第61話 闘技大会 ~代表戦~ ④

 試合を終わらせたカトレアがリングから降りると、サイモンたちが駆け寄って声をかけるのだった。


「カトレアさん、さっきのはどうやったの? 気づいたら相手選手が倒れていたんだけど」


「普通に斬っただけですよ」


 カトレアはそう答えてケビンの傍らへ座り込むがケビンは相変わらず寝ているようで、カトレアはジト目を向けるのである。


「最後の選手はリングへ」


 気を取り直した審判から指示が出ても、ケビンは一向に起きる気配すらなかった。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 時は少し遡り。


「さぁ、シーラ。闘技場につきましてよ」


「うぅ……緊張する……」


「本当に今日の貴女は面白いですわね」


 そんなやり取りを2人はしながら闘技場内に入ると、ちょうど4回戦が始まったところだった。


「何とか間に合いましたわね。さぁ、最前列に行きますわよ」


 そしてたまたま空いていた席を見つけると、2人はそこへ腰を下ろす。


「それにしても、あの子はケビン君の傍らにいた子ですわね。何やら和気藹々と喋っているようですけど」


「あんな子なんてどうでもいいわ」


「観ておく価値はございましてよ。Fクラスに不釣り合いな実力の持ち主なんですから」


 その瞬間対戦相手が倒れた光景を2人は目の当たりにするのだった。


「……今の見えてまして?」


「見えたわ。中々やるわね」


「あの審判は見えてなさそうですわね。固まってますわ」


 その後、勝者が告げられ試合は最終戦となる。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「最後の選手はリングへ」


 相手選手がリングへ上がるのだが、Fクラスの選手が上がってこないことに闘技場内は少しザワつくのだった。


「Fクラス、選手はリングへ上がりたまえ! 上がらないのなら不戦敗とする」


 審判からのその言葉にFクラスの生徒たちや代表選手は慌て出すのだった。


「おい、カトレアさん! ケビン君は起きないのか!?」


「さぁ? グースカ寝てるから恥でもかけばいいんだよ」


 カトレアは自分の試合を見ていなかったケビンに対して、頬を膨らませて少しむくれていた。


「シーラ、ケビン君が寝てますわよ。相変わらずですけど凄いですわね」


「あぁ、気持ちよさそうに寝ているわ。可愛いわね」


「それはともかく、このままだと不戦敗になりますわよ。クラスメイトじゃ起こしきれないのではなくて?」


「不戦敗は許せないわ。でも、ケビンが気持ちよさそうに寝ているのに邪魔をしたくないわ」


 そのような中で審判から判定を伝える言葉が会場内に響きわたる。


「Fクラスの選手が上がってこないため、第5回戦はEクラスの不戦勝とする。結果、2対2、1分けによりサドンデス戦を行う。サドンデス戦の代表選手はリングへ」


「Eクラスの代表は俺のままでお願いします」


「Fクラスは代表を決めてリングへ上がりたまえ」


 まさかの不戦敗となり、Fクラスはてんやわんやとなっていた。


「サドンデス戦の代表選手は誰にする? 実力から見てカトレアさんしかいないと思うんだが」


「そうだな。俺もマイクも消耗しているしカトレアさん頼めるか? これで勝てば俺たちの勝ちになる」


 そこで初めてカトレアはケビンが起きない理由に気づいたのだった。先程起きていればケビンが試合に出なければならず、なおかつ2勝していたため周りからの勝利への期待も大きくなる。


 だが、ケビンが不戦敗となりサドンデス戦に縺れ込むと代表選手を決めなおすために、確実に寝ているケビンより圧勝した自分に白羽の矢が立つのだ。


「これはしてやられたかな。ここまでのことはさすがに私でも読み切れなかったよ」


「カトレアさん、出てくれないかな?」


「嫌よ。疲れるのは嫌いなの。ケビン君を起こして出場させればいいのよ」


「でも、当の本人が寝たままだからね」


 そこで審判からFクラスの代表選手たちへ再び声が掛かる。


「Fクラス、まだかね? また不戦敗になりたいのかね?」


 さすがにここまで来て不戦敗で負けるのは嫌なので、サイモンが意を決して出場しようかと悩んでいるとき、観客席でシーラに声をかける女子生徒の姿があった。


「シーラ、Fクラス負けるみたいですわよ」


「仕方ないわ。寝ているのに可愛そうだけどケビンを起こすわ」


「あら? 起こせるんですの?」


 2人が話し合っている中、待つだけ待っていた審判から判定が下される。


「Fクラスは、選手不在のため不戦ぱ――」


「待ちなさい!」


 突如発せられた声の方へみんなが視線を向けると、フワリと観戦席から舞台へ降りる女子生徒がケビンの方へ向かって歩き出していた。


 いきなりの乱入者に辺りは静まり返るが、その者を知っている者がいるらしくヒソヒソと話し声が聞こえる。


「おい、あれって中等部の【氷帝】じゃないか?」


「何でエリートがこんな所にいるんだ?」


「知らねーよ。暇つぶしじゃないか?」


「Fクラスの方に向かってるよな? 知り合いでもいるのか?」


 観客たちが疑問に思い見守る中、シーラはケビンの元に辿りついて代表選手に声を掛ける。


「うちの弟が寝てしまって迷惑かけているようでごめんなさいね」


 その言葉に観客たちが騒然とする。まさか氷帝の身内がFクラスにいたとは誰も予想だにしなかった。


 氷帝と言えば未だ負け知らずのエリートで、その身内は兄が2人いて共にSクラスから落ちたことのない、同じくエリートなのだ。


 そんなエリート三兄妹に弟がいたことにも驚きだが、さらにSクラスではなくFクラスに在籍しているなんてとても信じ難い事実であった。


「あ、あのケビン君は起きるのですか? 呼びかけても反応しないのですが……」


 サイモンが恐る恐る姉と名乗る少女に聞いてみる。


「大丈夫よ、起こすわ。貴女、そこを退いてくれる? 邪魔よ!」


 シーラがそう言い終えると、カトレアを威圧して退かすのであった。そしてケビンの傍らに膝をつき耳元で囁く。


「私の可愛いケビン。起きてちょうだい。お姉ちゃんからのお願いよ。起きないと抱きしめちゃうんだから」


 その瞬間、ケビンが覚醒し物凄い速度で寝ていた場所から距離を取り、一連の光景を見ていた人たちは目を疑ったのだった。

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