第133話 乙女の秘密
その日の夜、夕食を食べるためにパーティーは食堂へと集まった。食卓の話題は、もっぱら見事な土下座を果たしたケンのことである。
「それでケンは、こっぴどく叱られたわけか」
「黙って行ったこと以外は、特に悪いことをしてないんですけどね」
「討伐の成果はどうだったんだい?」
「スタラチュラ10体、ウッドバイパー20体、トロール5体ですね。群れで行動してなかったから、あまり狩れませんでした」
「「……」」
「たった1日ソロでやってて、あまり狩れなくてこれなのよ? 信じられないわ」
「非常識」
ケンの非常識さに、言葉を失うガルフとロイドであったが、ティナとニーナは、あれから時間が経っていたこともあり落ち着いていた。
「1人でそんだけ狩ることが出来るなら、旅の道中は、さぞストレスだったんだろ? 1人で狩りに行くのも納得だな」
「確かにね。これは旅の仕方を再検討しないと、最悪、ケンは1人で旅をし出すだろうね」
「そうだな。起きたらしれっといなくなってそうだ」
考えうる最悪の想定をした2人に、ティナから猛抗議が入った。
「そんなのダメよ! ケン君を見失ったら、2度と会えなくなるじゃない!」
「同感」
「そうだな。ケンなら普通に日帰りで魔物を狩りまくるから、次々と飽きては、拠点を変えるだろうな。まぁ、ありえない子供冒険者の噂話を集めていけば、見つかりそうな気もするが」
「世界を見てまわる旅というよりも、世界の魔物を狩りまくる旅だよね」
結構な酷い言われようを、ガルフやロイドからされるが、ケンは否定できない部分があるため、なんとも言えない気持ちになるのであった。
「問題はこれからよ! ケン君がどっかに行っちゃわないように、魔物を狩りつつ、次の目的地に行く旅に変更しないと!」
「計画をシフト」
「そうなると街道寄りの道のりじゃなくて、けもの道を進むことになるがいいのか? 俺やロイドは前衛職だから、それなりに体力はあるが、お前らは後衛職だろ、体は持つのか?」
「持つところまで、持たせるのよ!」
「それだとケンが気を使って、遠慮するだろ。振り出しに戻ったぞ」
「難しい」
4人が旅の再計画を練っていると、ケンがおもむろに口を開く。
「それなら、俺を1人で戦闘させてくれれば我慢できますよ。あとは、敵を探しに行って、そのまま狩ることも認めてもらえれば」
「そんなのダメよ! 危ないじゃない!」
ティナがすぐに反論すると、ガルフがそれを諌めた。
「お前は過保護すぎるんだよ。ケンの成果を聞いただろ? 中規模な複数パーティーを組んだとしても、狩れるか狩れないかの討伐数を、1人でやってのけるんだぞ。どこが危ないんだ?」
「そ、それでも……不測の事態があるかもしれないし……」
「そんなもの、冒険者やってりゃ嫌でもついてくるもんだろ。あまり束縛すると、本当にケンがいなくなるぞ」
「……」
ティナは、ケンが束縛を嫌うことを知っていたので、何も言い返すことが出来なかった。
適度な束縛なら、ケンは何も言わないが、ケンの楽しみでもある狩りを束縛したら、本当に立ち去ってしまうと、感じてしまったからだ。
現にケン自身は、旅の道中の狩りに関して要望を出してきたのだ。それを自分がダメだと否定してしまっては、最悪の事態が訪れるかもしれない。その事を容易に想像できてしまうので、ティナは黙るしかなかった。
「まぁ、そういうことだ。ケンは旅の最中は、ある程度好きに狩りをしてくれ。ただし、遠くへ行くのはなしだ。俺たちは、ケンみたいな長距離の気配探知が使えるわけじゃないからな。ある程度近くじゃないとはぐれてしまう」
「わかりました。それぐらいでいいなら、問題ないです」
「僕からもいいかな? 街とかに着いたらパーティーで狩りをしよう。旅の最中は、ケンが狩りをしだしたら、パーティーとしての出番はないと思うんだ。ずっとケンだけで狩りをしたら、パーティーとして一緒にいる意味はないし、それをパーティーとも呼べない」
「それも大丈夫です。まずは明日から一緒にクエストを受けましょう。今日は1人でやったから、溜まったストレスをある程度解消できたので、明日からパーティーで狩りをしても問題ないです」
「それなら良かったよ。もう僕から言うことはないかな」
「俺もなしだ」
そしてガルフとロイドは、残りのメンバーに視線を向ける。
「私はケンが楽しんでくれるのが1番。一緒にいてくれるなら、それでいい」
「ティナはどうだ? それでもケンを縛るか?」
「本心は肌身離れず一緒にいたい。けど、それをすると、ケン君がいなくなることも理解してる。だから納得は出来ないけど了承はする」
ティナは、渋々といった感じで了解の意を示した。ガルフは、そんなティナの様子を苦笑いしつつ感想を漏らした。
「ケンと出会う前までは、そんな感じをおくびにも出さなかったのにな」
「私だって、自分自身ここまで束縛が強くて、面倒くさい女だとは思ってなかったわよ」
「恋は人を変えるとは、よく言ったものだね」
「ティナは初恋。恋に溺れてる」
「ぶふぉっ!」
思わぬ暴露をされたティナは、口に含んでいた飲み物を噴き出して、近くにいたケンは、地味に被害を被るが、ティナは、そんな事にも気づかずにニーナに反撃する。
「ニーナだって初恋じゃない! 今日だってケン君がいないだけで、『ケンがいない、寂しい。早くケンに会いたい、一緒にいたい』って言ってたでしょ!」
「ぶふぅっ!」
やり返されたニーナも同じく噴き出し、またもやケンに被害がいく。そんな両者に濡らされたケンは、ロイドがそっと差し出した、拭き物を受け取る。
「ティナは、この前ケンの脱いだ服を嗅いでた。変態」
「ニーナは、ケン君の使ったコップを回収して、ケン君と同じ所に口をつけて、ニヤニヤしてたでしょ!」
「ティナは、ケンの寝顔を見た時に、発情して『ハァハァ』してる」
「ニーナは――」
2人がそれぞれの恥ずかしい行動を暴露している最中、ケンがボソッとロイドに呟く。
「暴露している2人だけが、それぞれ恥ずかしいだけのはずなのに、俺がいたたまれなくなるのは、何故なんでしょう……」
ロイドは、そっとケンの肩に手を置いて答えた。
「それは2人の話の中心にいるのが、ケンだからだよ」
「はぁぁ……」
ケンは、深い溜息とともに天を仰いだのだった。
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