第111話 奪われる出番…… 女性たちの張り合い

 次の目標である魔物へと、ガルフたちは歩みを進めていたら、遠くの方に少し影が見えてきた。


「お、見えてきたな……それにしてもケンの気配探知は凄いな。次の魔物がお目当てのバカ牛だったとはラッキーだ」


 ガルフは探知にかかった魔物が、グレートブルだったことに関してラッキーという認識だったが、実際のところ、ケンがマップ機能を使い、グレートブルにマーキングしていたからである。


 ぶっ壊れ性能であるスキルのことは、さすがに話すわけにもいかないのでケンは黙っているが、連続で誘導していたら勘ぐられそうな気もするので、どうしたものかと頭を悩ませるのであった。


「よし、ティナが攻撃したら、さっきと同じ立ち回りでいくぞ。ケン、準備はいいか?」


「問題ないです」


「じゃあ、適度に近づいたらティナは攻撃してくれ」


「わかったわ」


 少しずつグレートブルとの距離を縮めていくと、ティナが弓に矢を番えつつ詠唱を始めた。


「自由なる風よ 矢に集いて 敵へと届けたまえ《ウインドサポート》」


 詠唱が終わると矢には風の奔流が集まり、ティナのブロンドヘアを靡かせていた。


 その佇まいはエルフの容姿も相まって、とても一言では言い表せない雰囲気を醸し出していた。


 ティナが番えた矢を放した瞬間、ヒュンと風を切り裂く音が聞こえ、気づいた時にはグレートブルへと突き刺さっていた。


 ケンはいつでも攻撃に移れるように身構えていたが、一向にグレートブルが動き出す気配がない。


 それもそのはず、放たれた矢は眉間に突き刺さっており、グレートブルはすでにその命を終えていた。


 ティナが弓を下ろすと同時に、グレートブルも横へと倒れる。あまりの出来事にケンは呆然としていたが、ガルフの声によって意識を戻された。


「おい、ティナ! 獲物が死んじまってるじゃねぇか!」


「張り切っちゃった、てへっ」


 ティナが可愛く舌を出すが、ガルフには通用しないようだ。


「『てへっ』じゃねぇよ! ケンの実力が試せねえじゃねぇか!」


「ガルフばっかりいい所を見せてズルいわよ! 私もケン君に褒められたいのよ!」


「それとこれとは別だろ! 今のはケンが横合いから斬りつけて、戦闘に慣らすのが目的だっただろ!」


 ヒートアップしていく2人に対して、いつものことなのか、他のメンバーは気にも止めてなかった。


 ロイドに至っては、我関せずと解体のためにグレートブルへ向かっていた。


「まあまあ、2人ともそのくらいにしましょうよ。またグレートブルを見つければいいんですから」


 どうにも収まりそうにない2人の言い合いに、またしてもケンが仲裁に入ることとなった。


「はぁ……ケンがそう言うなら仕方ねえ」


「ねぇねぇ、ケン君。私の弓どうだった? 凄かった?」


 ケンの言葉に疲れ気味に答えたガルフと違い、ティナは自分を褒めてもらうことにしか、興味がないようであった。


「凄かったですよ。あの距離で眉間に当てるなんて、並の技量じゃないですからね。お見逸れしました」


「でしょ! 私だってやればできるのよ!」


「それなら、明日からは自分で朝早く起きれますよね?」


「それは……ちょっと……」


 思わぬ方向に話が逸れて気まずくなり、視線を泳がすティナであった。


「解体終わったよ」


 いつの間にか、解体を終わらせていたロイドが戻ってきたので、それを機にガルフが次の指示を出す。


「ケン、次の魔物の位置を頼む」


「次は2箇所ありますね。このまま真っ直ぐ行ったところと、先程の場所の近くでどちらも1体ずつです」


 ピンポイントで、グレートブルの位置を教えるわけにもいかなかったので、今回は他の魔物も混じえた2箇所を提案した。これなら、どちらかを選んでグレートブルが出たとしても、大して問題にはならないだろう。


「まだ街に戻るには早いし、真っ直ぐ行ってみるか」


 ガルフが選んだのは、グレートブルではない方の魔物だった。それを聞いたケンはこっそりとガッツポーズをしたが、誰にも気づかれていないので、特に問題とはならなかった。


 一行が真っ直ぐ歩いていくと、見えてきたのは毒マジロだった。餌を探しているのかこちらにはまだ気づいていない。


「かぁーっ! 毒マジロかよ……こいつは敬遠するか……」


「そうだね。倒せないこともないけど、毒対策はしてこなかったから敬遠した方がいいね」


 男性陣が後ろ向きなのに対して、女性陣は意外にも乗り気だった。


「私が弓で倒せばいいんじゃない?」


「今度は私の番。魔法で倒す」


「私が倒すからニーナは待ってればいいわ」


「ティナが待てばいい。私が倒す」


 張り合いだした2人に、ガルフが声をかける。


「ティナが張り切るのはわかるが、ニーナが積極的になるのは珍しいな。あいつの素材でも欲しいのか?」


「ケンにいいところ見せる」


「お前もかよ……」


 ニーナの張り切りの理由が、予想の斜め上を行き呆れ返るガルフに、ロイドが提案をする。


「まあまあ、後輩冒険者にいいところを見せたくなるのは、よくあることだし、今回はニーナに任せてみたら? 遠距離からの攻撃だし、毒を受けることもないでしょ。ティナをサポートに付けてれば、問題ないんじゃない?」


