第93話 ギルドデビュー

 冒険者ギルドを見つけると、割かし綺麗な造りに圧倒された。白を基調とした建物で三階建てになっており、奥行も結構ありそうな感じだ。だからだろうか、迷わずにすぐ見つけられたのは。


「ウエスタン風の建物を想像していたけど、これだと都市の役所みたいな感じだな。取り敢えず中に入ってみよう」


 中に入ると冒険者然とした人たちが、大勢いて賑わいを見せていた。


「ほぉ……当たり前だけど、大人達ばかりだな。どこで身分証を作ってもらえるんだろうか?」


 キョロキョロしながら様子を窺っていると、後ろの方から声をかけられた。


「よう、坊主。ここは遊び場じゃねえぞ。早く帰んな」


 振り返ると大柄な男がこちらを見ていた。


「いえ、遊びに来たわけではなくて、身分証を作ってもらおうと思いまして。衛兵の方からここだと作ってくれるって、教えて頂いたものですから」


「身分証? ギルドカードの事か? お前、冒険者になるつもりか?」


 訝しげな視線を向け、男が語りかける。


「身分証ってギルドカードの事だったんですか?」


「知らねえよ。ここで作れるのはギルドカードのみだ。冒険者である身分を証明するものだな。そういう意味では身分証になる」


「へぇ、もしかして冒険者の方はそれを見せて、王都の出入りをしているんですか?」


「そうだな。他の街に行った時も、入る時はギルドカードを見せてるんだ」


「ご親切にありがとうございます。ギルドカードを作って身分証代わりにしたら、どこの街でも入れるという事ですね。早速、作ってきます」


「おい、お前モンスターとか狩れないだろ? 作るだけ無駄になるぞ」


「え? どうしてですか?」


「盗賊とかが、街に出入りするためだけに作ったりするからな。そういうのを防止するために、一定期間クエストを受けなかったら、登録取り消しになるんだ。他にも色々とあったはずだが、1度取り消しになったら、再度登録する時に、身辺調査されて審査が厳しくなる上に、登録料もかなり取られちまう」


「登録を消されても、衛兵の人たちは知らないんじゃないんですか? どうやって見分けるんですか?」


「どういう仕組みかは知らないが、一定期間クエスト受けないと、ギルドカードがくすんだ色になって光らなくなるんだ」


「へぇ、凄い技術ですね。それはそうと、討伐以外でクエストってないんですか?」


「あるにはあるが、別の意味で難易度が高いぞ。この王都の中から、迷子のペットを虱潰しに探したり、ここら辺じゃ取り尽くされている、薬草の採取とかな」


「冒険者といえど結構大変なんですね」


「あぁ、悪いことは言わねえから、大人になってから登録しに来な」


 冒険者ってガラの悪いイメージだったんだけど、この人は物凄く親切だな。声をかけられた時は、『テンプレか!?』って思ったりもしたんだけど。


「とりあえず試しに登録してみます。俺でも狩れそうなモンスターも、いるかもしれませんから」


「そこまで言うなら好きにしな。登録は二階の受付で出来るぞ」


 大柄な男の人にお礼を言って2階へとあがる。1階とはまた違った雰囲気で、物々しさを感じた。


(階によって雰囲気が変わるのか? 3階に上がったらどんな雰囲気なんだろう?)


 受付に視線を向けると、ちょうど空いているところがあったので、そこへ向かって歩き出す。


「おい、坊主」


 掛けられた声に『またか』と思い視線を向けると、男たちが立っていた。先程の厳つい冒険者とは違って、これと言った特徴のない人だった。後ろにいるのは仲間だろうか?


「ガキがこんな所に来てんじゃねえよ。さっさと帰んな」


 ギルドは子供が来たら、とりあえず帰す決まりでもあるのだろうか?


