第326話 休養日にバニーと妹を添えて

 携帯ハウスへと戻ってきたケビンは、魔法を解除してドアを開けると思わず息を呑んだ。


 目の前に広がる光景は疲れきっている女性たちであり、昨日までの元気な姿は見て取れない。


 ドアの開く音とケビンの姿を捉えた女性たちはクララを除いて一斉に駆け寄ると、ケビンへ泣きながら謝罪の嵐を巻き起こす。


「えーっと、とりあえず落ち着こうか?」


 女性たちに抱きつかれてはもみくちゃにされているケビンは、テーブルへ全員を誘導させると【無限収納】から紅茶を取り出して差し出していく。


「もしかして寝てないの?」


 女性たちは揃ってケビンを怒らせてしまったことを気にしており、そのような事態の中で寝ることなどできないと主張してきて、その中で元気はないが比較的落ち着いているクララがケビンへ謝罪をする。


「主殿……申し訳なかった。ここまでのことになろうとは予想だにせんかった。私は巣に帰ってもう姿を見せぬから主殿は女性たちと旅を続けるといい」


「いや、それはもういい。自分の中で折り合いをつけたから」


「……私がいても良いのか? 迷惑じゃあ……」


「俺がいいって言ったんだから気にするな。一緒にいろ」


 ケビンからいてもいいと告げられたクララは目を見開いて驚いていた。そして昨日の行動が気になるのかケビンへとそのことを尋ねるのである。


「それで主殿は何をしていたのだ? 居場所はわかっておったが」


「それは――」


 ケビンは昨日、戦闘を繰り返して気持ちを発散させていたことと、月見酒を帝城でしていたことを伝えるのだった。


「とまぁ、最終的にはオリビアに癒されてた」


「そうか……」


 ケビンが女性たちへ当たり散らさないように、1人で戦闘に勤しんでは発散させていた経緯を聞いた女性たちは益々泣き始めてしまうのであった。


 しかし、本当に泣きたいのは八つ当たりをされてしまった魔物たちだろうが、誰もそのことに気づくことはない。


「クララ、俺が出ていったあとのことを聞かせてくれ」


 ケビンの要望に応えたクララが、昨日からケビンが戻ってくるまでのことを簡単に説明していく。


「ソフィのことを喋ったのか……」


 情報を漏らした当の本人であるティナは、その言葉にビクッと体を震わせてケビンへ謝るのだった。


「ごめんなざい……ゆるじでぐだざい……」


 ティナの顔は涙と鼻水で散々な結果となっており、それを見たケビンはさすがに追い討ちはかけられないと早々に叱ることを諦めて、拡散防止に努めることにした。


「クララ、ソフィのことは誰にも喋るな。これはお願いじゃなくて命令だ」


「わかった。主殿の命令とあらばその秘密は墓場まで持っていこう。私の墓場ができるかどうかわからぬが」


「よし、今日の旅はなしだ。1日中、休養日にする」


 クララのちょっとした気遣いで場を和ませようと喋った内容を、ケビンは完全にスルーして今日を休養日に設定するのだった。


「とりあえず風呂からだ。みんな行くよ」


 ケビンの言葉にぞろぞろと女性たちは立ち上がり風呂場へと向かうが、この場に留まるものもいた。


「ニコル、こっそり泣いているのはわかっているぞ。ニコルも風呂場へ行くんだ」


「ケビン様……罰もなく恩赦を受けるなど騎士としてはあるまじきこと」


「ニコル……騎士道と俺とではどっちが大事でどっちが優先だ?」


「くっ……どちらもケビン様に決まっております」


「なら風呂場へ向かえ」


 ケビンから究極の選択を迫られたニコルは、あっさりと騎士道よりもケビンの言葉を優先して風呂場へと向かうのであった。


「クララ、お前もだ」


「私はドラゴンだ。風呂に入る習慣なんてないぞ」


「俺のそばにいたいなら清潔にしていろ。いくら見た目が良くても体の手入れをしない奴は傍に置きたくないぞ?」


「ぬぅ……ドラゴンは体など洗わぬのが普通なのだが」


「うだうだ言ってないで行くぞ」


 ケビンはクララの手を掴むと立ち上がらせて、強制的に風呂場へと連行するのである。


「主殿はそこらのオスよりもオスらしいな」


「俺をオス呼ばわりするのはお前くらいだぞ」


「仕方なかろう。私はドラゴンなのだ」


「今は人の身だろ」


 クララを引き連れて風呂場へと到着したケビンは、女性たちが裸になって待っているのを見て驚いてしまう。


「何で中に入ってないの?」


「ケビン君が入っていないからみんなで待ってたんだよ」


 もうだいぶ落ち着いてきたのかクリスがそう伝えると、ケビンは風邪をひかせないためにそそくさと服を脱いでいき、そのあとでクララの着物も脱がせていく。


「あっ」


「どうしたのだ?」


「どうせなら『あ~れ~』ってやっておけば良かったなと思ったんだ」


「何だそれは?」


 ケビンはクララへ着物の様式美として『あ~れ~』を伝えていくと、クララは鼻で笑うのだった。


「ほんに主殿はよくわからんものが好きだな。したいのであれば風呂上がりでも良かろう?」


「それもありだが、それよりも下着はどうした?」


「そんなものつけるわけがないだろう」


「ん? 着物に下着はつけないのか? あれ……どうだったかな?」


「ドラゴンが下着なぞ着ると思うのか? 服も本来は着ないのだぞ。これは人間の真似をしているだけだ」


「ただの露出狂か……」


「それよりも風呂へ入るのであろう? 早うせぬか」


 脱衣をケビンに任せっきりであるというのに、クララは早く脱がせるようにせがむのである。そしてせがまれたケビンは着物を脱がせてクララを裸にすると、浴室の中へと入っていくのだった。


