第42話 公開処刑?

 母さんと今日あったことを話していたら、来訪者が来たことをマイケルさんが知らせに来た。


(コンコン)


「奥様、お客様がお見えです。如何なさいましょう?」


「応接室に通しておいて」


「かしこまりました」


 それを聞いた俺は母さんの膝上から降りる。


「今日はお客様が来る約束があったの?」


「違うわ。大方、学院の関係者が謝罪に来たのでしょう。ケビンへしたことに対しての報復を恐れて」


「母さんは学院に報復するの?」


「学院が謝罪に来なかったらそうなってたかもしれないわね。ケビンを危険に晒したのだから当然でしょ?」


 特段、俺としては危険になったつもりはないんだけど、言わない方がいいかな。母さん怒ると怖いし。


「今から対談しに行くの?」


「そうね、ケビンも当事者だから一緒にいらっしゃい。面白いものが見れるかもしれないわ」


 面白いものかぁ、何か嫌な予感しかしないんだけど。


 それから俺は母さんについて行き応接室へと向かったら、応接室のドアの前にはマイケルが立っていた。


「中でお待ちになっております」


「開けてちょうだい」


 すかさずマイケルがドアを開けると、中には試験官とブロンドの若々しい見た目の人が立っていた。誰だろう?


 そのまま対面まで移動すると、母さんは慣れた感じで話しかける。


「こんな時刻にアポもなしにやって来たのは誰かしら?」


「約束のない訪問となり大変不躾とは思いますが、ことの重大性につき急ぎ参らせて頂きました」


 ブロンドの人がそのように答えているが、試験官が黙っているということは上司だろうか?


「私は『誰かしら?』と聞いたと思うのだけれど、貴女には通じないのかしら?」


 その瞬間、母さんお得意の威圧が放たれた。俺は慣れたもんだけどお客さんはそうじゃないらしい。


 顔は俯き手は強く握りしめられ膝がガタガタと震えているのが見て取れた。まるで産まれたての子鹿のようだ。これを見るといつも相手に同情してしまう。


「た、大変失礼しました! 私はフェブリア学院の学院長をやらせて頂いております、アナスタシア・フェガロットです」


 学院長かよ! なんでそんなお偉いさんがうちに来てるんだよ。てっきり主任試験官みたいな人かと思ってた。


「そちらの方は?」


 そう言って母さんはもう1人の方へと視線を移した。


「わ、わ、私は本日の試験を担当しました、ジュ、ジュディでしゅ!」


 あっ、噛んだ……恐怖なのか恥ずかしさなのかわからないが、プルプル震えている……


 試験官はジュディさんっていうのか。初めて知ったな。


「とりあえず貴女方が誰なのかはわかったわ。座ってちょうだい」


 威圧を解いて母さんがソファに座ったので、俺も隣に座った。それにつられビクビクしながら2人も座る。


(コンコン)


「失礼します」


 見計らったかのようにマイケルさんがお茶を持ってきた。相変わらずできる人だ。


 お茶を優雅に注いでは配り終えたマイケルが退室するのを確認して、そのお茶を1口飲んだ母さんが再度喋りかける。


「今日はどういった用件で学院の方が態々いらしたのかしら?」


 母さんわかってて言ってるよね。さっきまで話していたし試験のことしかないじゃん。


「本日、学院の不手際で試験中に事故がありまして、そのご報告とお詫びに参らさせて頂きました」


「あら? 世間はいつから故意にやることを、“事故”と表現するようになったのかしら?」


 またもや母さんの威圧が少しだけ炸裂する。母さんなんか楽しんでない?


「ひっ!」


 ほら、ジュディさんがガクブル状態じゃん。せっかくさっき落ち着いたばっかりなのに。それに比べると学院長は大したもんだな。ギリギリで耐えてる。僅かに震えてはいるけど。


「も、申し訳ありません! 故意にやったのは実技試験を担当した者でして、学院としては故意のつもりは全くございません」


「そうやって言い逃れをするのね。悪いのは担当官で学院は無関係だと。こういうの何て言うのかしら? トカゲの尻尾切りかしら?」


 うわぁ……追い詰めるねぇ、まもなく袋小路じゃん。これ、何て返すんだろ?


「そういうつもりは毛頭ございません。その担当官を雇ったのは学院であり、私の責任でもあります」


「そう、あなたが責任を取るのね。どう取るのかしら?」


 返しづらい言い方するなぁ。妥協点を提示してくれた方がまだ助かるのに。


「そ、それは……」


 やっぱり返答に困るよねぇ……


「あらあら、責任を取るというのはどうやらみたいね。口だけで責任を取るなら私はその口を2度と使えない様にすればいいわけね」


 二重の意味でなじってるね。『上手い、座布団一枚!』って、思ってる場合じゃないよな。


 そう言った母さんが軽めの殺気を放った。うん、ちょっとやり過ぎかな。そろそろ止めようかな。


 そんな感じで思っていると、少し何かが臭った。


『ん? 尿臭?』


 2人ともガクガクしながら震えていて、下の方へ視線を向けてみると股間のあたりが濡れてるような気がした。遅かったか……


 大人の女性が失禁するなんて初めて見たな。いや、失禁する女性自体見るのが初めてなんだが。


「粗相しちゃったみたいね。これじゃ話を続けられないわ」


 2人とも放心している様で声に反応できていない。母さんの殺気に当てられたんだから仕方がないんだけど。このままにしておけないしな。


「マイケルさん、いる?」


「ここに」


 忍者かよ! いつの間に背後に控えていたんだ!? 何となく来るかなぁって呼んでみたんだけど凄すぎる!


「お客さんが粗相をしたみたいだから浴室に連れて行って湯殿を使わせて。あと、着替えを用意してあげて」


「かしこまりました。カレン、お客様を浴室へ連れていきますよ」


「わかりました。さぁ、こちらへ」


 待って!? カレンさん何処から来たの? ドアまだ開いてないよね? カレンさんはくノ一なの!? そのまま何事もなかったように普通にドアから出ていくし。


 そんな感じで驚いていると、母さんが喋りかけてきた。


「ケビン、面白かったでしょ? プルプルしてて子鹿のようだったわ」


「母さんも人が悪いよ。本気じゃなかったのでしょう?」


「そうね。謝罪に来ているのだしその時点で許してるわ。それにしても粗相したのは予想外だったわ。大人だから大丈夫だと思ったんだけど」


「悪いと思ったならちゃんと後で謝っといてね」


「ケビンがそう言うならそうするわ」


「学院には兄さんたちや姉さんが通ってるから是非そうしてね。寮住まいしているせいでまだ1度も王都に来て会ってないけど」


「そうね。そういえばあの子たちはまだ学生だったわね」


 忘れてたんかい! まぁ、久しく会ってないから仕方ないんだろうけど。


「それじゃ、リビングに戻りましょうか?」


「そうだね。ここにいても仕方がないしね」


 席を立った2人は応接室を後にし、リビングへと向かうのであった。

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