第173話 ダンジョン攻略①
ギルドで
今までの反復練習のお陰で10階層までは難なく終わり、初めての11階層へと足を踏み入れる。
そんな中、ティナたちは緊張感もなく、世間話をしながら先へと進んでいた。
「それにしても昨日のケビン君は、カッコよかったなぁ」
「……俺の大事な婚約者……ムフッ」
「……(ケビン様の上で抱かれて寝られた……幸せすぎる!)」
ティナたちは、朝からこの調子で緩みっぱなしだった。ケビンは今のところ危険もないので放置しているが、攻略スピードがダウンしてしまうと思うと、何とも言えない気持ちになっていた。
「ティナさん、気配探知はちゃんと常時使ってるよね?」
「使ってるわよ? もしかして範囲外に魔物がいる?」
「いや、あまり浮かれすぎて忘れていないか、ちょっと不安だっただけだよ」
「そこはちゃんとメリハリつけてるわよ? これで失敗でもしようものなら、ケビン君に愛想つかされちゃうもの。それだけは、何としてでも回避するわ」
「わかってるならいいよ」
「罠の方もちゃんと警戒してるからね」
「そうみたいだね」
ティナの言った通り罠に関しては、遠くから小石を投げて発動させたりして解除できるものは解除していた。
解除不能なものに関しても、仲間に声をかけて注意を促しているのだ。浮かれているはずなのに、メリハリをつけているというのは嘘ではないらしい。
順路も何気に記憶していっているのか、同じ道をずっとグルグル回って迷うこともない。それどころか、順路を変えて近道にしたりもする。
「ティナさんが迷わないのは、エルフの特性?」
「そうよ。エルフは元々森で暮らすからね。ちょっとした違いとかで、通った道かどうかわかるのよ。まあ、訓練は必要だけどね。森に住んでいれば勝手に身につく特技みたいなものよ」
「ティナさんなのに凄いね」
「ちょっとケビン君! 私なのにってどういうことよ!?」
「いやぁ、日頃の姿を見てるとどうしても……」
「ティナはズボラ」
「ちょ、ニーナまで!」
和気藹々と探索を続けながら下層へと降りる階段を探して、途中で出てくる魔物は手早く片付けると囲まれないように努めていた。
そんなことをやっていると下層への階段を見つけて、ようやく次の階層へと足を踏み入れる。
「ここら辺はまだ弱い敵が多いね」
「そうね。10階層のボス部屋がアレだったから、何だか物足りないわね」
「確かに」
「ケビン様、ペースアップしてみてはどうでしょうか?」
「んー……そうしようか。とりあえず20階層まで俺が先導するよ」
「ケビン君、道とかわかるの? 罠とかもあるんだよ? それに魔物も湧いて出てくるし」
「全部【マップ】で確認できるから問題ないよ。途中の敵は俺が蹴散らすから」
「そのスキルって反則級よね」
「イージーモード」
「ケビン様、素晴らしいです!」
それからというものケビンが先導し始めると、あっという間に20階層まで到達した。
「やっぱり反則級よね」
「ついて行くだけだった」
「あぁ……崇高なるケビン様……」
「……それじゃあ、ボス攻略と行きますか」
ケビンは段々と狂信者化していくルルに、一抹の不安を感じるのだった。どこかで修正しなければケビン教なるものを、その内作るのではないかと思い浮かべていた。
ケビンを先頭にボス部屋へ入ると、中にはオークの群れが待ち構えていた。オークキングにオークジェネラル×2、オークナイト×6、オーク×10と、ゴブリンのときと、大して代わり映えのしないバラエティであった。
「なんか手抜き感が凄い……」
「今回は、魔法を使える奴がいないだけやりやすいわね」
「パワーでゴリ押し?」
「パワーにはスピードで対処です」
「とりあえず任せるよ。ティナさん、指揮はよろしく」
「任せて。私がオークを相手にするから、ルルはナイトを翻弄しつつ撃破して。ニーナは数が減るまで範囲魔法で対処。詠唱が終わったらぶっ放して! ルルはその時に巻き添えをくらわないように注意してね」
「了解」
「わかりました」
ティナが指揮を取ると、それぞれが動き出して戦闘を開始する。反復練習のお陰か、ティナは同時射撃を取得しており、オークに対して前衛職に引けを取らない戦いぶりを見せていた。
