第176話 カジノで息抜き
部屋へ戻ると、ケビンは手早くタキシードに着替えた。女性陣はマヒナも含めて別室で着替え中である。
やがて着替えを終えた女性陣が部屋から出てくる。
「……」
ケビンはドレス姿の女性陣を見て、言葉を失った。日頃から冒険者としての服装しか見ておらず、こういった畏まるような服装を見るのは、初めてのことだったからだ。
ティナは若草色のトップレスドレスで、前面は胸までしかなく背面は肩甲骨の下あたりまでで、丈の長さはくるぶしまであるようだ。
持ち前の大きい胸は、こぼれそうなくらいに主張しており、窮屈そうに圧迫されている。
首元の刺繍が施されたチョーカーから、薄い若草色のシースルーレースがドレス全体を覆っており、腰元のくびれ部分には花をあしらった様な装飾が施されていた。
ニーナは藤色のベアトップロングドレスで、恥ずかしがり屋の本人からしてみれば、かなり頑張ったのだろう。いつもは露出度ゼロと言っても過言ではない、魔術師スタイルなのだから。
胸下が何故か絞られており、前面と背面に宝石の装飾が散りばめられて、デザイン的に花をあしらっているようだ。そのせいで、大きい胸が更に強調されて破壊力がとんでもないことになっている。
ルルは紺色のフィット&フレアーのワンピースドレスを選択したようで、花柄レースのハイネックリボンがアクセントとなっており、胸より上の部分や背中、両腕などがシースルーで露出されている。
丈は膝下ぐらいまでで、メイド服の丈とさほど変わりはしないようだ。このメンバーの中では1番大人しめのドレスだ。
マヒナはかなり攻めてきているのか、大人の色香を全面に押し出してきていた。
黒色のワイドVネックにオフショルダーのロングドレスで、太腿からスリットが入っており、艶めかしい生脚が見え隠れしている。
胸はニーナより少し小さいくらいで、Vネックの付け根部分から谷間が完全に見えている。
これは完全にエロスを追求して来たかのように、誰から見ても誘惑されているんじゃないかと、錯覚してしまいそうである。
「ケビン君、どうかしたの?」
「みんながあまりにも綺麗だから、言葉が出なかったんだよ。本当に凄く綺麗だ。ドレスを贈った甲斐があるってもんだよ」
「「「「ッ!」」」」
「それと俺からしてみれば、他の男どもがみんなのドレス姿を見ると思うと、焼きもちを焼きすぎてカジノに行かせたくない気持ちも出てきてね、綺麗なみんなを見れて喜ぶ半面、独占しておきたいって気持ちもあるから、モヤモヤしてきたよ」
「「「「――ッ!!」」」」
「まぁ、折角だしカジノには行くんだけど、みんなをエスコートしてあげたいのに腕は2本しかないしどうしようか? 行きと帰りで平等に分けようか?」
「「「「それでっ!!」」」」
ケビンの提案により、行きと帰りでそれぞれエスコートする相手を決めて、カジノを楽しむことになった。
「それじゃあ、今回の立役者であるマヒナさんと、いつも陰ながら頑張っているルルからにしようか?」
ケビンは、身長差のせいで腕を組むと自分が女役になると思い、恋人繋ぎで手を握ることにした。
「やっぱり身長がないと締まらないね。早く背が伸びないかなぁ……」
「ケビン様は、今のままでも充分魅力的でございます」
「そうです。私のような従業員にも優しくしていただき、ケビン様は最高でございます」
ケビンはルルとマヒナを両サイドに侍らせて、ティナとニーナは後方からついてくるよう促した。
1階へ降りると必然的に他の客の注目を集めてしまい、周りの冒険者たちや職員などから、羨む声が次々と上がってくる。
(おい、見ろよあれ! 綺麗どころを連れて歩いているぞ!)
(何だあの、うらやまけしからんガキは!)
(あれか? ショタがそんなに良いのか??)
(ちょっとあれ! コンシェルジュのマヒナさんじゃない? なんでドレス着てるの!?)
(あの子って最上階のVIPでしょ!? マヒナさん、もしかしてドレス買ってもらったの!?)
(私もコンシェルジュを希望すれば良かったぁ……所属先間違ったかなぁ?)
