第329話 ようやく辿りついたリーマの街
バイコーンたちとの旅を続けていたケビンたちは探知範囲内でわりかし近くに魔物が捕捉されれば、アリスの実践訓練とパーティーの連携訓練のため、度々横道にそれては狩りを続けていた。
「なぁ主殿……私も混ざりたいのだが……」
「クララが混ざったら訓練にならないだろ?」
「ぬぅ……暇なのだが……」
「俺と会話するのは暇なのか?」
「ズルいぞ、主殿は」
ドラゴンゆえの特性なのか、戦闘が始まればうずうずとするようでケビンに尋ねてみるも、軽くあしらわれてしまいクララは我慢するしかなかったのだった。
やがて戦闘が終わると女性たちがケビンの元までやってくる。
「ケビン君、そろそろ街につくんじゃない?」
「ああ、確か【リーマ】っていう街につくな」
「バイコーンのおかげで馬車を使うよりも早く進めたわね」
「予想外な速度」
「久しぶりに人がいる所だね」
「村とかは敬遠していましたからね」
「そこはガルフさん式にしたから仕方がないよ」
ケビンはガルフの旅の仕方を踏襲して、村に寄ることはしなかったのである。自国であれば様子見がてら寄っても良かったのだが、他国であったためにそこまで深く考えずに敬遠していたのだ。
そしてもう少しで街につくとあってか、この日は適度に狩りを続けて先を急がず野営することとなった。
「いつ見ても不思議よのぉ」
クララはケビンが【無限収納】から携帯ハウスを取り出すと、外観を眺めながら独り言ちるのである。
クララが仲間になってからしばらく経っているので、パーティーメンバーとの仲も既に親密になっていた。それもひとえに肉体的な親密が過分に含まれているからに違いない。
その理由として、ケビンがニコルとクララを抱いてからというもの、野営をする時は毎晩全員で肌を重ねることになったからだ。
ちなみに、翌朝までしていた時には出発が昼過ぎになるということを繰り返したりもして、旅の行程は思いのほか進んでいない。
それでもバイコーンたちのおかげで完全に遅れるということはなかった。
そういうこともあってか、町が近くにあろうともそこへは寄らずに全員が一緒になれる携帯ハウスばかりを使っているから、必然的に遅れてしまうのは致し方ないと言える。
ケビンたちが町を使わないのは、ひとえに全員が一緒に寝れる部屋が確保できないからだ。
ケビンが別に良くても嫁たちがそれを許さない。よって、町に寄ることは食料品物色くらいしか用事がないのだった。
次の街リーマでも日中に散策したら夜になる前には街の外に出て、携帯ハウスを使っての寝泊まりになることは間違いないだろう。
そして、今日も今日とてケビンたちは必然とばかりに肌を重ね合わせて朝を迎える。
「朝だなぁ……」
「今日も主殿は余裕そうだの」
「そういうクララだって余裕じゃないか」
「私はドラゴンだからな。人種とはスタミナが端から違うのだ」
「やってる最中はすぐにダウンするくせに」
「うぅぅ……それを言うでない。恥ずかしかろう……」
「クララが恥ずかしがるようになるとはな。スッポンポンで平然としていた頃とはえらい違いだ」
「私をこういう風にしたのは主殿だぞ。責任を取ってもらうからな」
ケビンはクララの傍へと行って座ると、後ろから抱き寄せて耳元で囁いた。
「ずっと一緒にいるって言っただろ?」
「んんっ……ゾクゾクする……んあっ、おっぱいを揉むでない。それと主殿、腰に固いものが当たっておるぞ?」
「クララの抱き心地がいいからな」
「他の者はダウンしておるし、私を抱くか?」
「そうだな。こうなった責任を取ってもらおうか」
「主殿がおっぱいを揉むからであろう……んんっ……」
もう既に朝だと言うのにケビンは出発の準備をするでもなく、クララを抱いて情欲を発散させるのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
それから数日後、ようやくケビンたちはリーマの街へと到着する。さすがにバイコーンを連れて歩けないので、事前に送還してからは徒歩にて街の門を目指していた。
そして門にて衛兵に身分証を見せて入街するのだが、最初の町でケビンが冒険者ギルドのギルドカードを見せた時に衛兵が「しょ、少々お待ち下さい!」と言って上官の所へ走って行き、確認が取れるまでは足止めをくらって待たされた経緯もあってか、それ以降は商業ギルドのギルドカードを見せて身分証代わりにしていた。
