第122話 ……あざとい

 ケンが保養地についてから約1ヶ月が過ぎようとしていた。さすがのケンも温泉の種類がなく若干飽きてきていたので、次の街へと移動しようかと考えている旨を、臨時パーティーとして組んでいる、パーティーリーダーのガルフへと伝えた。


「ガルフさん、そろそろ別の街に行こうと思うのですが、ガルフさんたちはどうするのですか?」


「俺としては、ケンに付きっきりのティナに、合わせていただけだからなぁ。これといって、予定は立ててなかったんだよなぁ」


「あぁ、ティナさんですか。絶対についてきますよね?」


「そこなんだよなぁ。当初はティナだけならうちとしては痛手だが、何とかなるかなと思ってはいたんだが、今はそうじゃないだろ?」


「……ニーナさんですよね?」


 当初はティナがケンに対して熱烈アピールしていたのだが、何故そうなったのか、今はその中にニーナも含まれており、ティナ程ではないにしろケンにアピールしていた。


 ケンとしては無自覚なので、心当たりが一切なく、何故ニーナに好かれているのか、皆目見当もつかなかった。


「それだ。さすがにパーティーから、2人が抜けるのは看過できない。しかも大事な後衛職2人だ」


「ですよねぇ……もし、ガルフさんが良ければ、パーティーに入れてもらえませんか? このままだと確実に2人のこともあって、ガルフさんと俺がお互いに離れられない状態になりますので、いっそのこと、俺をガルフさんのパーティーに、入れてもらうしかないような気がします」


「そうなるよなぁ。俺はパーティーメンバーに抜けられるのは困るし、ケンは俺に気をつかって、パーティーメンバーが減らないように、俺についてくるしかないしで、変わるとすればメンバーを新たに仲間にした時だな」


「あとは、ロイドさんに許してもらえればですけど」


「あぁ、あいつならケンがついてくるのには賛成するだろ。足手まといどころか、かなりの戦力アップに繋がるからな」


「そう評価して頂けるのは嬉しいですね」


「実際そうだろ? とてもじゃないが、Cランクの枠を超えているぞ」


「でも、実戦経験が少ないですから、Cランクのままでいいですよ」


「それだってここ1ヶ月で、かなり積んでるとは思うんだけどな。とにかく、夕飯の時にでもみんなの前で、この話をもう1回しよう。ティナとニーナは、さすがに聞かなくても答えは出ているようなもんだけどな」


「ご迷惑をおかけします」


「迷惑なんて思っちゃいないさ。人に惚れる気持ちなんか止めようがねえ。今回はそれが連続で起こってしまったってだけだ。もしかしたら、ケンの称号欄に【年上キラー】とかついてたりしてな」


 笑っているガルフに対して、ケンは一抹の不安を感じるのだった。そんなことを言われると、フラグが立ってしまうのではないかと。そんなケンに対してガルフは、思いもよらない提案をする。


「まぁ、気になるんだったら教会に行けば、ステータスの確認はできるぞ」


 その言葉を聞き、ケンはフラグ回収なんじゃないか? と思った。


「教会じゃないと出来ないんですか?」


「他には魔導具を持っていれば別だが、あれは結構高いからなぁ。ちょくちょく確認したがる冒険者は買ったりもするんだが、特に気にしてない者とかは教会に行くな」


「へぇーそうなんですね」


 ステータスくらい、教会に行かなくても確認できるが、変な称号がついてたらと思うと、確認する気にもなれなかった。ここはスルーしていこう。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 その日の夕食時、昼間話した内容を他の人たちにも知らせた。


「私はケン君について行くわ。離れるなんて嫌よ」


 ティナは予想どおりの反応を示した。


「私もケンと一緒がいい」


 ニーナも予想どおりの反応だった。


「はぁ……やっぱりこうなるか」


「2人に関しては仕方ないよね。それでどうするんだい? すでに考えてあるんだろ?」


 ロイドはガルフに視線を向けるが、代わりにケンが答えた。


「はい。ロイドさんが良ければ、ガルフさんのパーティーに入れてもらおうと思ってます。ガルフさんには昼間話してますので」


「僕は一向に構わないよ。ケンは強いから、足手まといにはならないし、魔導具を買うお金も溜まりそうだしね」


「でだ、ケンを俺たちのパーティーに加えるとしてもだ、ずっとそのままってわけにもいかないだろ? ケンは世界を旅するのが目標だ。俺たちのパーティーに縛られては、世界を旅できない」


「確かにそうだね。ケンだけを放り出すわけにもいかないしね。2人に恨まれそうだし」


「別に恨みはしないわよ。ただ、何も言わず立ち去るだけよ。その後はケン君を追いかけるわ」


「同意」


「それを避ける為にも、ケンのパーティー入りの話なんだ。ケンが1人で旅立てば、お前らは必ず追いかける。ケンはそれがわかってるから、気を使って俺たちのパーティーに入ろうとしてるんだ」


