第37話 いざ、入学試験! ~実技試験・武術編~
担当官に連れられてしばらく歩いていると、先程のような闘技場へついた。一体いくつ闘技場があるのやら。敷地が広いとやりたい放題だな。
「よーし、お前ら誰からでもいい。かかってこい」
担当官が発したその言葉に受験者たちは困惑する。それもそうだ、いきなり「かかってこい」なんて言われて行くやつなんて、後先考えない馬鹿だけだろう。
「あぁ? 来ねぇのか? 試験は始まっているんだぞ。さっきは1人1人相手にしてたから面倒くさくなっちまってな、纏めてでいいぞ。ほれ、かかってこい」
やはり受験者は困惑するが、何人かは予め選んでおいた得意武器を構えていた。どうやらやる気みたいだな。
そのような中で1人勇敢にも挑みに行ったやつがいたが、軽くあしらわれて吹き飛ばされていた。先程の武術組の服が汚れていたのはこれが原因かもしれない。
「ほら、どんどん来い。評価点が0点になっちまうぞ」
その言葉を皮切りに突っ立っていた他の受験者たちも挑み始めた。流石に0点は嫌なのだろう。合格が遠のくしな。
しばらく担当官と受験者たちのやり取りを眺めていると、動けなくなっているものたちがチラホラ目立ち始めた。1番最初に挑んだやつなんかはもう立ち上がれず座り込んでいた。
「そろそろ終わりそうだな」
そう言う担当官と目が合ってしまう。
「そういえばお前はまだ1度も来てないな。服が汚れていないじゃないか」
「服の汚れが関係あるんですか?」
「そりゃ、あるだろう。お前たちみたいな坊ちゃん嬢ちゃんに、世間の厳しさってもんを教えこんで無様に晒さないと、俺のストレス発散がままならねぇだろ」
やはりこいつはダメだな。根っからの小悪党だ。よくこんな奴がAランクに上がれたもんだな。
「Aランク冒険者らしくない発言ですね。品位が疑われますよ?」
「品位だぁ? いかにもお金持ちの言いそうなことだな。こちとらスラム上がりで品位なんざ腹の足しにもならねえもんは持ち合わせちゃいねぇんだよ!」
そういうことか……スラムで育ってきたもんだからお金持ちに偏見があり僻んでいるんだな? その上での八つ当たりか。せっかくスラムからのし上がったってのに勿体ないな。
「よくそんなんでAランク冒険者になれましたね」
「そんなもんは実績を積めば誰でもなれるんだよ。あいつらは表の出来事にしか眼を向けねぇからな」
「裏では色々したと?」
「当たり前だろう。依頼の横取りや押し付けなんてのを繰り返しゃ、俺の手元に残るのは依頼達成の証だけだ。奴らは疑いもせず「依頼達成おめでとうございます」なんて言うもんだから、腹を抱えて笑いそうになったぜ!」
救いようのない馬鹿だったな。よくもまぁ、ベラベラと喋ってくれたもんだ。
「お前、俺がベラベラ喋ってんのを不思議に思ってんだろ? そんなのは簡単だ。ここにいるやつら全員を2度と俺に逆らえないように恐怖を滲みこませりゃ、チクるやつなんて出てこないからな」
「そんなことができるとでも思っているんですか? ここは学院ですよ?」
「できるさ。さっきの奴らもボロボロにしたが、誰1人として試験官に報告しなかっただろう?」
その場にいた受験者たちはこれから起こる恐怖に身震いした。
やれやれ、適度に試験を終わらせてのんびりしたかったのに、とんだ災難だな……
「仕方ないな。あんたの様な奴は放っておくと碌でもないことを仕出かすからな。試験官に突き出すとするよ」
「ハハハハハッ! 笑かすなよガキ風情が。お前如きにどうこうできるほど、俺は弱くはねぇんだよ!」
「それじゃあ俺の試験を開始するとしますかね。何もしないままだと本当に0点になるし、ちゃんと評価してくれよ?
