第99話 冒険者活動2日目

 ケンが去ったギルド内部では、1人の冒険者の事で騒ぎが起きていた。


「おい、聞いたかよ?」


「何をだよ?」


「今日登録したルーキーの事だよ! 聞いたら驚くぞ!」


「ルーキーの事なんざ、いちいち気にするわけねぇだろ」


「まぁ、普通はそうなんだが。今回はそうも言ってらんねぇんだよ」


「何処かのお偉い貴族様の子供でも登録に来たのか?」


「違う、ただの平民だ。問題はそこじゃねぇんだ」


「言いたいならさっさと言えよ」


「今日登録したルーキーが、Dランクに昇格したんだ」


「は?」


「なっ? 驚いただろ?」


「嘘つくにしても、もっとマシなやつで頼む。お前に呆れて驚いただけだ」


「嘘じゃねぇって。専らその噂で持ち切りなんだよ」


「そんなわけがあるか!」


「大勢いる中で、サーシャちゃんが本人に説明してたんだよ。何故Dランクになったのか。その内容もありえないぞ!」


「Dランクになった理由は何だ?」


「たった3時間くらいで、ラビット30体、ゴブリン20体、ウルフ10体を討伐してきて、解体所に買取を求めたんだとさ」


「ありえねぇだろ!」


「そうなんだよ。ありえないと思った奴らが他にもいたんだ。寧ろ、その場にいた冒険者全員が思ったはずだ。それで、1人が解体所に見に行ったんだ。そしたら、本当にその数だけ魔物の死体が並んでやがったらしい」


「嘘だろ……」


「俺も嘘と思ったさ。だから自分の目で確かめるため、解体所に行ってみたら、大分解体された後だったが、確かにあったんだよ! 念のため、ライアットさんにも確認したら事実だった」


「どんだけ化け物なんだよ」


「そして1番驚くのは、なんとそのルーキーは子供だってよ!」


「子供だとっ!? ありえないだろうが!」


「なっ? 1番の驚きだろ?」


「……」


「ちなみに、噂には続きがある」


「まだ、何かあるのか? もう腹一杯なんだが……」


「こっちはただの噂だ。予想ってだけの。実は、Dランク以上に昇格する可能性があったらしい。Cランクにならなかったのは、今日登録したてで試験を受けれないかららしい……」


「まぁ、今日会ったばかりの子供の人間性なんてわからないしな。実技だけならCランクも有り得たって事か……」


「まぁ、確証がない分、ただの噂で終わりだけどな」


「とんでもないルーキーが現れたもんだ」


「だよなぁ……しかも、ソロだぜ? 俺、自信失くすわ……Dランクになる為に結構努力したのに……」


「とりあえず飲むか?」


「だな。こんな日は飲むしかないよな?」


 この日の酒場では、哀愁漂う背中を見せつける冒険者たちが、後を絶たなかった。酒場のマスターは何も聞かず、静かに酒を置いていったという。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 翌日、紹介された宿屋からギルドへ向かうケンの姿があった。今日は買取の報酬を貰う日だ。


 昨日はクエストの達成報酬を貰っていたが、さらにお金が増えるということで、ホクホクした気持ちになりながら逸る気持ちを抑えていた。


 ケンはギルドに到着すると、そのまま解体所へ向かった。


「おはようございます。ライアットさん」


「おう、早いな。査定はサーシャに伝えてあるから、そこで貰いな」


「ありがとうございます」


「ところで、今日もクエスト受けるのか?」


「そうですね。まだ武器や防具とかも揃えられていませんし、暫くは稼ぎまくって、装備を整えようかと思ってます」


「そうか。なら魔物の死体はそのまま持ってきてくれるか? 収納持ちだから、他の冒険者と違って鮮度が良く品質がかなりいいからな。その分、買取報酬も上乗せ出来るから、お前からしてもありがたい話しだろ?」


「そうですね。モンスターって首を斬る感じでいいですか? どういうのが良い状態かが分からなくて」


「それで構わないぞ。出来るなら傷のない状態が1番良い品質だがな。戦う上でそれは無理ってもんだ。だから、昨日と同じでいい」


「傷のない状態ですか……少し考えて戦ってみます。もしかしたら、上手くいくかも知れませんから」


「あぁ……毒とかは止めろよ? 品質が最低になるから。酷い時は買取出来ねぇ。こっちも毒で死にたくないからな」


「わかりました。ではまた後で」


「おう、頑張れよ」


 解体所を後にして、サーシャさんの所までやって来る。やけに視線を感じるんだが、気の所為だろうか?


