第36話 いざ、入学試験! ~実技試験・魔法編~
その後、元の教室に戻ると周囲から同情のような哀れみの視線を感じた。そのような視線を浴びせられる見当がつかないのだが、何かしたかと思い出していると試験官が教室に入ってきて目が合った。
「これから実技試験だが精一杯頑張ればまだチャンスはあるぞ」
その一言で先程の視線の理由が掴めた。周りの人間には俺がどうやら頑張り虚しく、不合格になると思われているらしい。そりゃ、真っ先に途中退席したからな。
俺にとっては他人がどう思おうと知ったこっちゃないからどうでも良いのだが、あまり見下されるのは好きではない。同情するなら金をくれって感じだな。
「それではこれより実技試験会場へ向かう。実技試験については向こうで担当官から説明があるので、聞き漏らさないようにすること」
その号令とともにゾロゾロと試験官の後を受験生たちがついていく。そして暫くすると大きな闘技場のような場所へついた。
なんかコロッセオみたいな造りだな。闘技大会とかあるのだろうか?
「おう、集まったな。俺がここの担当官を任されている者だ。試験は武術と魔法に別れて両方が審査項目に入っている。それにより、どちらに適性があるのか判断するからだ。
現段階でお前らはどちらも低レベルな能力しか持たないだろうが、所詮6歳児なんてそんなもんだ。
もし入学することができたら自分に合った力を伸ばしていけよ。苦手な分野を克服しようなんて馬鹿のすることだからな」
なんかムカつくな。完全に人を見下した喋り方をしている。あんなのが教師をしていていいのか? 生徒に悪影響だろうに……
そう思った俺は引率していた試験官に尋ねてみることにした。
「すみません、あの方は教師なのですか? とても指導できるようには見えないのですが」
「彼は冒険者だよ。人手を集めるのにギルドに依頼するんだけど、たまにああいうのが来たりするんだよ。今年はハズレを引かされた感じだね……それでもAランク冒険者らしくてね、不測の事態にも対応できるとして実力はあるから仕方なく雇っているのさ」
あれで母さんと同じAランク冒険者なのか? 天と地ほどの差じゃないか。同ランクでもピンキリの差があるってことか?
「じゃあ、試験を始めるぞ。魔法組はそこに並んで的に向かって得意な魔法を放て、当たればラッキーと思えばいい。武術組は俺が相手をしてやるから気兼ねなく本気でかかってこい。お前らがどう本気を出したところで俺が怪我する事はないからな。それじゃあ、武術組はこっちに来てくれ。場所を移さないと魔法の誤発射の餌食になるからな」
担当官がそう言うと半数ずつ別れて、武術組はこことは違うどこかへ向かい試験が始まった。魔法組は淡々とこなしているのでこっちの方が早く終わりそうである。
「それでは、次の組。そこに等間隔で並んで自分の前にある的を狙うようにして下さい。焦らずに自分のペースでいいですから」
魔法組の担当は引率していた試験官だった。ここの担当官があんな奴だったからこの人がとてもいい人に見えてしまう。
受験者たちは思い思いの魔法を使い、的に当たる者や的から逸れてしまう者と様々だった。
魔法組に振り分けられていた俺の番が回ってきたので、とりあえず試験官へ気になっていることを聞いてみる。
「あの的を魔法で壊せばいいのですか?」
「それは無理ですね。あの的は試験期間中はずっと使い回すので壊れない様にできているんですよ。だから安心して全力で撃って構わないですよ」
凄いな……使い回すために壊れない様にするなんて。確かに受験者数が多すぎるから、普通の的だとすぐに壊れて取替えになってしまうな。
経費削減してその分を臨時の職員募集や食事無料に当てているのかもしれないし、コストパフォーマンスがいいな。
そのようなことを考えていると、試験官にふと声をかけられる。
「もしかして魔法は苦手ですか? 先程から魔法を撃つ素振りが見えないのですが……まぁ、それでも構わないですよ。剣士タイプの素質だと魔法は苦手ですからね」
「すみません、考え事をしていまして。今から撃ちます」
さて、何の魔法にしようか? どうせなら日頃危なくて鍛錬できていない火魔法にするか。使える時に使っとかないと他の属性とのバランスが悪いからな。
そう思い至ったケビンは的へ目掛けて魔法を発動する。
『ボム』
次の瞬間、爆発が起こり砂埃で辺りは包まれた。
「……」
全員の沈黙が痛い……
そして砂埃が晴れるとそこには何も無かった……
『おかしい……壊れない的じゃなかったのか? 何も残っていないじゃないか』
これって弁償かな? 修理代高そうだし母さんに謝らないといけないな。
『はぁぁ……マスター、やり過ぎですよ。壊れるに決まってるじゃないですか。しかも【ボム】はマスターが作った魔法でしょ? 普通の人は初級魔法を使うんですよ』
『【ボム】だって大した威力はないだろ? 全力は出してないぞ。逆に手加減もしてないが』
『それでも作る時に爆弾をイメージして魔力を相当注ぎ込んだでしょ! そのせいで最低威力が底上げされているんですよ』
なるほど……最低威力が底上げされているのなら、手加減していない状況だと確かにやり過ぎのレベルだな。
「今、何をしたのかな? 魔法を使ったのかな? 詠唱とかしてなかったように思えるけど……」
あっ!? 詠唱した方が良かったのか! ヤバいどうやって誤魔化そう。
「魔法を使おうとしていたら先程考えていたことが頭を過りまして、暴発してしまったみたいです。まだまだ未熟ですね」
これで何とか誤魔化せればいいが……
「暴発したにしても威力の説明がつかないんだけど……しかも暴発したにも関わらず的には当てているし」
くっ! ちゃんと見るとこ見ているな。こんな時はあれだ!
『助けてぇ、サナえも~ん』
『無理』
即、拒否かよ! どういうことだ、サポナビじゃないのか?
「まぁ、いいや。問題は壊れるはずのない物が壊れたということだ。予備はあるのだろうか? 君が最後の組で良かったよ。武術組はまだ時間がかかるだろうし、その間に準備しよう」
「大変申し訳ありませんでした。必要経費は我が家にご請求下さい」
「そこまで気にしなくていいよ。魔法の暴発は毎年あったりするからね。そのために武術組は場所を移しているのだし。まぁ、的を壊されたのは今年が初めてだけど……」
毎年あるのか……やはり未熟という回答はあながち間違ってはいなかったようだ。
試験官が予備の的の準備とかを済ませている間に武術組が帰ってきたようで、その誰しもが服を汚して疲弊している。
あんな状態でまともに魔法を使えるのか? そうか、先に武術の方に行ったやつが魔法の暴発を起こしているのか。それで毎年あるって言ってたのかもしれない。
「よーし、魔法組は終わってるな。それじゃあ、受験者を入れ替えてついてこい」
それにつられてゾロゾロと今まで魔法の試験を受けていた者が担当官の後をついていく。やっぱりこの人は好きになれそうにないな。
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