「そうなると、新規メンバーを募集するしかないのかな?」


「そうだな。それが今後の俺たちパーティーの課題だ。ケンのためにも、新しくパーティーメンバーを探すしかない。しかも、後衛職でだ」


「さらに言うと、男性にした方がいいよね。新規メンバーが、ケンに惚れてしまっては元も子もないし」


 ロイドの何気ない言葉に、ケンはタジタジになる。狙ってしたわけではないのだが、結果的に女性2人の行動がケンを基準にして、パーティーに迷惑がかかることに関して、責任を感じていた。


「貴方がそういうこと言うから、ケン君が気にして落ち込むのよ」


「無自覚攻撃」


 2人に責められて、ロイドはケンと同様、タジタジになり謝罪した。


「特に責めようと思って、言ったわけではないんだよ。すまない」


「いえ、ロイドさんが優しいのは知っていますから」


 話が一区切りついたところで、ガルフがひとまずまとめに入った。


「とりあえず、ケンを俺たちのパーティーに入れるってことでいいな?」


「もちろんよ」


「賛成」


「問題ないよ」


「ありがとうございます」


「それじゃあ、次はここを出て何処に行くかだが、何か提案はあるか?」


 ガルフの質問に、各々が意見を出していく。


「これから寒くなるのだし、寒い場所に行くのは嫌ね」


「そういうことなら、南に下るしかないのかな?」


「私は寒くても平気」


「ケンは、何か希望とかあるか?」


「俺は王都からタミアまでの街以外でしたら、どこも初めてですので、それを考慮して頂ければ問題ないです。あっ!でも、同じ街だから嫌だということはないので、皆さんに合わせます」


「という事は、色々な街に行くとして、王都を中心にこの国をとりあえずぐるっと1周してみるか?」


「それはいいかもね。いきなり他国に行くよりも、まずはこの国からだね」


「賛成」


「国を1周とか面白そうですね」


「ティナもそれでいいか?」


「私はケン君が喜んでくれるなら、それでいいわ」


 ケンの希望を叶えた上で、ガルフの“国を1周する”提案に、各々が賛同する。


「それじゃあ、国1周旅行に決定だ! 今回は長丁場になるからそれぞれの街で観光したり、旅の資金集めでクエストを受けたりしよう」


「それで、まずはどこの街にするんだい?」


「ティナが寒いところは嫌だって言ったしな、まずは南に下って、ソレイユを目指そうと思っている」


「ソレイユかぁ。行商の要の1つだね。色んな魔導具があるから、僕としても異存はないかな」


「前から思っていたんですけど、ロイドさんは魔導具が好きなのですか?」


 ロイドが魔導具を中心に考えていることを、ケンは気になってしまい、尋ねてみることにした。


「そうだよ。僕は魔法の素質がないから、そういうのに憧れてしまうんだよ。魔導具を使って、魔法っぽいことをするのが好きでね」


「そういえばガルフさんに聞いたんですけど、ステータスを見れる魔導具があるみたいですね」


 ケンが唯一知っている魔導具の話で、ロイドとの話を広げてみようとしたら、思わぬところでフラグを回収する羽目になるとは、この時のケンはまだ知らなかった。


「あるにはあるけど、あれは高いからねぇ。中々僕でも手が出せないんだよ」


「やっぱり高いんですねぇ。魔導具をまだ買ったことがないから、いまいち高さの基準が掴めないんですけど」


「そういえばケンは、ロイドが持っているような、大容量のマジックポーチが欲しいんじゃなかったか? 魔物を運ぶために」


 過去にケンが討伐した魔物を運ぶために、大容量のマジックポーチを欲しがっていたのを思い出し、ガルフが話題に出した。


 当時のケンは、【無限収納】を誤魔化すために欲しがっていたのだが、アイテムボックスと言い張れば、解決できることをティナから教わり、記憶の片隅に追いやって忘れていた。