思い思いの妬みや羨む声が1階に伝播していくと、一目見ようとする野次馬がどんどん増えてきて、ケビンは早々とカジノスペースへと避難するのだった。
カジノの職員は、男性が黒ベストにパンツスタイルなのに対して、女性は黒ベストにミニスカスタイルだった。
その中でもひときわ目立っていたのが、バニースーツに身を包んだグラマラスなバニーガールである。
ケビンは男の性か、自然とその胸を視線で追いかけてしまい、それを感じとったティナがすかさず目の前に立ちはだかり視界を覆った。
いきなり柔らかな膨らみに包まれたケビンは、意味がわからなくなってしまうが、ティナがそんなケビンに物申した。
「ケビンくーん? 近くに、こんなにいいおっぱいがあるのに、どうして浮気しちゃうのかなあ?」
「いやぁ、男の性というかなんと言うか、目の前に山があったら登るしかないでしょ?」
(何だあの、うらやまけしからんガキは!!)
(やべえ、バニーガールなんて目じゃないほど凄いぞ!)
(あらあの子、私の胸に興味があるのかしら? あとでサービスしてあげようかしら?)
「もう、わけのわからないこと言って……早く遊びましょうよ」
ケビンたちは受付にてお金をチップに交換して、先ずはルーレットのテーブルに向かうことにした。
受け取ったチップを見てみると通貨と同じになるように、たとえ学のない冒険者たちがいても、見た目からわかりやすく分類されている。
1番安いチップは、銅貨と同じで茶色のデザインをしており、それより少し大きめになっているのが、大銅貨の代わりだろう。
宿泊客だけではなく、一般客もたまに利用することがあるらしく、レートも銅貨1枚から交換可能となっている。
次のチップは、銀貨の代わりとなる灰色のデザインで、これも銅貨と同じように2種類ある。
3枚目のチップは、金貨の代わりとなる黄色のデザインで、同じように2種類ある。ここまでがよく使われているチップだそうだ。
その上にあと2種類あり、こちらはまだケビンも本物の硬貨は見たことがなく、白金貨の代わりとなる白色のデザインと、残り1つは見る機会がほとんどないと言われている、黒金貨の代わりで黒色のデザインが施されている。
本物の白金貨と黒金貨をこの場で見ることは出来ないが、その代わりとなるチップは受付にて見せてもらった。
ケビンはチップを余分に交換すると、一部をマヒナへと渡した。
「はいこれ。マヒナさんの分だよ」
「そんな、ケビン様! 頂くわけにはいきません!」
「今日は、マヒナさんを独占するって言ったでしょ? つまり今は俺のパートナーだよ。だから気にしなくていい。折角カジノへ一緒に来たんだから存分に楽しんで」
「ご配慮ありがとうございます」
ケビンたちはルーレットの席に着くと、思い思いに賭け始めた。賭け方に性格が出てしまうのか、ティナは豪快にチップを使い、ニーナは逆に細々と賭けている。
ルルは儲けの出た分を少しずつ次に回して、マヒナは手堅く稼げるように、倍率の低いところへと賭けていき、ケビンはそれぞれの賭け方を見ながら場の空気を楽しんでいた。
そんな中、ケビンはケビンで視力に対して身体強化を存分に使い、ディーラーの癖、玉の速度と跳ね方、ホイールの回転速度などを、並列思考も駆使して考えていき、情報の整理を行っていた。
ケビンとしては、最近の出費が思ったよりも嵩んできているので、稼げる時に稼いでおこうという魂胆だ。
その頑張りの甲斐があってか、勝率がどんどん上がっていき、ルーレットの数字をピンポイントで当てることはないが、倍率の高いところで存分にチップを賭けて、手持ちのチップを次々に増やしていった。
気がつけばルーレットのテーブルはケビンの独壇場となり、ディーラーとケビンの一騎打ちと化している。参加していた客も席を離れて立見席となっていた。
そんな中、負け越している客がケビンの賭ける場所に同じように賭けようとしたが、周りの客からブーイングを浴びてしまい、泣く泣く諦めていた。
ケビンの前には、これでもかと言うほどチップが積み上げられており、山のようになっていて、視界が遮られるからと上のランクのチップへと替えれるだけ替えていた。
「ここまで勝たれたお客様は、貴方が初めてですよ」
「それはディーラーさんがイカサマをしてないからだよ。イカサマされてたら、ここまで勝てていないだろうしね」