ニーナにしても詠唱速度が上がっており、長い詠唱であっても通常時に比べて幾分か早く発動できるようになっている。
詠唱の終わったニーナが魔法を発動する前に、ルルは戦線を離脱して距離を取っており、それを確認したニーナは魔法を発動する。
「――《ファイアストーム》」
燃え盛る火炎の火柱が直撃し、オークの群れの半数以上を亡きものにした。被害を被ったのはオークナイト2匹とオークだけで、オークキングとオークジェネラル2匹、オークナイト6匹は未だ健在である。
ここからオークたちの反撃が始まり、オークジェネラルとオークナイトで2部隊に別れて、ルルと後衛組にそれぞれ襲いかかってきた。
ルルは1人でオークジェネラルとオークナイト2匹を相手取っており、攻撃を躱しつつも、少しずつダメージをオークナイトに与えていく。
ティナとニーナは逆に、接近戦にもつれ込むと普段通りの戦いができないせいか、2人で対処しているにも関わらず苦戦していた。
ティナが矢を放つが、距離が近すぎて最高速に到達する前にオークナイトに当たるため、微々たるダメージしか与えられていない。
ニーナは完全に避けるだけで精一杯であり、詠唱する程の余裕が全くもってない。
時折隙を見つけて杖で反撃をするが、打撃となる杖では力のないニーナがいくら攻撃を仕掛けても、オークナイトは痛痒にも感じずに攻撃の手を休めることはなかった。
オークキングは勝ち誇ったかのように、下卑た笑いを浮かべながら戦況を見守っている。
対するケビンはそろそろ手を出すかどうかを考え出していた。さすがに後衛職2人が近接戦闘をこなすのは今のところ無理な話なので、このままでは攻撃をもらってしまうのも時間の問題である。
ティナが剣術を使えていれば戦況は変わっていたかも知れないが、今現在では無い物ねだりもいいところである。
かと言ってケビンが戦線に入ると、あっという間に戦況が覆るので今回は助言をするだけに留めた。
「ティナさん、相手の体を狙うのではなくて急所を狙って。狙うのは難しいけど目を狙い撃ちにして怯ませて。近接戦で焦るのはわかるけど、落ち着いて対処して」
ティナは呼ばれたことによりチラッと視線を向けるが、目の前ではオークナイトが攻撃を繰り出してきているので、耳だけ傾けて話を聞いていた。
「ニーナさん、魔法使いにとって近接戦は恐怖でしかないけど、杖で反撃できているのなら落ち着いて避け続けて。杖で反撃したり威力のある攻撃魔法を使おうとするんじゃなくて、最短で詠唱できる初級魔法を顔に目掛けて放って」
ニーナは避けるのに必死なので視線を向けることはせずに、言葉を聞き漏らさないように、避けながらもケビンの声を意識した。
「ルル、3体相手に厳しいだろうけど、攻撃は最小限に抑えて避けることに集中して。ティナさんとニーナさんが敵を片付けるまで、動きを最小限に体力を温存して」
ルルは視線を向けつつも攻撃を躱し続けて、ケビンからかけられたアドバイスに返事をする。
「わかりました」
それを聞いたケビンは、ルルにはまだ余裕があるとみて判断した。
ケビンからのアドバイスが出たことで、ティナは的の大きい体を狙うのは止めて目を中心に狙うようにすると、先程まで苛烈だったオークナイトとオークジェネラルの攻撃が勢いをなくしてきた。
それによりティナは更に的を狙いやすくなり、オークナイトの片目に矢を当てることができると、オークナイトは喚き声とともに攻撃の手が止まる。
すかさずティナは、オークジェネラルの目にも同様に矢を放ち、何とか片目を潰すことが出来た。
余裕の出来たティナはニーナのサポートに入り、対峙しているオークナイトの片目を狙って矢を撃ち放った。
突然の痛みにオークナイトは喚き散らし、ニーナへの攻撃の手が緩むとニーナも初級魔法を発動して顔をめがけて撃ち放つ。
「――《ファイア》」
ニーナは、ティナの例に習って残った片目に魔法を放ち、オークナイトの目を焼き払った。
