第172話 キラッ☆
ケビンたちが受付から離れていくと、入口方面でガヤガヤと騒ぎ出す声が聞こえてきた。
「お、おい、あれ
「マジか……確か、43階層を攻略してたはずだよな?」
「戻ってきたってことは、素材の売買と物資の補給か?」
「いつ見ても素敵なクランねぇ。声かけてくれないかしら?」
「私も声かけて欲しいわ」
ギルドの入口では白銀の全身鎧を身につけた1団が、次々と中へ入ってきていた。
ケビンは関わるまいと無視を決め込んでギルドから出ようとするが、いつも通りケビンが絡まれるということはなかったのだが、代わりにティナたちが捕まったようである。
「これはこれは、見慣れないお嬢様方だね。僕たちが攻略を進めている間に、こんなにも見目麗しいお嬢様方がここにいるとは。攻略を中断して戻ってきた甲斐もあるというものだよ」
髪をサラッとかきあげながら声をかけてきた月光の騎士団の一員に、ティナは丁寧にお断りの言葉を返した。
「褒めてくれるのは嬉しいけど、貴方たちの相手をしている暇はないのよ」
そう言ってケビンの後を追いかけようとするティナたちであったが、相手がそれを許すはずもなく、再び声をかけてくる。
「まあまあ、ここは一緒にディナーでもどうかな? 高級宿屋である、あの夢見亭の9階に部屋を取っているジョニーっていうんだ。あそこからの眺めは格別だよ? 普通なら味わえない景色が見られる上に、とても豪華な食事と楽しいひと時を味わえるんだよ?」
(マジか!? 夢見亭の9階に部屋を取ってあるのかよ!)
(俺なんか2階だぞ! 羨ましすぎる!)
(俺は夢見亭ですらねえよ! 安宿だぞ!)
(俺も1度はあんなこと言ってみてえな。女なんか口説き放題じゃねえか)
(そんな女放っといて、私に声をかけてぇ)
(私ならついて行くわぁ)
周りの冒険者の羨む声が聞こえたのか、いい気になった月光の騎士団の一員ことジョニーは、更に言葉を続けた。
「どうかな? なんなら1階にあるカジノで遊ぶためのチップもプレゼントしようじゃないか。お嬢様方が気に入ったなら、ずっと一緒にいてもいいんだよ? むしろ、僕たちのクランに入るべきだね。そうそう、ダンジョン攻略なら僕たちが手取り足取り教えてあげるから、お嬢様方は安心してくれていいよ」
何も言ってこないことに気を良くしたのか、どんどん饒舌になっていくジョニーに、再度ティナがお断りを入れる。
「そんなものには興味ないの。でも、1階にカジノがあるって情報だけはありがたく受け取っておくわ。それじゃあね、騎士さん」
(マジか!? あの女、夢見亭の話を断ったぞ!)
(女なら誰もが憧れる、夢見亭のSクラス部屋だぞ!)
(月光の騎士団相手に断って、これから先やっていけるのか?)
(あの女馬鹿じゃないの?)
(所詮、男日照りの行き遅れに決まってるわ!)
ティナが立ち去ろうとすると、今度はニーナやルルにジョニーのナンパが飛び火していた。
「あの子はああ言っているけど、君たちはどうなのかな? 行きたくないかい? 夢見亭の9階だよ? 素晴らしい眺めなんだよ?(キラッ☆)」
ジョニーの十八番、スマイルとともに歯をキラつかせる大技が炸裂した! だが、ニーナには通じなかったようである。
「拒否する」
ニーナがズバッと切り捨てると、そのままティナの後について行くが、ルルが何も答えずに立ち去ろうとした時に、腕を掴まれてしまう。
「君は大人しそうだね、とても理想的な女性だよ。どうだい、普通じゃ味わえない豪華な夜を過ごしてみないかい?(キラッ☆)」
(あいつ引き下がらねえな。あそこまで言われたら普通気づくよな?)
(プライド高いんじゃないか?)
(今のところ2連敗だしな……ちょっとカッコ悪いよな)
(だが、拒否されてなおも食い下がるその姿勢、そこに痺れる! 憧れるぅ!)
