第118話 恋はいつでもハリケーン④

「それにしても、どうしてそこまでお節介を焼くんですか?」


「それはケン君が好きだからよ」


「え? 知人として?」


「そんなわけないじゃない。異性としてよ!」


 あ、思ってもいなかったところで告白しちゃった……


「俺、子供なんですが」


「知ってるわよ」


「気にならないんですか?」


「どこに気にする要素があるの?」


「年齢とか」


「貴族とかだったら、早い子だと婚約しててもおかしくない年よ」


 もしかして年の差とか、気にしてるのかな?


「ぶっ飛んでますね」


「そんなことないわ。20歳を過ぎれば行き遅れと囁かれ始め、30歳を過ぎれば売れ残りの不良物件扱いよ。そうなる前に、予め婚約する相手を決めて、政略結婚させるんだから」


「貴族も大変ですね。それはそうと、いつまで俺は抱きつかれたままなんでしょうか?」


 離れたくなるなんて、本調子になりつつあるのかな?


「明日の起きるまでよ」


「え?」


「さ、寝ましょうか。明日もクエストがあるし」


 そうして私は、ベッドに横たわる。


「はい、ここに寝る」


 隣の空きスペースをポンポンと叩くと、素直にケン君がやってきた。


「ん~……ケン君成分補充」


 やっぱりケン君の抱き心地は最高ね。さっきまでの、悲しい気持ちが嘘のようになくなるわ。


「あの、胸が当たってるんですが」


「当たってるんじゃなくて当ててるのよ」


 こうすると、ケン君がじっとしててくれるのを知ってるからね。このおっぱい星人め!


「解放して頂けると助かるのですが」


「それは無理よ。さっき異性として好きって宣言したから、これからは我慢しないわ」


「今まで我慢してたんですか?」


「してたわよ」


 ……多分。


「それに、ケン君はおっぱい好きでしょ?」


「いや……それは……」


「ん? 嫌いなの?」


 おっぱい星人なのはバレてるんだぞ。白状しなさい。


「……好きです」


「そうよね。普通に抱きついたら逃げようとするけど、おっぱいに挟んであげたら、あまり逃げずに言葉で抵抗するものね」


 あ、困ってる。自分でも無意識に態度に出てたのね。


「触りたければ、触ってもいいのよ?」


「いえ、そういうわけには」


 本当は触りたいくせに。


「もう! ここはグイグイくるところでしょ」


「いやいやいや、子供相手に何言ってるんですか!」


「それもそうね……おやすみ」


 ちょっと飛ばしすぎたわね。だけど物足りないわ。


「落ち着いていただけて何よりですよ。おやすみなさい」


 ケン君の手でイタズラしちゃおう。もう我慢はしないんだし。


 むにっ、むにむに……


 ふふっ、目を開けてビックリしてる。イタズラ成功ね。


「ケン君のエッチ」


「……ティナさん?」


 あれ? ちょっと声のトーンが落ちているような……


「何?」


「触って欲しかったんですか?」


「ケン君の事が好きすぎてムラムラしたの」


「それは子供にしていい話ではないですよね?」


 あ、怒られちゃった。


「うっ……」


 ちょっと正論を言われちゃうと、お姉さん困っちゃうな。でも知ってるんだぞ。抱きついているから、ケン君がドキドキしてることくらい。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 負けた……負けたと表現してもいいのかわからないが。