「ご配慮ありがとうございます」
ディーラーは、ケビンの“ここのカジノはイカサマをしていない”という気遣いに感謝して、最終決戦へ挑むべく勝負を仕掛けた。
「最後に……1勝負どうでしょうか?」
「そうだね、このままルーレットだけで稼いでも、カジノを赤字に追い込んでしまうからね。その勝負受けて立つよ。普通にやっても面白くないし、俺は今までのように、アウトサイド・ベットは使わずに、インサイド・ベットだけで勝負するよ」
「宜しいのですか? 大損しますよ?」
「たとえ大損しても最初からしてみれば、利益は充分に上がっているからね」
「では、始めさせて頂きます」
男性ディーラーが、ホイールを回し始める。
「A bet on the layout.」
ケビンは時間を取られないために、素早くティナに声を掛けた。
「ティナさんって、今何歳だっけ?」
「ケビン君、女性に年齢を聞くのはどうかと思うよ?」
「それよりも早く答えて!」
「もう……そうやってすぐ焦らせるんだから。私は17歳よ。まだピチピチなんだからね」
「んー……どうするか……」
ディーラーが玉を投入する動作が見えたので、ケビンはディーラーの手の動きをみながら、話を一旦打ち切ることにして素早くチップを置いていく。
ケビンは【17】に白チップを2枚置くと、そのチップを取り囲むように8枚の白チップを置いた。合計で1億ゴールド賭けたことになる。
「No more bet.」
「あの……ケビン君? 私が言うのもなんだけど……それでよかったの? 明らかに大損だよ?」
「まぁ、見てて……俺にとっては、ティナさんが勝利の女神だからいいんだよ」
ケビンがそう答えると、ティナは頬を赤らめ何も言い返さなくなり、ニーナたち同様にことの成り行きを見守ることにした。
ディーラーとプレイヤーの一騎打ちという珍しい見世物に、カジノ内にいた客のほとんどはルーレットのテーブルを囲いこみ、決着がどうつくのかを固唾を呑んで見守っていたが、寄ってきた野次馬の客はケビンが負けると確信していた。
そんな中、ケビンが勝つと信じていたのは、ケビンを崇拝するルルとそれに近づきつつあるマヒナであった。
ケビンに対して優しいニーナでさえ、無謀とも思える賭け方、更にはティナの年齢を参考にする杜撰さに、今までの勝ち分があっという間に消えてしまうことを想像していた。
みんなが見守る中、玉は次第に勢いをなくしてポケットへと落ち始める。
(カン……カン……カン……コロコロ……カン……カンカン……コロ……)
ホイールはやがて勢いをなくし、緩やかに回転し始めていた。そこまでくれば視認するだけでどこのポケットに落ちたのか、誰が見てもわかるような速度だ。
「……え……うそ……」
ティナがボソッと呟いただけで、周りの客たちは声も出せずに、目の前で起きた現実をただただ見つめていた。
「お見事です……ディーラーとして早数十年、お客様のような豪運の持ち主に出会えたことに感謝を。私の完敗です」
静まりきったカジノ内で、ディーラーの喋る声だけが響きわたり、それを機に周りの客たちが一斉に騒ぎ出した。
そんな喧騒の中で、ケビンはティナに振り向いて椅子の上に膝立ちすると、呆然としているティナを抱き寄せて口付けをした。
「ンッ!? ……」
やがてケビンは唇を離し、一言だけ声を掛ける。
「ありがとう、勝利の女神様」
ティナはどこか心ここに在らずといった感じで、顔を赤らめてボーッとしているが、ケビンはまた椅子に座り直すと、今度はディーラーに向けて声をかけた。
「ディーラーさん、いい勝負が出来てよかったよ。楽しい時間をありがとう」
「いえ、私も久しぶりに楽しめました。まぁ、楽しんだ結果、店には大損をさせてしまいましたが……明日あたりクビが飛ぶでしょうね」
ディーラーの言うことはご最もで、ケビンの今回の勝負を受けたことによる賭け金の儲けは、180億ゴールドという途方もない数字を叩き出していた。
しかも、この他にも今までの勝ち分があるために、店としては大赤字どころか倒産の危機にすらある。
そんな折、身なりの良い中年男性がケビンに近づいてきた。
「ケビン様、賭け金の支払いについてご相談が……」
「あぁ、あまりにも巨額のために支払えないんだよね?」