商業ギルドのギルドカードでも、年若いケビンがプラチナカードを持っているのが信じられないようで2度見されたりもするが、冒険者ギルドのギルドカードよりかはマシな対応であったために、そちらを多用することになったのだ。
ちなみにクララのギルドカードは、仲間にしたあと近くの町で登録を済ませておいたので入街に問題はなかった。そのカードを作る際には、クララの着崩した着物姿で男性冒険者たちが前屈みになったのは言うまでもない。
「まずは冒険者ギルドかな。姉さんとアリスとクララのランクアップの確認をするか」
「私はどうでもいいのだがな。Fから変わらぬだろうしの」
「少しは魔物を倒しているんだから上がるさ」
「とうとうランクアップですね!」
「早くAランクに上がりたいわ」
「魔物の討伐数が少ないからAランクはまだまだ先だよ。推薦してもいいけどアリスだけ低ランクなんて可哀想だろ? 実戦経験を積ませている最中なんだから」
「仕方ないわね、アリスだけ置いてきぼりにするのは私だって嫌だもの」
「シーラさん、ありがとうございます!」
「それとクララ。ちょっとこっちに来てくれ」
「何だ?」
クララがケビンの傍までやって来ると、ケビンはクララの着崩した着物を正していくと、大胆に見えていたこぼれそうな谷間を隠してしまう。
「ぬぅ……主殿、キツイではないか」
「クララの姿は男にとって目の毒なんだよ」
「別に有象無象に見られたところで構わぬぞ? 私からしてみれば虫に見られておるようなものだ」
「俺が構うんだよ。何で見ず知らずの男どもに俺のクララのエロい谷間を見せなきゃならないんだ。見せるなら俺だけにしろ」
「ほう……主殿が嫉妬か。可愛いのう、よしよし……」
ケビンが見せた独占欲に気を良くしたクララは、ケビンの頭に手を乗せて撫でるのだった。
「子供扱いするなって言っても、クララの年齢からすれば俺は子供以下の赤子だな」
「別に年齢など関係ない。主殿が可愛く見えたから撫でただけだ。これからは人目のあるところでは隠すとしよう。私の体は主殿のものだしな」
胸の辺りがキツくて不快だったクララは、嫉妬したケビンが可愛くてそんな気持ちも消え失せ、逆にご機嫌となってこれからは気をつけるようにするのである。
ケビンがご機嫌なクララに腕を組まれて到着したギルドで3人のランクアップを確認したところ、晴れてシーラとアリスはDランクに、クララはEランクに昇格することができた。
それから道中で倒した魔物を解体済みで納品してシーラとアリスのギルドカードに振り込むように依頼したら、暇つぶしにケビンたちはクエストを受けることにするのだった。
「ケビン君、どれにする?」
「面白みに欠けるよなぁ」
「アリスの訓練」
「そうよ、ケビンの好みだけで決めてはダメよ」
「ケビン様、私のことは気にされないで好きなクエストをお受けください」
「いや、アリスを一人前にするのが優先だ。アリスも早くダンジョンに潜りたいだろ?」
「ダンジョンですか!? 行ってみたいです!」
「アリスがケビン君の洗礼を受けるのもそう遠くない話ね」
「ケビン君はアリスに甘い。激甘」
「またみんなで走り回れるかな?」
ケビンによるダンジョンを使った育成法の経験者はそれぞれの思いを口にするが、未だ経験のないアリスは興味津々でシーラは重く考えず、ニコルは平然としていた。
「主殿よ、私も潜ってみたいぞ」
「クララはダメだ」
「何故だ!?」
「何故ってクララが1人で全てを蹂躙するだろ。それだと他の者の訓練にならない。クララを潜らせるなら力に制限をかけて一般人レベルまで落とす。それでもいいか? 早い話が人と同じ強さまでパワーダウンするということだ」
「ぬぅ……白種の長である私が人間如きの弱さまで……だが、みんなと同じ強さなら一緒に潜れる……ぐぬぬ……」
クララがプライドと参加する条件に挟まれて悩んでいる中、慌ただしくギルド内へ駆け込んできた冒険者らしき者が声を挙げた。
「た、大変だ!」
その声にギルド内の者たちが一斉に視線を向けると、近くにいた冒険者が続きを促す。
「何をそんなに焦っている? 浮気でもバレたか?」
冒険者の言葉に周りの者たちから笑い声が挙がるが、駆け込んできた者はそれどころではないと否定をする。
「そんな恥をここで晒すわけがねぇだろ! それよりもワイバーンが現れたんだよ!」