「おはようございます」


「おはようございます。こちらが買取の報酬です。本日は忘れずにクエストの受注ですか?」


 受け取った報酬は結構な量だった。しかし、古傷を抉られるとは……昨日のことだから古傷でもないが。サーシャさんって実はSか?


「はい、俺でも受けられるクエストって、何かありますか?」


「それなら掲示板から……って、剥がそうにも届かないわね。仕方ないから一緒に見ましょうか?」


「お願いします」


 サーシャさんと掲示板の方へと向かうと、掲示板前に屯していた冒険者たちが脇へと避けていった。


「後から来たのにすみません」


「気にしなくていいわよ。見えないのだから仕方ないわ。それで、どれにする?」


「Cランクまでなら、受けていいんですよね?」


「そうよ。Cランクだと……オークの討伐があるわね。あとは、ゴブリンキングね。Dランクはキラーアントよ」


「そのモンスターたちって、森にいるのですか?」


「そうね、森の奥深くまで入り込まないと、見つからないでしょうね。ゴブリンキングは集落を作ってると思うわ。パーティー推奨クエストね。もしかしたら、ゴブリン、ゴブリンメイジ、ゴブリンナイト、ゴブリンジェネラルがいるかもしれないわね。繁殖力が強いから、早めに倒して欲しいのだけれど、森の奥深くっていうのもあって、中々クエストの受注者が現れないのよね。王都の騎士も楽観視してるみたいだし」


「キラーアントっていうのも、巣を作っているのですよね?」


「そうね、こちらはどこかの洞窟あたりに、巣を作っていると思うわ。クイーンがいるはずよ。ちなみに巣の中に入ってはダメよ? 逃げ場がなくなるし、巣の駆除はBランクの依頼だから。彷徨いているキラーアントだけ倒せばいいわ」


「そうなんですか? 倒せそうなら巣の駆除をやってもいいかなって、思ったんですけど」


「かなり危険なクエストよ。複数パーティーで受けないとソロだと厳しいわ。それに、巣の規模も調査していないから危険度が未知数よ。クエストも発行されていないし」


「へぇ、そうなんですね。ゴブリンキングもソロだと厳しいですか?」


「アントの巣ほどの脅威はないと思うわ。Cランクで発行されているのだし。まぁ、それでもパーティー推奨だから、全くもって危険がないわけでもないのだけれど……だから、危ないって思ったら逃げるのよ?」


「わかりました。危ないって思ったら必死で逃げます」


「じゃあとりあえず、ゴブリンキングの討伐、オークの討伐にキラーアント討伐の3種類の受注にするわね。ゴブリン討伐は常駐であるから、それも合わせると4種類になるわね。手続き済ませておくから頑張ってね」


「はい、行ってきます」


 こうしてケンはギルドを後にしたが、またしても騒ぎが起きた。


「おい、あいつが例のルーキーか?」


「噂の通り、子供じゃないか」


「いきなり4種類もクエスト受注しやがったぞ。正気か?」


「流石にキングは無理だろ。あれはパーティ推奨のクエだからな。何の準備もなく達成出来るもんじゃない」


「はぁ……サーシャちゃんとあんなに仲良く……羨ましい……」


「サーシャちゃんがあんな喋り方するなんて……初めて見た。ギャップ萌えだ」


 幾ばくかおかしな会話も含まれていたが、ギルド内の喧騒は暫く続いたのだった。

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