第307話 溜まる書類業務
翌朝、朝食を済ませたケビンは執務室に呼び出されて嫌な予感がしながらも向かうと、ケイトから山のような書類を受け取るのだった。
「え……何これ?」
「貴方の決裁が必要な書類よ」
「ケイトがする訳には……?」
「私は貴方が冒険中にあまり戻ってこなくてもいいようにと、前倒しできる案件を優先的に処理しているのよ? 優しいと思わない?」
有無を言わさないケイトの視線がケビンを射抜いて、抵抗はやめようと話を合わせることにした。
「……優しいです」
「わかってくれて嬉しいわ。それなら自分がすべきこともわかるわよね?」
「……わかります」
満面の笑みで納得しているケイトを見てしまい、ケビンは携帯ハウス造りを諦めて書類業務に取りかかるのだった。
そしてケビンへ書類を渡したケイトは、ソファでくつろぎながら他の書類へと目を通し始める。
その光景を目にしたケビンはケイトをソファの端へ追いやると、地べたに書類を積み重ねてケイトの太腿を枕代わりしたあと、山から1枚書類を手に取っては目を通し始めた。
「貴方、私が作業しづらいわ」
「嫌か?」
「嫌だったらどかしているわよ」
「それなら問題ないな。俺はこうしていたい」
「もう……」
動く気のないケビンのワガママをケイトは頬を染めながら許容して、書類作業を再開するのであった。
それから黙々とケビンは書類に目を通していき、サインが必要な物と目を通すだけで済む報告書を分別しながらテーブルへと積み重ねていく。
そして、寝ている状態で書類を重ねられなくなると、わざわざ起き上がってまでそこへ置くのが面倒くさいと思ってしまい、それだけのために才能の無駄遣いをしてしまう。
ケビンがしたのは、テーブルの奥へと追いやるために【創造】でレイクを作り出したことだ。
無事に寝たまま作業を完遂したケビンは、再び書類へ目を通す作業へと移行するのであった。
「だらしがないわね」
「ケイトから離れたくないんだ。見逃してくれ」
「そう言えば私が見逃すとでも?」
「優しいケイトなら見逃してくれるだろ?」
「たまには凛々しいところが見たいんだけど」
「……仕方ないな」
ケイトから言われてしまったケビンは名残惜しくも起き上がり、渡された書類を執務机へと運んで作業を再開させた。
それから黙々と作業を続けるケビンは、ふと思い出したかのようにケイトへ尋ねるのだった。
「そういえばアイリスは何をしてるんだ?」
「別の執務をしているわよ」
「上手くやれてるか?」
「ええ、差し障りのない書類業務から始めさせているから」
「それならいいや」
アイリスが問題なく仕事ができていることを確認したら、ケビンはそのまま喋ることもなく書類を片付けていくのである。
黙々と片付けていくケビンの姿を見たケイトは、『いつもこうだといいのに』と思いながらも自分の書類を片付けていく。
真面目モードになったケビンの処理速度は速くなり、山のようにあった書類もみるみるうちに減っていくと、ケビンよりも書類が少なかったケイトを追い越して先に終わらせてしまうのだった。
そして、仕事をきちんと終わらせたケビンは、再びケイトの膝枕を堪能し始める。
「そんなに気に入ったの?」
「気に入らなきゃ戻ってこないだろ」
「他にもしてくれる人はいるでしょう? 仕事を片付けたならここにいる必要はないわよ?」
「今はケイトとの時間だ」
ケビンから伝えられた言葉を聞いたケイトは顔に出てしまわないよう振る舞い、ドキドキと鼓動を速めながらも処理速度を落とすと、ゆっくりと時間をかけながら書類へ目を通し始める。
それに気づいたケビンはあえて何も言わずに、ケイトがケビンと一緒にいたくて時間を引き伸ばしている行動をいじらしく思いながら、穏やかな時間を過ごすのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
その日の夜、ケビンの部屋へ訪れたのはサーシャとアビゲイルだったので、ギルドの運営状況が気になっていたケビンはそのことについて話を聞いてみることにしたのだった。
「ギルドの調子はどう?」
「相変わらず暇ね」
「旦那様たちが魔物を狩っていましたので、あまり討伐クエストがないのです」
「それで今のところ採取クエストか護衛クエストくらいしかなくて、冒険者たちの集まりも悪いわね」
「まぁ、そのうち魔物も増えるだろ。なんならゴブリンでも運んでみるか? あいつらなら繁殖力が強いからすぐにでも数が増えるだろ?」
「やめてよ。一般人が襲われて苗床にされたらどうするのよ?」
「それもそうだな」
「高ランク冒険者たちの満足がいくようなクエストを発注できるのは、もうしばらく日にちがかかるでしょう」