(何だか可哀想に見えてくるわね)
(必死さが引くわー)
周りの冒険者の言葉に、若干こめかみがピクピクしているジョニーだが、どんな女でも落としてきた自慢のキラっとスマイルだけは崩さないでいた。
「お離し下さい」
「まあまあ、そう言わずにさ。ディナーを楽しもうよ。(キラッ☆)」
さすがにここまでキラっとスマイルをすれば、自分について来てくれるだろうと思っていた自意識過剰なジョニーに、思わぬところから声がかかる。
「その手を離して貰えませんか? 彼女が嫌がっているでしょ?」
ジョニーが視線を向けると、そこには見慣れない子供がいた。
「坊や、今は僕とこのお嬢さんがお話をしているんだ。大人の会話に子供が割り込んでいいものじゃないよ。(キラッ☆)」
「……」
ケビンは、キラっとスマイルを平然とやってのけるジョニーに、戦慄を覚えるのであった。
(何だこの変な生き物は!? スマイルして口元の歯が光るなんて、初めて見たぞ……)
「わかったようだね、坊やは早くお家に帰ってお母さんのご飯でも食べるといいよ」
ケビンが黙ったことで、理解したと勝手に思い込んでいるジョニーは、ルルに対してナンパを再開する。
「さあ、これからは大人の時間だ。美しい君と夜景でも見ながら、楽しいディナーと洒落こもうじゃないか。(キラッ☆)」
なおも食い下がるジョニーに、ケビンはほとほと呆れ果てながら声をかける。ケビンとしては、変人に付き合っている暇などないのだ。
「だから、手を離せって言ってるだろ? 耳が悪いのかよ、おっさん! お前が何と言おうが、その子がついていくわけないだろ? 頭悪いのか? 脈がないことぐらい、周りの冒険者たちも理解してるぞ?」
ジョニーのアホさ加減にケビンは口調が変わり、そのことにジョニーも目が点となる。
「……はあ? おっさんだぁ? 僕のどこをどう見て、おっさんになるのかな? どう見ても若いお兄さんだろ?」
「俺からしてみればおっさんだろ? いいから手を離せって」
パシっと手を払い除けたケビンは、ルルを自分の後ろへと移動させてジョニーから遠ざけた。
「中々いい根性しているじゃないか。どうだい? 月光の騎士団に入ってみないかい? 君みたいな勇み足の若人は、是非とも最前線で戦わないとね」
ジョニーは苛立ちを上手く隠しながら、ケビンを最前線の盾替わりにしようと画策する。
「馬鹿じゃねぇの? 何で格下のクランに、俺がわざわざ入らないといけないんだよ」
「ふふっ、格下なわけないだろう。僕はなんせ、夢見亭の9階を借り続けることができる一流冒険者なんだからね。(キラッ☆)」
「くだらねえ……そんなに9階が凄いことなのか?」
「当たり前じゃないか! 夢見亭の何階に住んでるかが、一種のステータスなんだからね。坊やみたいな子供は、せいぜい貧乏家屋が関の山だろうけど」
ジョニーは鼻高々と9階に住んでいることを自慢するが、目の前にいるのは、最上階を借り続けている子供であることは知る由もない。
「はぁ……オツムの弱いあんたに、何故みんながついて行かないか教えてやるよ」
「ほぉ……是非ともご教授願いたいものだね」
「わざわざ住んでいる階数を下げてまで、お前と一緒にいる価値がないからだろ?」
「ん? どういうことだい? あそこは9階が1番上だよ? 坊やは常識を知らないのかい? そんなことじゃ笑われてしまうよ?」
「常識を知らないのはあんただろ? あそこの1番上は最上階だ」
「ハッハッハッ! これは異なことを言うねえ。最上階は、誰も借りない飾り部屋だと知らないのかい?」
「馬鹿か? 誰も借りないじゃなくて、借りれるほどの資金を持っていないってことだろ?」
「馬鹿は君さ。1泊金貨10枚なんて誰が支払うのさ。馬鹿も休み休み言いたまえ」
「だからさっき教えただろ? 彼女たちは、住んでいる階数を下げてまでお前といたくないんだよ。いい加減理解しろよ、馬鹿丸出しだぞ?」
あまりの罵倒の連続に、ジョニーは先程よりもこめかみがピクピクし、口元は引き攣っていた。
「お嬢様方が、最上階に住んでいるだと? 証拠でもあるのかね?」
「これだ」
ケビンが取り出したのは、最上階専用の黒光りするカードキーで、そこにはデカデカとVIPの文字と、部屋のランクである【R】の文字が浮かび上がっていた。
「……」
(おい、あれって最上階のカードキーか!?)
