第100話 ゴブリンキングダム①

 ギルドでクエストの受注をしたら、そのまま街を後にした。武器屋に寄って剣でも買おうかと思ったが、魔法が使えるからもう少しお金を貯めてから寄る事にする。


 今回は森の深くまで進まなきゃ行けないので、寄り道できないことも理由の1つだ。


 森へ辿りつくと、まずは今回のクエストで試したい魔法を、ラビット相手に練習する。


(傷をつけずにモンスターを狩るとなると、やっぱり窒息死だよな。毒はダメって言われてるから論外だし)


 空気中の酸素を操るという事で、風属性の魔法を使い、ラビットの周囲から酸素が無くなるようなイメージをする。


 この際、気づかれては逃げられるか攻撃をされてしまうので、自然の風をそのままに酸素だけ抜くイメージを強める。


「……(酸素……酸素……)」


(意外と難しい……そもそも、大雑把に酸素と定義しているけど、もっとイメージを詳細にした方がいいかも)


「……(O2……O2……)」


(これでもダメか……こうなったら、化学で習った大気の主要成分を参考にしよう。確か、窒素が8割弱くらいで、次に多いのが酸素の2割、アルゴンが1%弱程度で、二酸化炭素は0.03%くらいだったかな。他にも色々含まれてるけど、基本構成はこれだし、この中から酸素が無くなるとイメージしながら試すか。質量保存の法則は無視しよう。ダメだったら水蒸気も入れたやつで試してみよう。)


「……(大気の主要成分に酸素はない……)」


 今まで無反応だったラビットが少し震えだした。その場から動き出そうとするが、痙攣しているような感じで動き出せていない。


 少しすると横に倒れてピクピクしていた。その反応すらなくなったところで近づいてみると、泡を吹いて死んでいた。


「成功したな……取り敢えず収納して、と。凄いものを作ってしまったし、魔法名は何にしようかな?」


 スキルの【創造】を意識しなくても、魔法が作れていることに本人は気づいていないが、自画自賛しながらも、肝心の魔法名が思い浮かばない事に悩んでいた。


「酸素……酸素……あっ! 《酸素消失オキシロスト》にしよう! 中二っぽいが別に気にする必要もないか。これを応用すれば、逆に酸素量を増やして火魔法の威力上げれるな。」


 イメージ通りの新しい魔法を作ることに成功したため、若干(?)テンションが上がりまくっていた。


「そうだ、こうしちゃいられない。クエストのために来たんだった」


 本来の目的を思い出し、森の奥へと突き進む。時折、魔物と出くわしては《酸素消失》を使いまくり倒していく。


 森の奥へとどんどん進んでいくと、次第にゴブリンに出くわす回数が増えてきた。


「そろそろ集落に着くのかな?」


 それから暫く歩いていくと、集落らしき物を遠くに発見する。【生命隠蔽】を使いつつ近づいて色々観察していると、見た目からして完全に集落だった。


「実はゴブリンって、知能高いんじゃないか?」


 そんな感想を抱きつつも、【マップ】と【完全探知】の合わせ技でゴブリンの種類を確認していく。


「一通り揃ってるな。これはもう集落と言うより1個の国だな。“ゴブリンキングダム”と命名しよう。今回の依頼はキングの討伐だし。とりあえず、外に出てるやつらから始末していこう」


 茂みに隠れたまま、ケンは《酸素消失》を連発する。


「数が多くて面倒くさい……範囲魔法として使えないかな」


 そんな中、ゴブリンたちは、いきなり倒れた仲間に困惑していた。


「グギャ?」


 ゴブリンが倒れた仲間を揺すってみるが反応がない……


「グゲッ! グゲゲッ!」


 ひときわ大きな叫び声を上げたゴブリンが、辺りを警戒し始めた。その声に釣られてか、ワラワラと他のゴブリン達が集まりだす。


「グギャギャ、グゲゴ!」


(うん、何言ってるかわからないな。今の内に範囲魔法になるか試してみよう)


 イメージを持ちながら、オキシロストを範囲的に使えるようにしてみる。


「グ……」


「ギャ……」


 範囲的に使われた《酸素消失》によって、次々と倒れていくゴブリンたち。


(おっ、成功した! 範囲は狭いけど纏めて倒せるから効率的だな)


 そんな中、杖らしきものを携えたゴブリンが出てくる。


「ゴギャ!」


 そのゴブリンが叫ぶと、一斉にそこらにいたゴブリンたちがこっちに目を向けた。


(ヤバイ! バレた!!)