「……その通りでございます」
他にも客がいる中で、支払いができないという恥を晒すかどうか迷いが出た男性だったが、これからケビンに支払い方法について譲歩してもらわなければならないため、印象を悪くしないように正直に打ち明けた。
「貴方は、ここの責任者ってこと?」
「はい。私は夢見亭カジノ部門の責任者である、ブルックと申します」
「そう。いくらなら支払える?」
「正直言いまして、夢見亭の経営を続けていくことを考えますと、100億がギリギリとなります」
「ん? カジノ部門なのに、夢見亭全体の経理のことも知ってるの?」
「ケビン様が勝たれた直後に、オーナーと連絡を取りましてオーナー自らが出した結論となります」
「そういうことか……支払い金額は、今日稼いだ残りの勝ち分も含めてそれでいいよ。そのかわりこっちから出す条件は、最上階をサービスはそのままに永続利用で、俺専用の部屋として譲渡することと、そこのディーラーさんを今後も雇い続けることだよ」
「オーナーに確認を取って参りますので、しばしお待ちを」
ブルックは足早にその場を立ち去ると、成り行きを見ていたディーラーが声をかけてきた。
「私のようなものを条件に付けて良かったのですか? もっと良い条件を飲ませることも可能だったでしょうに」
「今日は楽しかったからね。それに、ディーラーさんがクビになったら、後味悪いでしょ? これからもここで働き続けてよ」
「それには、オーナーの許可が必要ですね」
「それは心配しなくてもいいよ。オーナーはあの条件を飲むしかないから。店を潰して借金まみれになるよかマシでしょ? それに、俺はここを潰してまでお金が欲しいわけでもないし、従業員が路頭に迷うのも嫌だしね」
「寛大なご配慮、ありがとうございます」
「お礼は今度また勝負するってことで。今回はガッツリ稼いだから、次からは茶色チップだけにするよ」
「ははっ、それは楽しみですな」
ディーラーとの話が一区切りつくと、オーナーへ確認を取りに行ってたブルックが駆け寄ってきた。
「オーナーから、是非ともその条件でお願いしますとのことでした。最上階はケビン様が初めてのお客様であり、今後同じように借りる人が現れないだろうことと、従業員にまで目を向けてくれたその心に、凄く感銘を受けたとのことで、今後予定さえ合えば、今回のことも含めてお礼を申し上げたいとのことです」
「わかったよ。じゃあ、今この時からあの部屋は俺のものってことで。先に支払ったお金はそのまま貰ってくれて構わないよ。それ以上にこちらは貰うわけだし」
「ありがとうございます」
「じゃあ、これ以上カジノを荒らすわけにもいかないし、今日はもう帰るよ。またね、ディーラーさん」
「本日のご来店、ありがとうございました。またのお越しを、心よりお待ちしております」
ケビンは、ティナとニーナをエスコートするために手を繋いで、受付にチップを返却するとカジノを後にした。
ティナたちは、ケビンが遊んでいる間に換金を終わらせていたみたいで、豪快に賭けていたティナを除き、みんなそこそこに勝っていたようだった。
ケビンに対する儲け分の支払いは、後日オーナーの口座から振り込むということになった。
そしてみんなで部屋に戻ると、ティナが気になっていたことをケビンに尋ねた。
「ねぇ、ケビン君。何であんなに勝ててたの? 運がいいだけじゃないよね?」
「あぁ、玉が落ちるポイントを予測していたからだよ」
「みんな予測して勝てないんだけど?」
「ホイールの回転速度と玉の速度、跳ね方。ディーラーの癖とか、その他諸々の情報を、遊びながら収集してたんだよ」
「そんなことしてたの!?」
「そうだよ。別に情報収集はイカサマじゃないしね、ギャンブルするなら情報は宝でしょ?」
「そんなこと出来るのは、ケビン君ぐらいだよ」
「そうかな? みんなも頑張れば出来ると思うけど」
「私には無理だわ。それで最後のも当てたわけ?」
「あれは本当に運任せだよ。あそこら辺に落ちるのは見ていてわかったけど、最終的に【17】を選んだのは、ティナさんの年齢だったからだよ」
「もしニーナに聞いていたら、【16】を選んだの?」
「そうだね」
「呆れるわね。下手したら、大損するところだったのよ?」