「そういえばそうでした。ステータスの魔導具と、どっちが高いんでしょう?」


「それはステータスの魔導具だね。マジックポーチと違って流通量の違いも原因にあるけど」


「あまり流通してないのですか?」


「教会に行けば、少しの寄付金でステータスは見れるしね。大枚を叩いてまで、欲しがる人があまりいないのさ」


「ケン君は、ステータスが知りたいの?」


「昼間言った称号が、気になるんじゃないのか?」


 ティナのした質問に、ガルフが代わりに答えた。それによって、思わぬ方向へと話が進み出す。


「昼間言った称号って何?」


「お前たちがあまりにもケンに懐くから、ケンの称号欄に、【年上キラー】って称号があるんじゃないかって話してたんだよ」


「それは気になるわね」


「気になる」


 雲行きが怪しくなり、慌ててケンが両手を振って否定しにかかる。


「そんな称号なんてないですから。ガルフさんの悪ふざけなんですから」


「でもケン君、この街に来てステータスの確認とかしてないでしょ? クエストに行ってない時は、だいたい私といるかニーナといるかしていたし」


「確かに。私といる時は行ってない」


「ほら、ニーナもこう言ってるわ」


 段々と逃げ道を塞がれていってるような気がして、ケンはどう言い逃れをしようか頭を悩ませた。


「いや、そもそもステータスは、人に見せるようなものでもないですし」


「別にステータスを見ようとしてる訳じゃないのよ? あるのかないのか知りたいだけよ?」


「そう、簡単」


「やけに食い下がりますね。何かあるんですか?」


「それは……その……ねぇ?」


 ティナは視線が泳ぎだすと、ニーナに助けを求める。


「乙女の秘密」


「そう、それよ!」


「それなら俺は、男の秘密ってことで、教えません」


「もぉー、少しくらいいいじゃない!」


「じゃあ、何が理由で知りたいのか、教えてくれるんですか?」


 ケンが再び聞くと、ティナは視線をまたも泳がせるのだった。それを確認したケンは、結論を述べる。


「一方的に知るのは不公平だと思うんです。なので、教えるわけにはいきません。」


「……はぁ、わかったわ。あとで部屋に戻ったら教えるから。ニーナも一緒に。それでいい?」


「そこまでして知りたいものなんですか? あるかもわからない称号のことなんて」


「私たちにとってはね」


 その言葉に、ガルフたちは勘づいたのか、ニヤニヤとしていた。


「まぁ、乙女心ってやつだろ。ケンも諦めな」


「あまり納得できないのですが」


「じゃあ、とりあえず明日は旅の準備をするってことで、クエストはなしだ。忘れもんのないように、しっかり準備しておけよ。明後日には、南に向かって出発だ」


 そう締めくくるとこの場はお開きとなる。ケンは先程のティナとのやり取りのため、部屋へと戻ることとなった。


「それで、知りたい理由は何ですか? それを聞いたところで、教えるかどうかはわかりませんが」


 前置きなしにケンが問いかけると、ティナはモジモジとして、中々話そうとしなかった。そんなティナを見て、代わりにニーナが話し始めた。


「知りたい理由は1つ。時間が減る」


「全く意味がわからないのですが」


「今まではティナが独占。今は私とティナで半分ずつ」


「えーっと、つまり?」


「ケンは、これからも無自覚に女を引っ掛ける。すると私たちの時間がどんどん減る。称号があると、不確かなものから確実なものへと変化する」


 言われようのない批難を浴びて、ケンは落ち込むのだが、とりあえず思ったことが正解であるか、確認するためにも言葉を口にした。


「凄い酷い言われようなのですが、要は俺と一緒にいる時間が減るのが、望ましくないということで合ってますか?」


「それで合ってる」


「ティナさんもそうなんですか?」


 未だモジモジとしていたティナが、僅かにコクリと頷き返した。


「何だか今日のティナさんは、ピュアな反応ですね。いつもの勢いはどうしたんですか?」


「……だって、恥ずかしいじゃない」


「え、何が?」


 聞き返してみるも、ティナはまただんまりした。それを見兼ねてニーナがまた語りだした。


「ティナは、まだ見ぬ女の影に嫉妬してる。嫉妬してる自分を、ケンに知られたくなかった」


「知られたくなかったって……全部ニーナさんが暴露してますよね?」


「ティナに任せたら話が進まない」


「今の様子を見る限りそう思いますけど、容赦ないですね」


 ティナの心境を、淡々と語っていくニーナの鋭さに、ケンは感想を漏らす。


「それに知られてしまったことで、さらに恥ずかしくなってる」


 頬を赤らめ俯いてしまっているティナに、容赦なく追い討ちをかけるニーナであった。


「何故かティナさんが不憫に思えてきますね。ニーナさんは、平気そうですが嫉妬していないんですか?」


「嫉妬はする。でもケンに迷惑をかけたくない」


「特に迷惑と感じたことはないのですが」


「そのうち独占欲が出てくる。でも我慢する。惚れた者の弱み」


「過度の独占欲は嫌ですけど、誰にでもあることなんじゃないですか?」


「ケンは嫌じゃない?」


「さっきも言った通り、過度なものは嫌ですよ。適度なら仕方ないかなって、思える部分は持ち合わせています。俺だって少なからず独占欲はありますし」


「参考になった。これから色々調整して、適度なものを探る」


「まぁ、嫌な時は嫌と言いますので、それがなかったら問題ないですよ」


「ありがと」


 ニーナさんとの話が一段落して、ティナさんに顔を向けると、目が合ってしまった。


「ティナさんも、理解してくれましたか?」


「ケン君は、こんな私でも嫌にならない?」


 上目遣いで尋ねてくるティナに、ケンは我慢するのに必死だった。


(何、この可愛い生き物は!? いつものティナさんは何処に行った!?)


「い、嫌にならないです……はい……」


「……あざとい」


 ティナの様子とケンの反応を見て、ボソッと呟くニーナであった。

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