「ワイバーンなんか珍しくもないだろ」
「飛んでいる場所がまずい。白蛇様の社の辺りなんだぞ!」
「何だと!?」
「しかも1匹じゃねぇ、遠目で5匹くらい飛んでやがる!」
「おい、受付嬢! ギルドマスターに至急伝えろ、緊急案件だ!」
バタバタとしだしたギルド内にてケビンは我関せずといった感じで、相も変わらずクエストを物色していた。
「ケビン君、面白そうなことが起きてるよ!」
「んー……何かあったのか?」
面白そうなことが起きそうだと予感したクリスは、先程の冒険者たちのやり取りでしっかりと聞き耳を立てて情報収集を図っていたようである。
その情報を聞いたケビンは「確かに面白そうだ」と返すが、持ちうる情報の少なさに面倒くさそうとも思うのであった。
「トカゲモドキが我が物顔で飛んでおるようだの」
クララの発言を聞いたケビンは、ドラゴンがトカゲ扱いをされたら怒るというのに、ワイバーンのことはトカゲ扱いをするのだなとクララの自己理論を知るのである。
そのような中で、ホールに現れたギルドマスターが冒険者たちへ聞こえるように声を挙げる。
「Bランク以上の冒険者が対象だが、斥候の得意な奴はいるか? 今は1つでも正確な情報が欲しい。クエストとして発注するから報酬を出すぞ」
ギルドマスターが告げる内容に男性冒険者が名乗りを挙げると、話が纏まったのかその男性はギルドから早馬を借りて現地へ向かって行った。
「この街を治める領主様に遣いを出したから、すぐにでもクエストが発注される。参加するものたちは準備を進めておいてくれ」
ギルドマスターが説明を続ける中で、ティナがケビンへと問いかける。
「ケビン君、どうするの?」
「どうするかなぁ……」
「ちなみに何匹いるかわかる?」
「んー……動いていないのを合わせると15匹だな」
「それ、教えてあげた方がよくない? 動いていないなら陸地に降りてて駆け込んできた冒険者が遠くから確認できなかったってことだよね? クリスの話だと5匹くらいって言ってたみたいだし」
「それを伝えてどうする?」
「え……?」
「次に返される言葉は『何故そんなことがわかるんだ?』だ。当然俺は自分の能力を親交のない他人に教えるつもりはない。それに、さっき斥候としてクエストを受けた冒険者の依頼を横取りする形になるし、最悪報酬が減らされるかも知れない」
「この件ではケビン君が正論だね。ティナはもう少し先まで予測した方がいいよ」
「……ごめん」
「気にするな。ティナの何とかして手助けしようとする考えは褒められたものだ。現場に向かった斥候だって馬鹿じゃない。遠目で見ただけで戻っては来ないだろう。それだと駆け込んできた冒険者と同じになるからな」
「ケビン、受けるクエストは決めたの?」
「アリスのことを鑑みると、それなりに良さそうなのはあるかな」
「本当ですか!」
「ああ、とりあえず昼飯でも食べに行こうか? 受ける受けないは別として斥候が持って帰ってくる情報には興味がある。大したことなければアリス用のクエストを受けよう」
それからケビンたちはギルドを後にして、街を散策しながら食べ物屋を探し始める。
この街はどうやら工芸品が名物らしく、比較的多くの焼き物が売られていた。それぞれの店にはその店独自の製法でもあるのか、基本は同じでも色々な造形があり、見ていて飽きないほどである。
「職人の技は凄いな」
「私はケビン君がケン君の時に作ってくれたコップの方が好きだけど」
「まだ持っててくれたんだ」
「私もある。宝物」
「え、なになに? 2人だけ何か作ってもらったの?」
クリスの問いかけに2人はそれぞれマジックポーチから、以前ケビンが作った湯のみを取り出した。
「ガルフたちと旅をしていた時にプレゼントしてくれたの」
「ケビン、お姉ちゃんも欲しい!」
ティナとニーナが取り出した湯のみ見たさに、女性たちは2人を囲いこんでケビン作の湯のみを触ってみたりしていたのだった。
「そのうちね」
それから食事を食べ終わったケビンたちは、すぐさま斥候が戻ってくることはなさそうなのでアリス用にクエストを受けるという話に落ち着くと、何事も経験だということでアリス自身にクエストを受けさせて、冒険者活動を満喫させるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます