第31話 母さんの報告①
母さんを出迎えるために玄関までやって来た俺は、探知スキルを手に入れたのはやっぱり正解だったと思うのである。
玄関が開かれ母さんが入ってくると、猛然と突っ込んできて俺を抱きしめた。
「ケビン、お迎えに来てくれたの!? お母さん嬉しいわ!」
「母さん、どうしたの? いつもとどこか違うね」
「王宮で嫌なことがあったの。リビングにでも行って話しましょう」
そう言って俺を抱っこするとリビングへ向かった。なんか、いつも以上にスキンシップが激しい……どんだけ嫌なことがあったんだよ。
リビングへついて母さんがソファに座ると、必然的に俺は安定の膝の上。
「母さん、それで何があったの?」
「今日はね、国王に謁見したんだけどね、その時にお母さんを敵視する人がいたの。二人もよ? 私は呼ばれたから行っただけなのに……酷いと思わない?」
「それは、酷いね」
そっちから呼んでおいて、ついたら敵視とか有り得なくね?
「それでね、用意されていたイスに座って話をしたんだけどね、最初は1人だった敵対者が二人になったのよ」
ちょっと待とうか、母さんよ……謁見だから当然王の前だと跪くよな? それなのにイス? イスが用意されていたの!? しかも、途中から敵対者が増えた?
「母さん、謁見の間にイスが用意されていたの? 王の前に?」
「そうよ。イスがあったら当然座るでしょ? イスなんだし」
ここに来て母さんの天然ぶりが炸裂したのか!? いやいや、イスを用意したのは向こうなんだし、座ったところで問題はないはず。というか、最初の敵対者はその待遇に不満があったんじゃないのか?
「王様と何の話をしたの?」
「えぇとね、襲撃者に気づいていたのかどうかって話をしてて、当然気づいていたって答えたのよ。それであの時にケビンと話したように、護衛騎士がいるんだし報告しなかったって言ったの」
んー……ここまでは特に怪しい点はないな。となると、続きを聞くしかないか。
「そのあとは?」
「そのあとは……そうそう、護衛騎士が使い物にならないって言ったのよ。ケビンもそう思うでしょ?」
これだぁぁ! 絶対今の発言で騎士の誰かが敵意を持ったんだ。そりゃあ目の前でしかも国王がいる前で貶されたら流石に怒りますよ。
「母さん、もしかして敵視してた内の1人って騎士の人じゃない?」
「さすがはケビンね! 頭いいわね、その通りよ。騎士団長の人が敵意を向けてたの」
ダメだこりゃ……よりにもよって団長さんときたか。そりゃあ、自分の管轄する騎士団が貶されりゃ怒りますよ。
そうなると……最初から敵視していたのは、大臣とかその辺りのお偉いさんかな?
「で、魔法を使った者に心当たりがないかって聞かれたから、知らないって答えたのよ。ケビンが魔法を使ったのは秘密だしね。それで困ってた国王に助言したの」
えっ!? 国王相手に助言……? 何か嫌な予感がするぞ……
「騎士の訓練に人捜しを入れたら? って」
やっちまったぁぁ! これ完全に向こう側からしたら馬鹿にされてるって思うだろ。これ、普通なら確実に不敬罪じゃん。
「そしたらね、王女様が不敬だぁって言ってね、魔法を使ったのはケビンじゃないのかって言おうとしたから、お母さん頑張って阻止したの」
まさかの王女キター! 大臣とかのレベル超えてるじゃん! てか、何で俺が魔法使ったって睨んでたの? 誰にもわからなかったはずだけど……母さん以外は。
というか、阻止って何したの!? 聞くのが怖いんだけど……相手は1国の王女だよ? 変なことしてないよね? 信じていいよね?
「母さん、阻止って何したの?」
「んー……軽く周囲を威圧して騎士が腰抜かしたり団長さんがガクブルしてみんなが動けない隙に、入口に飾ってあった甲冑の剣を取ってきて王女様の首に当てたの。それでケビンの秘密を守ったの。凄いでしょ!」
終わった……王女の首に剣を当てるとか、死刑ものじゃん。何で胸張って凄いでしょって言ってんの? カロトバウン家終わっちゃうよ?
「でも、ちょっとやり過ぎたかなぁって思ったりもするのよ? 王女様が恐怖のあまりお漏らししちゃったから。みんなの前だったし恥ずかしかったわよねぇ」
お漏らしさせるなんて、王女に同情しかわかないよ。女の子なのに可哀想に……
「で、その後に……」
えっ!? まだ続くの!? もうさすがにお腹いっぱいなんですけど。
「王様がね、無礼を許してくれって言ってきたのよ」
えっ!? 普通、逆じゃないですか? こっちが無礼を詫びるほうじゃない?
「なら、代わりに貴方の首を差し出すの? って聞いたら、娘が助かるならって言ったのよ。愛よねぇ」
いやいやいや! 王様首を差し出しちゃったの!? 娘を助けるために?
「まぁ、そんなこんなしてたら、マリーが話しかけてきてね、娘の社会勉強のために私を嗾けたんですって。策士よねぇ、王女様にはトラウマものなのにねぇ」
ここにきてまさかの新キャラ!? マリーさんって王妃様だよな? フレンドリー過ぎないか?
「マリーさんって王妃様だよね? 仲良しなの?」
「そうよ。マリーが貴族の時からの付き合いなの。よく屋敷を抜け出して私の所へ遊びに来てたのよ。それで軽く一緒にクエストに出かけたりしたわね。屋敷にバレないように遠出はできなかったけど懐かしいわ」
えっ!? 王妃様、冒険者だったの!? 凄い経歴なんだけど……破天荒過ぎない?
「王妃様の冒険者ランクっていくつ?」
「私と同じAランクよ。最初は冒険の話を聞かせるだけで満足してたみたいなんだけど、その内に『私も冒険者をやってみたい!』って言い出してね、それでこっそり冒険者登録をさせたの。登録名もマリーにしたし意外とバレなかったわ」
「王妃様って母さんみたいに強いの?」
「私よりかは弱いわよ。ランクも私と一緒に行動してたからポンポン上がって行ったし」
「それでもAランクなんだよね?」
「そうね。Aランクの中じゃ上位に入るんじゃないかしら? 二つ名もついてたしね」
「二つ名? 母さんみたいな?」
「そうよ。マリーの二つ名は【インビジブル】よ。二つ名の中に名前が入らなかったからますますバレなかったわ」
インビジブルって不可視って意味だよな? 姿を消せるのか?
「何で【インビジブル】なの?」
「やっぱり家にバレると不味いじゃない? 貴族なんだし、更には女だし。それでコソコソ抜け出すことを繰り返していたら、【隠密】のスキルがいつの間にか手に入っていてね、それで余計家にバレることはなくなったわ。更にはマリーって容姿がいいでしょ? 当然ギルドでも話題になってね、何かとプライベートを暴こうとした輩たちがいたんだけど、結局誰も何もわからなかったの。まぁ、【隠密】スキルを使って尾行を巻いてたんだけどね。色んな意味で素性がわからず見えずじまいだったから、【インビジブル】って二つ名がついたの」
「それって母さん以外の人は知ってるの?」
「どうかしら? 私以外だとケビンくらいじゃないの? 最終的に家には全くバレていなかったんだし」
意外なところで王妃であるマリアンヌの秘密を知ってしまったケビンであった。
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