「こんなはずじゃなかったのに……」


「ティナさんの中では、どうなる予定だったんですか?」


「私が恥ずかしがるケン君を揶揄う予定だったの。それなのに……」


 いつもなら私が揶揄って終わってたのに……


「立場が逆転しましたね」


「それよ! どうしてあんなに上手いのよ!」


 一体どこであんな技術を身につけたのよ。


「それは、ティナさんに気持ちよくなってもらうため、一所懸命に頑張りましたから」


 もう! 私のためって言われたら怒れないじゃない。


「変なところで頑張らなくてもいいのに……」


「でも、気持ちよかったのでしょう?」


「それは……そうだけど……もう! ケン君っていきなり意地悪になったよね。ちょっと前まで、そんなのおくびにも出さなかったのに」


「それは歩み寄るよう、俺の意識を変えたティナさんの責任ですよ」


「ズルいわよ。私ばっかりドキドキして」


 ケン君が私の頭を優しく撫でてくれる。


「そう言わないでくださいよ。俺だって前に進めたことを、感謝しているんですから」


「あぁーあ、折角ケン君を揶揄って楽しく寝てるはずだったのに。逆に手玉に取られて悔しいわ。私の可愛いケン君はどこに行ったのかしら?」


「目の前にいるじゃないですか」


「こんなに意地悪じゃなかったもん」


「なら前のままの方が良かったですか?」


「それはいや。前のケン君も好きだけど、今のケン君の方がもっと好きだから。これからもっともっと好きになるんだから」


 せっかくケン君が歩み寄ってくれたんだもん。前に戻るなんて絶対に嫌よ。


「汗かいちゃったし、明日は起きたらお風呂に行かないとね。汗臭いままなのは嫌だし」


「そうですか? ティナさんからは優しくて落ち着くいい香りがするから、俺は好きですけどね」


「もう! どれだけ私をドキドキさせれば気が済むの?」


「思ったことを口にしただけなんですが」


 そんなことばっかり言って、少しは私の気持ちを体験するといいわ。私はケン君に顔を近づけるとそっと耳元で囁いた。


「それにね、下着が濡れて汚れたままだから、替えなきゃいけないの。ケン君のせいだぞ。」


 作戦成功ね。ケン君ったらドキドキしちゃって。カワイイわね。


「ふふっ、最後に一矢報いる事ができたみたいね。ケン君もちゃんとドキドキしてくれて嬉しいわ。それじゃあ、明日に備えて寝ましょう。おやすみ、ケン君」


 ケン君に一矢報いることが出来て良かった。これで気持ちよく寝られるわ。あら? ケン君が動き出しているわね。どうしたのかしら?


 ケ、ケン君の吐息が近い……


「負けたままは嫌ですからね。おやすみなさい、ティナさん」


 耳元で囁かれた言葉に、私はゾクゾクしてしまった。ケン君って負けず嫌いなのね。意外だったわ。まさか同じことされて仕返しされるなんてね。


 もう戻って行ってるみたいだし、私も寝よう。今日はいい夢見れそうだな。


『!』


 えっ!? 何、今の? えっ? えっ!? 嘘……嘘よね? 何かの間違いよね?


 でも確かに温もりを感じたし、感触は残ってるし……もしかして本当に?


 したのかな? しちゃったのかな? ……キス……


 きゃーー! どうしよう……心臓バクバクいってる。ケン君、絶対気づいてるよね? 気づいた上でスルーしてるよね?


 もしかしてこれが本命だったの!? 耳への囁きはただの布石? わぁー意地悪なケン君ならありえそう! まんまと騙されたわ! 耳だけで仕返しが終わったと思ってたのに。


 それにしても……きゃーー! キスしちゃったんだ私! したというよりもされちゃった……奪われちゃった……ドキドキが止まらないよぉ。


 ファーストキスは、ロマンティックな所でとか、大人なムードでとか、色々妄想してたのに……


 実際は、大好きな年下の男の子に奪われるとか……あぁーん、初めてだったのに、不意打ちとか卑怯だよぉ。


 やり直しを要求します!


 あぁ、何言ってるんだろ私。ドキドキと嬉しすぎで頭のネジが飛んでたみたい。


 まぁ、奪われたなら奪い返してもいいよね? 本人はもう夢の中だし。これって寝込みを襲う夜這いってやつなのかな?


 考えても仕方ないや。ケン君はもう寝てるし、起こさないように気をつけよう。そして、明日起きた時に、寝込みを襲ったって言って揶揄ってやろう。


 はぁ……カワイイ寝顔だなぁ……


「明日からも頑張ろうね」


 そして私は口づけをする。私の大好きな人を起こしてしまわないように、優しく……そっと……


「愛してるわ、ケン君。」


 命の許す限り私の愛はこの人に捧げよう。ずっと一緒に寄り添っていこう。いつかこの人が心を取り戻して、心の底から人を愛せるように。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る