「はぁ……ニーナもそれでいいか? ティナをサポートに付けないなら、討伐はなしだ」


「むぅ……仕方ない」


 ニーナは嫌々ながらも納得し、ティナをサポートにつけた毒マジロの討伐が始まった。


「大いなる大地よ 牙となりて 敵を穿て《ロックファング》」


 ニーナの詠唱が終わると、毒マジロの下から大きく尖った岩石が飛び出し、そのまま毒マジロの腹を突き破り串刺しにする。


 毒マジロは暴れているが、突き刺されたまま空中にいるので、地に足がついてない状態ではどうすることも出来ずに、そのまま息絶えることとなった。


「勝った」


 ケンに向かってピースサインをする姿は、どこか愛らしくもあるが、今のケンからしてみれば年上でもあるので、どう褒めようかと頭を悩ませるのであった。


「さすがですね。外殻の硬い魔物相手に、どう戦うのか疑問に思ってましたが、まさか下から突き上げるとは、思いもよりませんでしたよ」


「外殻に比べてお腹は柔らかい。狙い目」


「いい勉強になりました。ニーナさんは本当に凄い魔術師です」


 どうやら褒め方は間違っていなかったようで、ニーナは喜色満面の笑みを浮かべていた。


「ここまできたら、とりあえずは聞いておくが、ロイドもいいところを見せたいとか思ってるか?」


「いや、僕は無理だよ。一応剣は持っているけど、大盾で防御するのが僕の真骨頂だからね。ソロは不向きかな」


「それを聞いて安心した。また暴走されても困るからな。次こそはケンの実力を見せてもらうぞ」


「わかりました。ところで、毒マジロの解体はどうするんですか? 解体する場所があるのかわからないくらい、串刺しにされましたけど」


「あれは毒抜きが必要だからな。専門家に任せようと思うから、そのままお持ち帰りだな」


「それじゃあ、僕のマジックポーチに入れておくね。バカ牛の素材も入れてあるから」


 そう言って毒マジロに近づくロイドさんを観察していたら、ポーチの口を広げて毒マジロに向けると、あっという間にその姿が消えてしまった。


「よくあんな大きなものが、ポーチに入りますね」


「まぁ、あいつのは特別性で、金に物言わせたやつだからな。容量がでかいんだよ」


「へぇ、お金があれば、容量のあるポーチを買えるんですね」


 勇者が使っていたらしい【無限収納】を、人前で使うのは憚れると思い、ずっと代替案を考えていたのだが、ケンは思わぬところでヒントを得て、今後の対策として、ポーチを買ってみるのもありだと感じた。


「ケンも大容量のポーチが欲しいのか?」


「そうですね。解体の仕方とかわからないから、いつも魔物は、そのまま持ち帰ってましたから」


「そりゃあ嵩張るな。解体の仕方ならロイドに習えばいい。うちのメンバーの中じゃ、1番上手いからな」


「だから皆さんが話している間に、解体していたんですね。誰も手伝わないのかなって、思っていましたけど納得です」


「前はみんなで手伝っていたんだけどな。手際が悪くて素材の価値が落ちるからと、お役御免になっちまったんだ。体のいい厄介払いだな、ハッハッハッ!」


 豪快に笑いながら話すガルフさんを見ていると、このパーティーで手先が器用なのは、ロイドさんだけなんだろうと思った。そう考えると野営する場合の料理担当は、ロイドさんなのだろうか?


 ふと女性陣を目にしてみるが、料理をしているような光景が想像できなかった。


 それはそれで失礼なんだろうが、ニーナさんはともかく、ティナさんはダメダメっぷりを見ているので、仕方がないと思う。


「よし、次の狩場に向かうぞ。ケン、ここから近い反応はどっちだ?」


「お昼ご飯とかどうしますか? それによっては街方向の方がいいと思いますので」


 ぼちぼちお昼になるので、そのことを提案してみたが、問題はないらしい。それぞれ携帯食を持ち歩いてるみたいで、夕暮れまでに街に戻れたらいいみたいだった。


 俺も夕ご飯がきっちり食べられれば、お昼は食べなくても別にいいと思っているので、このまま狩りを続けることになった。


「魔物の反応は、あっちが2体でこっちが1体ですね」


「じゃあ、1体の方に向かうか」


 お昼は歩きながら携帯食を食べることになり、そのまま魔物のいる方へと向かっていった。


 携帯食を持っていなかった俺は、ティナさんが分けようとしてくれたのだが、それを遠慮していると、最終的には「ちゃんと食べないと育たないわよ」と言われ、無理矢理押し付けられた感じだ。


 自分としては身長を伸ばしたいので、育たないと言われては食べるしかないのだが、まだ低年齢であるからそこまで気にしてはなかった。


 みんなで適度に会話を楽しみながら歩いていると、目標の魔物へと辿り着いた。

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