 あのゴブリンは間違いなく“ゴブリンメイジ”だ。魔力の流れでも辿ったのだろうか? 隠蔽魔法は一度認識されると効果がなくなるから、こうなるともう使っている意味がない。


「急いで倒さないと! 多勢に無勢は避けないと!」


 急いで範囲指定の《酸素消失》を連発する。しかし、そこはさすがと言うべきか……


 統率の取れた指揮で、次々とゴブリンたちが出てくる。いつの間にかジェネラルが出てきていたようだ。


「くっ! 有象無象と統率の取れた集団では、やはり戦いやすさが変わってくるな」


 どんどん出てくるゴブリンたちに、辟易しながらも地道に《酸素消失》を放っていく。


 ゴブリンたちの数が減ったと思ったら、今度はゴブリンナイトが出てきた。ナイトとメイジの連携が取れていて、ナイトの攻撃の合間を縫って、牽制やら攻撃やらで魔法が飛んでくる。


「これやっぱり知能高くないか? 人と同じように戦術を使ってくるとは」


 何とかしないと物量で押されてジリ貧になってしまう。色々思考を巡らせるが、魔法も飛んできてるので避けないといけないし、ナイトが詰めてきて近接戦もしないといけないしで、やることいっぱいだった。


 それでも少しずつは数を減らし、回り込まれて囲まれないように、注意しつつ魔法を放っていく。


「1番簡単なのはジェネラルを倒すことだけど、あいつ1匹って事はないだろうしなぁ。どうしたもんか……うわっ、危ねぇ!」


 考え事をしながら避けていたら、危うく魔法が当たる寸前で、地面に転がりながら回避できたのだが、体勢が崩れて次の行動が必然と後手に回ってしまった。


「グゲーッ!」


 ナイトが振りかぶった剣を凝視する。


(これは不味い!)


 視界の端では、次の詠唱に移っているメイジの姿。奥の方ではニタァと笑っているようにも見える、ジェネラルの姿が見て取れた。頭をフル回転させて取れる手段を模索する。


 かなりの頭痛に襲われたが背に腹はかえられない。生命を失えばそこまでなのだ。とりあえず、ナイトの攻撃を横に転がりながら、なんとか避けると、すかさずメイジの魔法が飛んでくる。


 その間もフル回転中の頭で思考を巡らせると、頭痛が最高潮に達した時、不思議な声が聞こえてきた。


『スキル【並列思考】を獲得しました』


(何だ!? 誰だ!?)


 過度の使用のせいで頭が痛いのに、その上変な声まで聞こえてくる始末。混乱する中、最悪の状態ではあったが、先程よりも思考が楽になった気がした。


 敵の攻撃を避けつつも、何故か打開策を同時に考えられるようになっていた事を不思議に思いながら、目の前の攻撃を対処していく。


(わけがわからないが、とにかくこいつらを何とかしないと)


 攻撃を避けつつ範囲指定の拡大に心血を注ぐ。もとより、綺麗な状態で倒そうとしなければ、楽に終わらせることが出来ていたのに、意固地な性格からか、何としてでも綺麗な状態で倒すことにこだわっていた。


「よし、くらえっ!」


 広範囲の《酸素消失》を使い、視界内のゴブリンたちを一気に殲滅すと、次々と倒れるゴブリンたちに漸く一息つくことが出来た。


「はぁ……しんど」


 とりあえず、出てきていたゴブリンたちを全員倒したのを確認して、その場に座り込んだ。残りは探知に反応している洞窟の奥深くだろう。


 洞窟内の残党は、動き出す気配がまだなかったので、暫く休むことに専念するのだった。

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