「それでも、残りのチップだけで儲けは出ていたし、何より遊びに行ったんだから楽しまないと損でしょ?」
「それもそうだけど……」
「それよりもみんな着替えておいで。この部屋はもう俺のものだし、クローゼットにドレスをそのまま置いておけるでしょ?」
「はぁぁ……まさか最上階を自分の物にするとは……ケビン君、一生働かなくてもいいくらい稼いだわね」
ティナはそう言うと、他の者と一緒に別室へと着替えに行った。ケビンは、自分用の部屋へ向かうとタキシードを脱いで、ラフな部屋着に着替える。
「やっぱり、畏まる服装ってのは疲れるなぁ……」
リビングに戻ってみんなを待っている間に、マヒナが1人でやって来た。
「ケビン様、ドレスのことなんですが……」
「ん? ……あぁ、ドレスはマヒナさんに贈ったものだから、持って帰って大丈夫だよ。それと聞きたいんだけど、コンシェルジュって全員、外に部屋を借りてるの?」
「いえ、いつ如何なる時にでも対応できるように、予めこの宿屋の2階に職員専用部屋が割り当てられています。深夜に呼び出すような人はいませんが」
「へぇー待遇がいいんだね。それじゃあ、部屋着に着替えたあとでここに戻ってきてくれる?」
「どういうことでしょうか?」
「カジノを早めに切り上げてしまったから、今から部屋でちょっとしたパーティーをするんだよ。祝勝会みたいなものだね」
「私が参加しても宜しいのですか?」
「もちろん。一緒にカジノを楽しんだ仲なんだから」
「ありがとうございます。では、一度部屋に戻り着替えて参ります」
「早めにね。他のコンシェルジュには、俺から連絡を入れておくよ。今日は仕事を上げさせるって。横暴だけどカジノの件を考えると、何とかなると思うし」
マヒナが退室すると、ケビンは早速コンシェルジュ待機室へと連絡を入れた。
魔導通信機に出たのは初日に担当してくれたケイラで、用向きを伝えると何やら向こう側で『キャー』と騒いでる声が遠巻きに聞こえ、ケイラに尋ねるとカジノでの儲けっぷりが既に職員間に広まっており、ドレスを買ってあげたこともあり王子様的扱いになっているのだとか。
ケビンはヤレヤレと思いながらも、これからもお世話になるコンシェルジュたちを袖にするわけにもいかず、ケイラにとりあえず尋ねてみることにした。
「つかぬことを聞くけど、俺の担当になる日替わりコンシェルジュって、そこに全員揃ってるの?」
『揃っております』
「他にも、コンシェルジュとかいる?」
『別の待機室に一般客用が数名います』
「じゃあ、俺専用のコンシェルジュたちは部屋着に着替えたあと、最上階に来てくれる?」
『どういった御用でしょうか?』
「祝勝会のパーティー開くから、参加して貰うんだよ」
『……は?』
「嫌なら来なくていいよ。無理強いしたくないし」
その時、通信相手側で『ドンッ!』と大きな音がすると、聞きなれない声が聞こえてきた。
『是非参加させていただきます! ケビン様!!』
「えっと、君は? ケイラさんはどうしたの?」
『私は、明日担当することになっております、フォティアです! ケイラさんは、わけがわからなくなり転倒しました』
フォティアはケイラが転倒したと言っているが、実際はフォティアが突き飛ばして、通信機の応答役を奪ったのである。
「そ、そうなの……ケイラさんは大丈夫?」
『はい! 放っておいても死なない人なので、大丈夫です!』
それはそれでどうなのかとケビンは思ってしまうが、とりあえずケイラのことは横に置いておいて、用件を済ませることにした。
「それで、君は参加でいいんだよね? 他の人は?」
『参加しまーす!』×コンシェルジュたち
「えぇと、そっちから違う声が聞こえるんだけど、この会話って筒抜けなの?」
『はい! スピーカーモードになっております!』
「そ、そうなんだ……とりあえず、用意できたら来てくれる?」
『超特急で準備して参ります!』
「よ、よろしく……」
ケビンは、通信先に出たフォティアの元気っぷりに、タジタジとなりながらも通信を終えた。
「はぁ……元気のいいコンシェルジュだったな。ケイラさんは、大丈夫だろうか……」
ソファへと腰掛けるケビンはどこか疲れており、ボーッと天井を眺めるのであった。
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