「こんなことなら、もう少し手加減して間引けば良かったな」
「危険な地区になるより全然いいわよ」
それからしばらくギルドの話を続けながらゆったりとした時間を過ごしていたが、アビゲイルがおもむろにこれからする行為への不安を口にするのだった。
「旦那様、本当に3人でするのですか?」
「そうだね。恥ずかしいなら1人ずつでも構わないよ」
「いえ、皆様にご迷惑をおかけするわけにはいきません」
「そこまで気にしなくていいわよ。私だって恥ずかしいのは変わらないんだし」
「でもサーシャは他の方と一緒でも大丈夫なのでしょう?」
「大丈夫というより、覚悟したと言った方が早いかな」
「覚悟?」
「結局、ケビン君は無自覚で節操なしのハーレム作りをしているわけで、夜の営みも複数人で回さないとみんなが平等に愛してもらえないし、1人ずつだと下手したら月に数回抱いてもらえるかどうかになるじゃない?」
「そうですが……」
こっそり聞いていたケビンはサーシャの「無自覚で節操なし」という言葉で凹んでしまい、アビゲイルが更に肯定したことで女性たちから自分がどう思われているのか改めて思い知り打ちひしがれるのである。
サーシャはケビンが地味にダメージを負っていることなど気づきもせずに、アビーとの語り合いを続けていく。
「アビーだって本当はいっぱい抱いて欲しいでしょ? せっかくアビーのことを色眼鏡で見ない人と結婚できたんだし」
「……はい」
「だから私は覚悟したの。今まではティナとニーナを除いて1人ずつ抱いてもらっていたけど、ケビン君の子供が欲しくなったらそうも言ってられないなって」
サーシャにかけられた言葉で何か思うところがあったのか、アビーは俯いて考え込んでしまう。
そのようなアビーを見たケビンは、本人たちの預かり知らぬところでダメージを与えられてしまったことなどおくびにも出さずに、再び無理しなくてもいいと気遣いながら声をかけた。
「いえ、決めました。旦那様の望む形で閨をお供するのも妻の務めです」
「そんなに気負わなくてもいいよ」
「そういうわけにもいきません。私たち妻が身篭らなければ他の女性たちを幸せにすることができないのです。そうなると皆を幸せにするという旦那様の意思に背きます」
「無理してない?」
「していません。それに時間は有限です。私やティナみたいに長命種であればのんびりと構えていられますが、ほとんどの方は人族です。時間に限りがあるのです。そして、御子を身篭るのはもっと時間が限られてきます」
「わかった」
「それじゃあ、アビーも決意を固めたことだし、2人でケビン君にいっぱい愛してもらいましょう」
サーシャはアビーの気持ちが固まったことで、気後れして揺るがないようにそそくさと服を脱ぎ始めてしまう。
それを見たアビゲイルも服を脱ごうとするが羞恥心があるようでまごまごと脱いでいたが、脱ぎ終わったサーシャが勢いよくアビゲイルの服を脱がしてしまった。
「サ、サーシャ!」
「こういうのは勢いが大事なのよ」
一糸まとわぬ姿になった2人を見て、ケビンも服を脱ぎ始める。その間にサーシャはアビゲイルへと口づけをした。
「ッ!」
アビゲイルはあまりのことに目が点となって状況についていけず、サーシャからされるがままになってしまう。
やがて唇を離したサーシャへ、アビゲイルが抗議の視線を向けて口を開いた。
「サーシャ、何をするんですか」
「ティナが言ってたのよ、女同士でするのも悪くないって。王都にいた時からそういう話はちょくちょく耳にしていたからね。興味があったのよ」
「それにしても」
「アビーだって満更じゃなかったんでしょ? 嫌なら払いのければいいんだし、元冒険者なら私よりも確実に力はあるはずよ?」
「それは……そうですが……」
「さっきも言ったでしょ? こういうのは勢いが大事なのよ。それにほら? 私たちを見てケビン君もやる気になっているわ」
サーシャに促されてアビゲイルの視線がケビンへ向くと、そこにはいきり立たせて準備万端であるケビンの姿があった。
「旦那様……」
「ね? だから私たちも楽しみましょ?」
アビゲイルへそう告げたサーシャは再び顔を近づけて口づけを交わした。先程とは違ってアビゲイルも積極的ではないにしろ、サーシャの行動を受け入れてその身を委ねる。
「んっ……サ、サーシャ……」
「カワイイわよ、アビー……」
それから2人に混ざって交互に愛していくケビンは、いつも通り朝まで肌を重ね合わせていくのであった。
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