(初めて見た……存在していたのか……)
(嘘だろ!? 1泊金貨10枚だぞ!)
(あんな部屋を借りてるなら、9階なんか話にならないぞ! ワンフロア全てを使っている最上級部屋だぞ!)
(キャー! あの子とお知り合いになりたーい!)
(抱いて! もうそれしかないわ!)
「わかったか、ボンクラ? わかったなら身の程を弁えろよ? お前如きのたかが9階で威張り散らすような輩には、ウンザリなんだよ」
ケビンは言いたいことだけ言うと、踵を返しギルドを後にしようとするが、ジョニーがそれを許さなかった。
「待てっ、ガキ! ここまでコケにされて黙って帰れると思うのか? どうせそのカードも偽造したものだろ? 上手く作ったもんだね、僕としたことがまんまと騙されるところだったよ」
「えぇぇ……ないわー……」
証拠まで提示したのになおも食い下がるジョニーに、ケビンは呆れるを通り越して、ありえないものでも見たかのようになった。
「なぁルル……俺、こんな奴初めて見たんだけど」
「私も初めてです」
「ちなみに私も初めてだわ」
「私も」
それぞれの感想をこぼしていると、ケビンたちの周りを囲い込むかのように月光の騎士団員たちが動いていた。
「さぁ、これで逃げ出すことは出来ないよ。君に教育を施したあとは、後ろのお嬢様方と楽しいひと時を味わうとしよう。どうやら君たちは知り合いのようだからね、ディナーの後は坊やの目の前でデザートをいただくとするよ」
ジョニーの食事を模した言い回しに、ケビンが今日一番の反応を示した。
「おい、今なんて言った?」
「君への教育のことかい?」
「その後だ」
「あぁ、君の目の前でデザートを食べることかな? ディナーの後にはデザートは付き物だろう? 今謝るなら君にもデザートを楽しむ権利を与えてあげてもいいんだよ。当然、僕たちが楽しんだ後だけどね」
「周りの奴らも同じ考えか?」
ケビンが周りに視線を向けると、下卑た笑いを浮かべる団員たちがいた。
「1つ確認したい」
「何かな? 謝り方なら任せるよ?」
「クラン同士のいざこざは、自己責任だったよな? 冒険者と同じで」
「そうだよ。もしかして君はクランでも作ったのかな? 新参者だから僕たち、月光の騎士団のことを知らなかったのかい? だから、こんな事態になったのも君の自己責任ってことだよ」
「そうか……わかった」
「わかったなら早く謝りたまえ」
ケビンは、収納から刀を取り出すと鞘から解放した。その様子に、ギルド内は緊張に包み込まれる。
「そんなことをして、タダで済むと思っているのかい? それを抜いたってことは、こちらも抜くってことだからね」
その言葉と同時に、周りの団員たちも剣を抜いていった。
「お前こそタダで済むと思うなよ? こともあろうか、俺の大事な婚約者たちを慰み者にするって言ったんだ。楽に死ねると思うなよ?」
ケビンの“大事な婚約者たち”宣言により、ティナたちの顔はこれ以上ないほど蕩けきっていた。
「殺れっ! お前たち!」
ジョニーが苛立ち混じりに声を上げると、周りの冒険者たちはケビンが酷い目に合い凄惨な現場になってしまうと、誰しもが想像してしまった。余裕の表情を浮かべるティナたちを除いて。
ジョニーの号令が掛かったにも関わらず、事態は一向に進展しなかった。それもそのはず、ケビンが月光の騎士団に対して威圧を放ったからである。
「ぐっ……」
「なっ……」
騎士団員たちは、その場から身動きが取れずに膝をついていた。ジョニーもその例外ではない。被害を受けていないのは、月光の騎士団以外の者たちである。
「よぉ、俺が動き出す前にお前は『殺れ』と命じたな? 今から何されても文句は言えないよな? 冒険者やクランは自己責任だもんな、お前の言葉も当然自己責任だよな? 周りの仲間も当然――」
次の瞬間、ケビンは手近な団員の右腕を斬り飛ばした。ボトリと落ちる腕を認識した直後、切創部に走る激痛によって団員は大声を上げる。
「ぎゃああああっ!」