両目が見えなくなったオークナイトは、周りに当たり散らすかのように無作為に攻撃を繰り出すだけで脅威とは言えず、対峙していたニーナは既にその場から離れていて、ティナと対峙しているオークナイトとオークジェネラルにも同様に魔法を放った。
何も見えなくなったオークナイトとオークジェネラルは、辺り構わず攻撃をしたせいで、お互いに斬りあってしまいダメージを受け、余計に攻撃を重ね同士討ちとなって力尽きた。
ティナはニーナと対峙していたオークナイトにトドメをさして、未だ1人で頑張っているルルの応援へとシフトチェンジする。
ルルは1人で3体を相手取っていたが、ティナとニーナのサポートが入るようになり、徐々に攻勢へと移り変わっていく。
その後は、いつも通りの戦闘を3人が行えるようになり、残されたオークキングもしぶとく粘りを見せたが、とうとうティナたちによってその命を散らすことになってしまった。
「お疲れ様。今回は近接戦闘が後衛にも回ってきて、かなり焦っていたね」
「死ぬかと思った……」
「私も狙い通りに矢が撃てなくて苦労したわ」
「ルルは3体相手によく頑張ったね」
「ありがとうございます」
ルルはケビンから褒められたことにより、嬉しくなり自然と笑みがこぼれる。
「それにしてもケビン君、何で顔を狙うように言ったの? 結果的に上手くいったから正解なんだろうけど」
「私も気になる」
「簡単なことだよ。ちょっとティナさんはそこに立ってて。ニーナさんとルルはティナさんを見ててね」
ティナは言われた通りにその場に立ったままで、今から何が起きるのか気になり、ニーナとルルはそんなティナを観察していた。
ケビンは、おもむろにティナの前へ立つと、手を伸ばして腕を掴んだ。
「?」
ケビンは腕から手を離すと、今度は目潰しの要領で指をティナに向けて伸ばすと、ティナは目の前に来た指から逃げるように顔を引いた。
「2人ともわかった?」
「……」
「目潰しですか?」
「あまりわかってないね。ティナさんは?」
「目を潰されそうになったわ」
「ティナさんも、あまりわかってないね」
「わかんないから教えて」
「腕を掴んだ時は特に反応しなくて、目潰ししようとしたら逃げたでしょ?」
「そりゃあ潰されたくないもの」
「そういうことだよ。目っていうのは視界を担っているから、思いのほか防衛意識が強くて、無意識にでも守ろうとするんだよ。忌避感っていうのかな……目に異物を入れたくない、視界は確保しておきたいっていう深層心理が働いて、本人の意志とは無関係で反射的に守ろうとするんだ。だからオークたちも目を狙われると、それを守ろうとして動きが鈍くなったんだよ。目を潰されてもいいなんて奴は、普通ならいないでしょ?」
「そう言われるとそうね」
「逆に目さえ潰してしまえば、後半戦のように勝手に同士討ちしてくれたり、攻撃が当たらないから全く脅威にならなかったりと、戦況が有利になるんだよ。ただし、嗅覚が鋭い魔物とかは別だよ? 目を失っても臭いで相手の位置を特定したりするから。あとは気配探知が使える奴とかね」
「ケビン君って色々考えているのね。かなり勉強したんじゃない?」
「楽するためだよ。面倒くさいのはゴメンだからね。如何に楽して生きるか、その為の努力は面倒くさくても惜しまないんだよ」
「努力の仕方が間違ってるわね」
「ケビン君らしい」
「さすがはケビン様です!」
「さて、宝箱を開けて先へと進もうか?」
ボス攻略の証である宝箱を開けると、大して欲しいものは入ってなく、またもや売却確定の中身だった。
「レアドロップはなかったか……」
「残念ね」
「次に期待」
「ケビン様ならいつか出ます」
ケビンたちは、10階層のボス攻略を繰り返ししていたことにより、宝箱の中身は毎回同じではなく、たまに違うものが出ることを体験していた。
これにより場合によっては、レアドロップ品が出てくる可能性を理解して、今回もそれに期待していた結果、残念な形に終わり落胆したのであった。
気持ちを切り替えたケビンたちは、先へと進むべくボス部屋を後にして、21階層に向かい足を進めて攻略を再開するのであった。
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