第60話 闘技大会 ~代表戦~ ③

 マイクと相手選手がリング上から運び出されたあと、審判が次の試合の選手へ招集をかける。


「3人目の選手はリングへ」


 次のFクラス代表はマルシアだった。リングへ上がると相手選手は男性だったので分が悪いかもしれない。


「第3回戦……始め!」


 緊張高まる中で開始早々からマルシアは仕掛けていった。


「《清廉なる水よ 球体となりて 我が敵を撃て ウォーターボール》」


「甘いよ」


 その選手は難なく避けると、お返しと言わんばりに同じ魔法を唱えた。


「《清廉なる水よ 球体となりて 我が敵を撃て ウォーターボール》」


 今度はマルシアが回避する番だが、水球が軌道を変えて追尾しマルシアは被弾してしまう。


「くっ!」


「試合中に敵から目を離しちゃダメだよ」


 そこからは一方的に試合が進んだ。マルシアが唱える魔法を相手が同じ様に唱え、マルシアの魔法は当たらず相手の魔法だけが当たっていく。


 マルシアは魔法特化タイプで近接戦は苦手とし、打開策が全くと言っていいほど見つからなかった。


 変わって相手選手はオールラウンダータイプで、近接も魔法もそこそこできるので無駄なくマルシアを追い詰めていく。


 しばらくマルシアも奮闘したが、実力差をありありと感じてしまい最終的には降参してしまった。


「参りました。私の負けです」


「良かった。女性とはやりにくいから降参してくれて助かったよ」


「勝者、アーノルド!」


 マルシアが気落ちしてリングから降りてくると、サイモンとマイクがフォローに入った。


「お疲れ様。今回は相性の問題でマルシアが弱いわけじゃないよ」


「そうだぞ。気にするな」


「2人ともありがとう」


「それに、次はカトレアさんだから挽回してくれるよ」


「4人目の選手はリングへ」


「ケビン君、行ってくるよ。……って、寝てるし!」


 カトレアがケビンに声を掛けると、ケビンはスヤスヤと寝息を立てていた。


「これから人が戦うってのに、何かムカつく」


 独り言ちりながら、カトレアはリングへと上がって行くのであった。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 時は遡り、中等部の教室では……


「今日はケビン君の代表戦なのでしょ? 早く観に行きますわよ。もう1回戦は始まってましてよ」


「心の準備が……」


「朝からそれしか言ってないじゃありませんの! 弟の勇姿を見逃しますわよ」


「モニター越しに観てるから。それなら平気だから」


「せっかく総員戦と違って観戦できるのですから、生で見た方がいいに決まってますわ!」


「それでも……」


「いつもの貴女は何処へ行きましたの。ヘタレ過ぎですわよ」


「久し振りに会うからどういう顔をしたらいいかわからなくて」


「会うって……観戦席から観るだけでしょうに。とにかく行きますわよ」


 女子生徒はそう言って、シーラの腕を掴み教室を後にする。


「やっぱりモニターで観戦しようよぉ」


「今日の貴女はいつもと違って面白いのですけれど、それなら私1人で生のケビン君を堪能してきますわよ」


「それはダメ!」


「それならさっさと闘技場へ行きますわよ。今から行けばまだ間に合いますわ」



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 時は戻り闘技場では、今まさにカトレアと相手選手の試合が始まろうとしていた。


「第4回戦……始め!」


 カトレアと対峙しているのは女子生徒であったが、中々試合は進まなかった。


「総員戦ぶりですね」


「何処かでお会いしましたか?」


「なっ! 貴女の陣地で戦ったでしょ!」


「んー? ……あっ、斬り捨てた人!」


「もっと違う覚え方はないんですか!?」


「それはそうと、ちょっと聞いてよ。あの時も言ったと思うけど、ケビン君ったらまた寝てるんだよ。ほら?」


 カトレアがそう伝えて指さす先には、スヤスヤと眠る少年の姿があった。


「寝てますね」


「酷いでしょ? また私に戦わせて自分は寝てるんだよ。今日も今日とて、俺は戦わないからお前までで3勝してくれ、みたいなこと言うんだよ。ありえないよねー」


「戦う順番を変えたら良かったんじゃない?」


「そんなことしたら絶対にわざと負けるよ。私までに2勝してたら負けてやるって言って、出場させようとしたら俺も降参してやるって言ってたんだし」


「そんなに彼が戦ってるところが見たいの?」


「絶対に実力を隠してると思わない? 余裕持ち過ぎなんだよ」


「まぁ、試合中に寝る人なんて初めて見ましたからそうかもしれないけど、ただ単にやる気がないだけでは?」


「やる気がないのは当たり前なんだよ。自己紹介の時、ダラダラ過ごすのが学院生活での意気込みって言ってたし」


「自己紹介でそれを言うのも凄いですね」


 そんな和気藹々と会話をしていた時、審判から試合の催促をされる。


「ゴホン! 君たち、戦う気はあるのかね?」


「す、すみません」


「ん? 戦う気はあるけど戦ったらすぐ終わっちゃうし、そしたら私のイライラ解消の捌け口がなくなっちゃうじゃないですか」


「試合後に話せばいいだろう。それに、自信があるのはいいことだが傲慢になってはダメだよ」


「いやいや、すぐ終わるのは事実ですし」


「ふぅ……君みたいな子は毎年いるんだが、大体は実力が伴っていないんだよ。分を弁えて精進したまえ」


「何かこの人と話しててもイライラしてムカつくし、さっさと終わらせようか? こういうこと言う人って経験上大した実力もないんだよね」


「なっ!?」


「貴女、ちょっと言い過ぎよ。相手は審判なんだから我慢しないと」


「いいよ、あの人は無視して始めよう」


「しょうがないわね。あの時のリベンジよ」


「行くよー準備はいい?」


「いつでもどうぞ」


 相手選手が発したその言葉の瞬間にリング上からカトレアの姿が消えた。


(ドサッ……)


 辺りに響いたその音とともに、リング上には倒れた相手選手がいた。


「ね、すぐ終わったでしょ? 呆けてないで勝利宣言してよ」


 カトレアの言葉に審判は我に返り、苦虫を噛み潰したような顔をしながらも勝利宣言をする。


「し、勝者、カトレア!」


 審判からの勝利宣言が行われたにも関わらず、闘技場内は何が起こったのか理解が追いつかないで静まり返るのであった。

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