 風呂に入ってからは1人ずつ洗ってあげて、それから湯船に浸かったケビンは木々の香りを楽しみながら落ち着くと、みんなを和ませようとしてお喋りを始める。


 だが、女性たちの中でも1番落ち込んでいるのがティナであり、ソフィーリアのことをうっかり喋ったことやアリスに諌められたことが関係しているようで、中々落ち込み状態から回復しない。


「へぇーアリスがねぇ……」


「ケビン様、もうそのことはお忘れください」


「あの時のアリスは王族の風格が出てたよ」


「みんな黙ってしまったわ」


「王女の威厳」


「皇后陛下に相応しい威厳でした」


 このような会話の中でも、ティナはぐずっているのでケビンが後ろから抱きかかえてあやしている。


 それからお風呂から上がったケビンたちは揃って寝室へと向かい、おやすみタイムに入るのだった。


 ケビンを含めて誰も寝ていなかったのでちょうどいいのだが、風呂上がりのせいもあってか目が覚めてしまい、中々寝つくことはできなかった。


 そのような中でティナはケビンの上で横になっており、絶賛慰められ中であるが、ケビンを見つめるとおもむろに口を開いた。


「ねぇケビン君……」


「何?」


「仲直りのエッチしよ」


 ティナのいきなり発した内容にケビンは目が点となる。


「何でまた……」


「あのね、帝城の城下を散策している時に――」


 ティナは暇ができると街を散策して本屋を巡るそうだ。そして、その理由が夫婦円満の秘訣や楽しい子作り、初めての子育てなど妻としてやるべきことや、これから迎えるであろう未来のことを勉強するためだと言う。


 そしてその中でも夫婦円満の秘訣とやらが書かれている本に、夫と喧嘩をしてしまった時の体験談コーナーでティナの言う「仲直りのエッチ」が多数書かれていたそうだ。


「それでね、表面上は仲直りできていても内面はまだわからないって書いてあったの。だから仲直りのエッチができたら内面でもちゃんと仲直りができてるって書かれてたの」


「マジ……?」


「うん。感情で譲れない部分があるとエッチはできなくて、例えしたとしてもあっさり終わらせてしまうんだって。だから仲直りのエッチがいつもみたいにできたら、ちゃんと仲直りしたってことになるんだって書いてあったよ」


「ここにはまだ抱いてないニコルや、一緒に寝ることを許したクララがいるんだけど……」


「私は見られても平気だよ。今までだって3人でやってたりしたから」


「いやぁ……恥ずかしがり屋の姉さんもいるしねぇ……」


「じゃあ、みんなで仲直りのエッチしよ。みんなですれば恥ずかしくないよ」


 ティナのぶっ飛んだ発想に周りの女性たちも目が点となった。


「ケビン君のしたいことをしていいから」


「うーん……」


 少し悩み始めたケビンに対して、ここぞとばかりにティナの称号が火を噴くと、ケビンはあっさり陥落するのである。


「よし、仲直りエッチをしよう! 《換装》」


 ケビンが己の欲のためだけに創り出した魔法で、ティナの姿はネグリジェからバニーガールへと変更された。


「ティナは語尾に“ぴょん”をつけるんだ」


「わかったぴょん。ティナは今からケビン君専属のウサギだぴょん」


 いきなり始まるぶっ飛んだピンクな展開に、周りの女性たちは唖然としてしまう。


「恐るべし、エロフ……」


 ニーナの呟きに他の女性たちも頷きを返して同意するのだった。


「これが噂に聞くティナ流誘惑術なのですね。勉強になります。帰ったらレティに教えないと……」


 誘惑に負けたケビンの不注意でアリスは新たな扉を開きつつあった。そしてそれは必然としてスカーレットへと伝播していくのである。


 そのようなことが周りで起きているとも知らずに、しばらくすると我慢の限界にきたティナがケビンへと伝える。


「も、もう我慢できないぴょん! ケビン君脱ぐぴょん!」


 そしてティナと肌を重ねたケビンがティナを絶頂させると、余韻に浸っているティナを横に寝かせて、次のお相手をどうしようかと考え始めた。


 ケビンの頭の中には既にクララが見ていることなど抜け落ちており、ヤル気モード全開で休養日を満喫するつもりになっている。


 そのような考えごとをしていたケビンの背中に柔らかい感触が当たる。


「にぃに、アリスとエッチなこと……しよ?」


「ッ!」


 アリスの“にぃに”呼びでケビンの理性は崩壊した。


「きゃっ」


 アリスを押し倒したケビンは躊躇いなく肌を重ね合わせる。


「にぃに、にぃに……」


 ケビンによってアリスが余韻に浸っていると、ケビンはひと息いれるのであった。

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