「いえ、ギルドカード作りに来たので帰りませんよ」


「はぁ? お前がか? ハッハッハッ、笑わせんじゃねえよ」


「チビのくせに、冒険者でやっていけると思ってんのか? ごっこ遊びは他所でやれよ」


「冒険者舐めてんのか? アホだろお前」


「別に舐めてはいませんけど、貴方たちの許可を取る必要もないですよね? もしかして見かけによらず、ここの責任者とかですか? それならあなたの発言も一考の余地はありますが。まぁ、そんなわけないですよね? 品位の欠片もないし」


「あぁ? ガキが調子こいてんじゃねえぞ!」


 男が声を荒らげたせいで、周りの冒険者も何事かと注目し始める。


「別に調子に乗ってるわけではありませんよ。事実を言ったまでです」


(これ、このままいったら、テンプレになりそうだな……さっさとギルドカード作りたいのに、何で絡んでくるんだろ。暇なのかな?)


痛い目にあわなきゃ、わからねぇようだな」


「そうだな。痛い目にあえば、身の程がわかるだろ」


「そうそうだけな」


(あぁ……テンプレだ。ちょっとトリオと命名しよう)


「貴方たちに構ってる暇はないので、暴れたいなら他所でやって貰えますか?」


「ふざけんな!」


 正面の男がとうとう殴りかかってきた。思いの外、遅く感じる……これなら避けれそうだ。


 それとこれに当たったら、痛い目にあうどころじゃないよね?


「ほっ」


 さらりと躱すと、男たちが驚愕に目を見開く。


「てめぇ、何しやがった!」


「いや、避けただけだし何もしてないでしょ。品位と一緒に知能まで失ったんですか?」


「馬鹿にしやがってぇ!」


 2人目、3人目とちょっとトリオが殴りかかってくるが、やはり遅く感じるので難なく避けることが出来た。


 周りの冒険者も俺が避けれているせいか、止めてくれる気配すらなく、眺めているだけのギャラリーと化していた。


「もう、諦めてくれませんかね? 俺は貴方たちのように暇じゃないんですよ」


「ぜってー死なす」


「もう泣いても許さねぇ!」


「何がなんでも殴ってやる!」


 額に血管を浮かべて、必死な様子の三者三様なセリフに辟易するも、最初の“ちょっと痛い目に”って部分がもうないような気がした。


 それに避け続けている間に体も温まってきたし、この体の強さも確認したいから、トリオに習って反撃することにする。


「ちなみに聞きたいのですが、やり返してもよろしいですか?」


「やれるもんならやってみろ!」


「後で文句を言わないで下さいね」


 死なす発言をした過激な男の懐へ踏み込むと、とりあえず自分の力がわからない以上、調べる意味でも手加減のために左手でボディに1発。


(これがへなちょこパンチだったら、右手でやり直そう。少し恥ずかしい気もするけど)




 そう思っていた時期が、俺にもありました……


 ボディを受けた男は、それは見事に飛んでいった。綺麗にくの字になって……


 2階フロアから、ギルド入口側の壁へと一直線に飛んでいくと、壁に激突後、2階の高さから1階のフロアへと落下。


「「「えっ!?」」」


 残り2人は目が点になり、飛んでいった仲間の方を見ていた。斯く言う俺も目が点になり、飛んでいった男の方を見た。


 先程まで諍いを起こしていた間柄とは思えないこの一体感。こんな事が最初から出来ていたなら、争いなんて生まれなかっただろうに。


 ギルド内はシンと静寂に包み込まれた。1階はいきなり落ちてきた冒険者に呆然となり、2階は見事に飛んでいった冒険者に呆然として。


 少しすると、飛んでいった男に駆け寄る1階フロアの冒険者たち。安否確認でもしているのだろう。何やら1階が騒がしい。


 2階フロアに至っては、未だに静まり返ってる。この状況で最初に喋り出すのは何かと勇気のいることだが致し方ない。


「あの……」


 俺の呼びかけに対し残りの2人組は、『ギギギ』とゆっくりこちらに顔を向ける。


「まだ続けます?」


 その言葉に勢いよく、横に首を振る2人組。


「なら、もう行ってもいいですよね?」


 今度は縦に首を振る。見後なシンクロ率を見せる2人組に対し、最後の言葉をかける。


「お仲間の様子を見に行った方がいいですよ」


 一斉に駆け出し、階下へ降りていく2人組を確認したら、俺は目的遂行のため受付へとようやく歩き出した。

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