ケビンはすかさず上級ポーションで傷口を塞ぐ。自分の手の内を晒すのもどうかと思い、回復魔法は使わなかったのだ。
その後、都合8度。同じように周りの団員たちの剣を持つ右腕を斬り飛ばしては、ポーションを振りかける。
周りの団員たちはガタガタと震えながら、ケビンの一挙手一投足を逃すまいと見つめていた。
容赦なく腕を斬り飛ばしてしまう子供に、次は何をされてしまうのか容易に想像できることを体験してしまったからだ。
その上、あまりにも速すぎて剣筋が見えないことも、恐怖を引き立てることに一役買っていた。
それは、周りの冒険者たちやギルド職員たちも同様であった。ギルドとしては不干渉を貫いており、凄惨な光景を目の当たりにしたところで、クランや冒険者に対して不意に介入してしまえば、今後の運営に支障をきたすと理解しているからであり、易々と行動に移すわけにもいかなかった。
「た、助けてくれ!」
そんな中、ジョニーは脇目も振らずに謝罪し始める。自分だけはまだ腕を失ってはいないので、何とか免れることができるように思考を巡らせた結果だった。
「今更何を言ってるんだ? お前は断られているのにも関わらず、執拗く声をかけていただろう? あまつさえ、ルルの腕を掴んで離さなかったな?」
「お、俺に手を出したらタダでは済まされないぞ! 俺の背後には、Aランク冒険者の団長たちがいるんだぞ!」
「おっ! さすが三下の言うことは違うねえ。虎の威を借る狐って知ってるか?」
「し、知らない!」
「自身の力ではなく、背後にいる強い奴の権威を使って威張り散らしている奴のことを言うんだよ。おい、お前、何逃げようとしているんだ?」
ケビンの背後で見られていないからと、少しずつ距離を取って、逃げようとしていた団員の足を斬り落とした。
「ぎゃああああっ! 足が……足が……」
ポーションを使って傷口を塞ぐと、ケビンは逃げようとしていた団員に声をかける。
「お前、俺が弱かったら夜にいい思いをしようとしてたんだろ? それはその代償だ。どうせ嫌がる女を、無理矢理慰み者にするのが楽しいんだろ? やってしまえば後は脅すだけで口封じ出来るからな。今までもそうやって無理矢理やった女がいただろ?」
「し、知らない! 俺は何も知らない!」
「次は残っている腕と足、どっちがいい? 答えないなら要らないと判断して、斬り落とすぞ?」
「ひぃっ! や、やりました! 今まで何人もやりました! だから斬り落とすのはやめてください!」
ケビンの唯ならぬ気配に、呆気なく団員は口を滑らした。
「お前たち団員の中で、清廉潔白な奴はいるか?」
「い、います! 団長たちのパーティーだけです! それ以外のパーティーはみんなやっています! 普通にヤレる女もいますが、拒否するやつは無理矢理何人もで犯して、その後は脅して口封じしています! 使えなくなるほど壊れたら、奴隷として売り飛ばしたりもしました!」
次々とクランの秘密を暴露する団員に、哀れみの視線を向けていた冒険者たちやギルド職員たちは、軽蔑の視線へと様変わりしていた。
最早、助けに割って入ろうなどと思う者は、ここには誰一人としていなかった。
「最低ね」
「女の敵」
「生きている価値はないと思われます」
ティナたちが団員の悪行を聞いて侮蔑の視線を向けながら、それぞれの思いを口にした。
「ジョニーと言ったか? こいつが洗いざらい喋ってくれたが、本当のことか?」
「は、はい! だから助けて下さい!」
それでも自分だけは助かろうとするジョニーに、団員たちから冷たい視線が向くが、ジョニーは自分だけが助かるためならそんな視線など気にも止めなかった。
「今まで散々女の人を泣かせておいて、自分だけが助かるつもりか? おかしいと思わないのか? 女の子が止めてと言って、お前は止めてあげたのか? 仲間を止めたりしたのか?」
「……」
「確定だな……お前はクズだ」
ケビンはそれだけ伝えると、ジョニーの両腕を斬り落とした。
「うぎゃぁぁああ! 俺の腕ぇぇええ!」
