第32話 母さんの報告②

 母さんとリビングで寛ぎながら話を聞いていると、まだまだ続きがあるようだった。


「その後はね、マリーに誘われてお茶会をしたの。私としては1秒でも早くケビンと会いたかったんだけど、マリーってああ見えて1度決めたことは変えないのよ。今日しないんだったら後日来てって言うのよ。頑固よね」


 ああ見えてって言われても、ああ見えるほどの面識がないんですが……


「久々に旧友に会えたんだからお茶くらいしてきてもいいよ。友達は大事にしないとダメだよ」


「ケビンが言うんだったら、マリーだけは特別に大事にするわ」


 そこは、王妃様以外も大事にして欲しいんだけど……


「お茶会って何するの?」


「特別なことは何もしないでお菓子食べながら昔の話をしてただけよ。あぁ、そういえば王女様が途中から参加したわね」


 まさかの被害者登場!? 今度こそ何もしてなければいいけど。


「王女様もお茶会に参加することになってたの?」


「そんなわけないじゃない。マリーが案内してくれたのは、マリーしか入ることが許可されてないプライベートテラスだったのだから。緑が多くてリラックスできるいい場所だったわ」


「じゃあ、何で王女様がいたの?」


「私に無礼を働いたことを詫びたかったんだって。扉の前でウロウロしてたのがわかったからマリーに教えてあげたのよ。マリーは入れるのを嫌がってたみたいだけど」


 プライベートテラスに娘すら入れたくないなんて、どんだけ徹底してるんだよ。そこに呼ばれた母さんはある意味凄いな。


「で、マリーが扉のところで何か伝えたんでしょうね。青い顔をしながら入ってきたのよ」


 絶対にアレだな……無作法するな的な何かだな。旧友相手に無作法したら許さない的な。王女様も哀れだな。


「それで開口一番謝ってきたのよ。私もお漏らしさせちゃったから気の毒に思って許したんだけどね」


 そこは、大人の余裕でお漏らし抜きに許してあげようよ。


「それで王女様を交えて会話に花を咲かせたの?」


「そうねぇ、あまり会話に参加してこなかったわね。マリーの方が話に食いついてきてたから」


 王妃様……娘に対して厳し過ぎやございませんか? 輪の中に入れてあげましょうよ。


「それだと王女様は居心地が悪かっただろうね」


「そうね。途中からなんか空気みたいになっていたわ」


 王女様が可哀想すぎる! 空気みたいって……王妃様、自分のことに熱中し過ぎでしょ!


「母さんは助け舟を出してあげなかったの?」


「出したわよ。何か聞きたそうにしてたから、何でも聞いていいって言ったの」


 偉いぞ、母さん! やればできるじゃないか!


「そしたらね、ケビンのことが知りたいんだって」


 何故そこに俺が出る……? 面識ないぞ。


「ケビン、襲撃の時に笑いかけたんでしょ? それが見間違いじゃないかって疑問に思ってたらしいの」


 あぁ、あの時か……確かに笑いかけたな。


「それでね、多分それは本当のことよって教えてあげたの。あの時はケビンも襲撃者には気づいていたでしょ?」


「そうだね。不穏な空気を感じ取ったし」


「その話にまたマリーが食いついてね。王女様がさらに空気になったのよ」


 何やってんだよ、マリーさん! 娘が勇気を出して話しかけた話題だったのに。横から掻っ攫っちゃダメでしょ!


「で、結局マリーとばかり話してた気がするわ」


「王女様が何故か不憫に思うよ」


「あとはねぇ、再来年の話もしたわね」


「再来年?」


「そうよ。再来年になったらケビンは初等部に入学できるでしょ?」


 忘れてた……そういえば再来年から学院に行けるんだったな。なんか面倒くさいな。今のままのんびり暮らすのも悪くないんだよな。


 でも将来は働かないといけないし、ニートになる気はないんだよな。母さんなら喜んで俺をニートに仕立て上げるだろうけど。


「そうだね、再来年には学校に行く歳になるね」


「ケビンが行きたくないなら無理して行かなくても良いのよ? シーラも学校に通ってることだし。まぁ、あの子はその頃中等部にいるんだけど」


 ヤバイ……学校に行くと姉さんと会うのか。初等部と中等部だから、基本会わないはずなんだけど、嫌な予感がする……姉さんなら余裕で授業とか抜け出して会いに来そうだ。


 姉さんは基本的に俺に対して、母さんと同じくらいのポテンシャルを持っているからな。逃げ切れる自信がない。


「その時になったら改めて考えるよ。母さんに迷惑はかけたくないし」


「そんなことを気にしなくても良いのよ? ケビンはケビンの思うままに生きたら良いからね」


「ありがとう、母さん」


「それじゃあ王都ですることも終わったし、準備ができたら我が家に帰りましょうか?」


「そうだね」


 母さんは名残惜しそうに俺をソファへ下ろすとベルを鳴らすのだった。


「マイケルいるかしら?」


「はっ、ここに」


 するといつの間にか、ドアのすぐ側でマイケルが控えていた。


「帰るわ。準備をお願い」


「畏まりました」


 それから程なくして帰りの馬車の準備が整い、行き同様にアレスが御者を担い帰路につくのであった。


 結局、兄さんたちには会えず仕舞いだったな……

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