビンが2人へ丸く収まる方法を伝えたら、それを聞いたティナがクリスへ抱きついて泣きながら喜ぶと、クリスはクリスでどこかホッとした表情でティナを慰めていた。


 その後、ケビンは適当な理由をつけてクララとニコルに2人と一緒に寝ることを伝えたら、別室に3人でこもるのだった。


 それを聞いたクララとニコルは特に反対もせずに、「会えていなかった分をたっぷり愛してあげるのだ」とクララからのエールを受け取り、ケビンはその言葉に甘えることにしたのであった。

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