「舐めるな、クソガキがぁ!」
担当官はその言葉と同時に駆け、瞬時に間合いを詰めてくる。
(腐ってもAランクってところか……母さんに比べると遅すぎるが)
担当官の武器はグレートソードだし、剣の間合いだとこちらが不利だな。冷静になられても困るし、ちょっと煽るか。
武器を振りかぶっていたので直前で避けると、袈裟斬りに振り抜かれたその切っ先が地面へと突き刺さる。凄まじい音と共に砂塵が舞い、視界を一時的に塞がれる。
追撃がないようなのでそのまま佇んでいると、晴れていく砂塵の向こうから、奴のニヤニヤとした表情が見えてきた。
「少しは楽しめそうだな。坊主」
「こっちは楽しめませんね。馬鹿だ馬鹿だと思っていたけど、本当に馬鹿ですね。頭の中まで筋肉でできているんですか? 脳筋ですか? ただ剣を振るだけなら馬鹿にでもできるって言われてますけど、まさにその通りでしたね。体現して頂きありがとうございます。お手本を確かに見せてもらいましたよ」
煽り口調ってのは丁寧語の方が響くって聞いたことがあるんだけど、効果はどうなのだろう? 煽ってるんだから口調とか関係ないような気もするんだが。
「こんっの、クソガキがぁ!」
うわぁ……効果覿面じゃないか。明らかにブチ切れてるだろ、これ。顔を真っ赤にして怒ってるし。
そこからの攻撃は実に読みやすかった。直情型の人のようで何がなんでも斬ってやろうって思いからか、剣筋は単調になって動きが大きくなっていた。
「当たりませんねぇ、お手本の時間をそろそろ終わりにして欲しいのですが……もしかして真性の馬鹿なのですか? 馬鹿なフリをしているのではなく? もしそうなら申し訳ありません。配慮が足りませんでしたね」
担当官の攻撃を避けつつも、煽りを忘れない。ムカつく奴には徹底的に扱き下ろして心を折る!
「ふざけやがってぇ!」
その後も全く当たらない大振りの剣筋が空を切るが、飽きてきたしそろそろ終わらせるか。
「じゃあ避けるのも飽きてきたから、反撃させてもらうよ」
そう言って瞬時に後ろへ回り込むと、まずは右脚に剣を刺した。
「ぎゃあぁぁ!」
「ちょっと刺されたくらいでうるさいよ」
叫びながらも俺との間合いを取り直すあたりは、長年の経験の賜物か?
「次行くよー」
再び回り込むと次は左腕に剣を刺す。
「痛ってぇぇ!」
それにしてもうるさいな。何とかならんのかね、耳障りなんだけど。あとは左脚と右腕か。逃げ回られても面倒だし、次は脚を狙うか。
「ほいっと」
瞬時に間合いを詰めて、左脚を貫く。
「ぐあぁぁっ!」
残るは右腕だけだな。さて、さっさと終わらせるか。
そう思ってケビンが歩みよると担当官は後退り始めた。
「ひ、ひぃぃっ! や、止めてくれ、俺が悪かった。この通り謝るから、な?」
何故人は謝るからと言って「ごめんなさい」を言わないのだろう? 「謝るから」が何時からか「ごめんなさい」の代わりになってないか?
今まで社畜をやっていた頃に「謝るから」と言って、本当の意味で謝った奴なんかいなかった。
この世界でもそこら辺は一緒なのか? 人の社会だし仕方ないのか……
「これに懲りたら2度と悪さするなよ」
そう言って踵を返すと、後ろから担当官が襲いかかってきたのだった。
「馬鹿がぁっ!」
やはり三下はやることが変わらないな。これも1つのテンプレってやつか?
「馬鹿はお前だ。無能め」
そう言いながら振り返り様に残しておいた右腕に斬撃を浴びせる。その瞬間、グレートソードと共に右腕が宙を舞う。
「ぎゃあぁぁ! 俺の、俺の腕がぁぁっ!」
右腕が肩から無くなり、夥しいほどの血が流れる。
このまま放って置いてもいいが母さんに迷惑がかかるだろうしな、処置だけはしておいてやるか。
『ファイア』
肩の部分に火の手があがり傷口を焼いていき、皮膚を焼いたおかげで出血は止まったようだな。
もうこれで2度と右腕は元に戻らないだろう。この世界の回復魔法がどの程度効果があるか知らないが。
「熱ぃぃっ!」
こいつは一々叫ばないと済まない性格なのか? さっきからうるさすぎるぞ。さて、元の試験会場に戻るかな? ここまでしたんだから俺は不合格だろう。
「おい、お前ら元の会場まで戻るぞ。一応、まだ試験中だしな」
そう言うと辺りで座り込んでいた受験者たちは無言で何度も頷くのであった。ほとんどの者たちは俺の方を見て顔を青ざめさせていた。
恐怖を与えようとしていたのは担当官で俺の方じゃないんだがな。人生ままならないな。
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