第75話 学院長と対談
――王立フェブリア学院
生徒達が登校している中で、1人学院長室に向かう者がいた。足取りは軽くとても緊張している様にも見えない。
普通なら学院のトップでもある人の部屋に、軽々しくは向かえない上に、とても緊張するものである。
しかしながらこの者は、何とも思わずいつも通りの雰囲気で、気軽に向かい訪問するのだった。
(コンコン)
「どうぞ」
ガチャリとドアを開け、中へと入るのはケビンであった。
「お久しぶりです、学院長。今日は伝えたい事があったので来ました」
予想もしない訪問者に少し動揺するのだが、そこは年長者の功か、表には出さず努めて冷静に言葉を返した。
「お久しぶりですね、ケビン君。伝えたい事とは何でしょうか?」
「ここ最近あった事件の黒幕が分かりましたので、お伝えしようと思いまして」
さすがに今度は動揺を隠せなかった。生徒の行方や犯人探しを、学院も独自に動いて探っていたからだ。
「私が思うに、ケビン君は慈善で動くような子じゃないと、思っていたのだけど……」
「その通りですよ。火の粉がかからない限りは、動くことはなかったんですけどね」
「その言い方だと、巻き込まれたのかしら?」
「ええ、どっぷりと。自宅への帰り道の際、つけられていたのは知っていましたが、実力行使に出られて襲われたんですよ。返り討ちにしましたけど。まぁ、外出禁止令の最中に敷地外へ出る子供なんて、自分くらいしかいなかったから、仕方ないと言えばそれまでなんですけど」
学院長の記憶では、ここ最近あった事件で思い当たるのは、路地裏での大量殺人だった。
「もしかして、あえて誘いに乗りませんでしたか? ここ最近あった出来事で、大きなものと言えば路地裏での出来事です」
「それは違いますよ。かなり鬱陶しかったので、こっちから誘ってみたんですよ。馬鹿なくらいに釣れましたけどね。普通に考えて、行方不明事件が起きてるのに、態々路地裏に向かう子供なんていないでしょうに。考え足らずな者たちでしたね」
学院長は驚愕した。年端も行かない子供が大人相手に戦って、全て殺しているのだ。普通なら忌避感を持ち、殺すことまでは出来ないからだ。
「その件は聞かなかった事にしますね。事情聴取なんてつまらないものは受けたくないでしょう? それで、次は黒幕を教えてくれるのですか?」
「それもありますが、少し違いますね。襲われた事が母にバレてしまいまして、関わった者は全員殺すと意気込んでいたものですから、少し待ってもらうように言ったんですよ。対応次第で全員殺す事になりますけど。ちなみに母は王城に行ってますよ」
「なっ!」
更なる事実を知り、今日一番の動揺を見せてしまった。一番怒らせてはいけない相手が動き出したのだ。
これはもう、行き着く所まで行き着いた事になる。知りませんでしたでは済まされない所まで来ていた。現に本人は王城へ行っているのだ。
「最終的には全員死んでもらう事にはなるんですけど、そこには殺すか処刑されるかの違いしかありませんが、出来れば処刑で済ませたいかなと思いまして。ちなみに誘拐の実行犯は殺す事になっています。母もそこだけは譲れないみたいですね。そいつがいなければ自分が襲われる事もなかったですから」
「処刑で済ませたいという事は、ここに来た本当の理由は何かしら? ただ、犯人を教えてくれるだけではないのでしょう?」
「そうですね。その黒幕の内の1人がここの教師だったんですよ」
「そ、それは本当なのですか!?」
学院長からしたら、予想の斜め上の情報が齎された。栄えある学院の教師に裏切り者がいるとは、微塵も考えていなかったのだ。
「やはり知らなかったようですね。教師の見回りが行われている中で、難なく誘拐されたのだから、その時点で予想はしていたんですけど……学院長はおっちょこちょいですね」
「そんな……我が学院の教師が関わっていたなんて……」
自分がおっちょこちょいと言われた事よりも、身内が関わっていた事の方がショックであったらしい。
「という事で、落ち込んでいるところ申し訳ないのですが、その教師を逃げないように拘束して、国に引き渡して欲しいのです。そのお願いの為に訪問したわけですから。もし取り逃がしたりしたら、こちらで処理しますので、ご了承ください」
「……ちなみにその教師は誰なのですか?」
「タナックス先生ですよ」
(そんな!! 同僚や生徒からも人受けの良い人気の先生なのに。何かの間違いでは!?)
「吃驚されているようですね。パッと見、悪い人には見えませんでしたからね」
「彼の担当する学年は違うのに、知っているのですか?」
「登校がてらチョロっと顔を拝みに行きましたから。逃げられてもすぐに探しだせるようにね」
「そうですか……さすがに表立って動いては、学院に混乱を招きますので、秘密裏に拘束する形にしますよ?」
「手段はそちらに任せますよ。後で国から使者が来ると思うので、そこで引き渡せば良いと思いますし」
「子供たちの誘拐事件とはいえ、国が動くほどですか……」
「黒幕の1人が貴族だからですね、仕方ないですよ。だから、母が王城へ行ったんですよ」
(!!)
「次から次へとよくもまぁ、驚かせてくれるものです。ところで、攫われた生徒達はどうなったか知りませんか? あの子たちが心配なのですが……中にはちょっとした面識のある子もいますし」
「へぇ、知り合いの子でも攫われたのですか?」
「入学試験の時に知り合いましてね。意欲のある子供だったから覚えていたんですよ」
その時を思い出したのか、学院長の顔が先程よりも少し柔らかくなった。
「これはあくまで予想でしかないのですが、まだ売り飛ばされたりはしていないと思いますよ。この王都の何処かにはいるでしょうね」
「ケビン君が言うのでしたら、安心ですね」
「それは何故です?」
「“まだ売り飛ばされてはいない”という事は、ある程度事情を知っていそうですし。“王都の何処かにはいる”って事は、もう予想はついているのでしょう?」
「いつもそのくらい賢明であれば、内部の裏切り者にも気付けたかも知れませんね。」
「ふふっ、一本取ったつもりが取られてしまいましたね」
「ぶっちゃけて言うと、誘拐の実行犯が賞金首なんですよ。そんな奴が街中にいるってことは、人目につかない場所に隠れ住むしかありません。本人からしたら、衛兵に対して灯台もと暗しで
「出来れば生徒たちを助けに行きたいのですが、ケビン君からしたら足手纏いになりそうですから、行かない方が無難ですね。だから、生徒たちの事を任せてもよろしいですか? 私の顔に免じて助け出して欲しいのです」
「わかりました。1つ貸しにしときますよ」
「高くつきそうですね」
「その時の気分によりますね。では、教師の方はお願いしますね」
「わかりました。すぐに取り掛からせるわね」
「では、失礼しました」
学院長室からケビンが出て行くと、すぐに手元にある通信機である教師を呼び出すのだった。
「ジュディ先生、至急学院長室まで来て下さい。最優先事項です」
この日、密かに一人の教師がその職を辞することになったが、今はまだ事を公にする訳にもいかず、生徒達にはありふれた理由で、転勤すると知らされた。
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