ポーションをかけてジョニーの傷口を塞いだら、ケビンは無言のまま他の団員たちの残った腕も全て斬り落とし、同様に処置を施した。
「ふぅ……」
刀についた血のりを振り払うと威圧を解き、【無限収納】へと戻してティナたちに声をかける。
「ルル、嫌な時は腕を振り払っていいんだからな? 俺にかかる迷惑なんて気にするな。俺にとってはルルの方が大事なんだから。わかったか?」
「ごめんなさい、ケビン様!」
ルルはケビンに抱きつくと泣いてしまった。ケビンに対して迷惑のかからないようにと、自分が上手く揉め事を回避できずにいたことを悔いていたのだ。
「やっぱり身長がないのは締まらないな」
ケビンの言うことも最もで、今ルルは膝立ちでケビンに抱きついているからである。
「ティナとニーナも、俺にかかる迷惑より自分を大事にしてくれよ?」
「あん! ケビン君がワイルドでカッコよすぎる!」
「ヤバい……お姉ちゃん、キュン死にしそう……」
今までの凄惨な出来事がなかったかのように、ケビンたちだけは別世界を繰り広げていた。
「そこの受付嬢の人」
ケビンにいきなり声をかけられて、慌てて受付嬢が返事をする。
「はっ、ひゃい!」
「ははっ、そんなに緊張しなくてもいいですよ。貴女は悪事に加担したわけじゃないでしょ?」
「め、滅相もありません!」
「なら、衛兵を呼んでくれますか? こいつら奴隷に落としますので」
その言葉を聞いた団員たちは我先に逃げようと試みるが、ケビンが再び威圧を放ちその場へ釘付けにした。
「逃げるなら足を失う覚悟をしろよ? そこのアホみたいに片足失くすぞ?」
そう言ってケビンから威圧を解かれると、その言葉通りに足を失くしている者を見るなり、ガックリと肩を落として諦めとともに逃げることをやめた。
足を失くして奴隷として生きるくらいなら、このまま奴隷落ちした方がまだマシだと思ったからだ。
それから駆けつけた衛兵は、現場を見て息を飲んだ。ギルド内で起きた凄惨な出来事を目の当たりにして思考停止に陥ると、ケビンから声をかけられてことのあらましがわかり、項垂れる団員たちを回収していった。
ケビンが受付嬢に他の月光の騎士団員の場所を聞き出すも、ギルドと言えど冒険者一人一人の場所は把握しておらず、ただダンジョンを攻略中であることしか情報を得ることは出来なかった。
上級ポーションを使ってしまうという予想外の消費に、購入時にかかるお金よりも在庫があるかどうか心配で、ケビンは在庫を確保するため足早にギルドを後にした。
ケビンたちが道具屋に到着して店員に尋ねると、上級ポーションは価格が高いせいもあり在庫がかなり余っていたので、ある内に買ってしまえと大量購入すると、思わぬ利益に店員はホクホク顔で対応してきた。
その他にも、足りなくなりそうなアイテムをどんどん購入して、この日のダンジョン攻略準備は幕を下ろす。
その日の晩はティナたちが妙に落ち着きなく、ケビンに一緒に寝たいと言ってきたので、全員で一緒に寝ることにして明日に備えるのであった。
ケビンとしては、いつもと変わらないティナたちの行動に加えてルルが増えただけなので、改めて聞いてくるのもおかしな感じがしたが、きっとルルの為を思ってしたことなんだろうと感じて、あえて聞くような野暮な真似はしなかった。
寝る時になって、誰が横に寝るのかでティナとニーナが争っていたが、ケビンがルルを上に抱っこする形で両サイドを開けると、「そっちの方がいい!」とすかさずティナが言ってきたが、横に寝ることで争っていたことを指摘して揚げ足を取り、ティナはむくれながら横に寝ることで渋々了承した。
ルルはケビンの上に乗ってから終始無言で、心臓をバクバクさせながらその日は眠りにつくことになった。
対してケビンは、ルルの抱き心地が思った以上に良かったので、その日はいつも以上に安眠につけるのであった。
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