第28話 お茶会①

 謁見の儀が終わりサラを先導するように王妃が歩く。この場には2人しかいないために気を使う相手がいないのだ。よって話し方も当然砕けた感じになっていた。


「それにしても相変わらずの動きだったわね。久々に見たから目で追えなかったわ」


「それは仕方のないことじゃないかしら? 引退してからは会ってないのだし、貴女も王宮に引きこもっていたでしょ?」


「気づけば王妃だったから迂闊に外へ出られないのよ」


「それはそうでしょうね。1国の王妃がぶらぶらと街中を歩いていたら大騒ぎでしょ?」


 そうこうしているうちに2人は緑に囲まれたテラスへと到着する。


「ここは私のお気に入りなの。緑が多くて落ち着けるから。ここには私の許可無く誰も立ち寄らないわ。その代わり給仕は自分でしなきゃいけないのだけど」


 そう言いつつお茶の準備を始める王妃。それを見つつも手伝わず椅子へ座るサラ。傍から見たら奇妙な関係が既に2人の中で出来上がっていた。


「誰も来ないならいいじゃない。私の家でも呼ばない限り誰も来ないわよ。逆に呼ぼうとしたら何故か既にいるんだけど」


「あら、いいじゃない。傍に控えているのが最小限で済むのでしょ? 気楽で羨ましいわ」


「貴女だってここに来たら1人なんでしょ? 気楽じゃない」


「私は公務とかあったりするから、ずっとここにいるわけにはいかないのよ」


「それもそうね」


 お茶とお菓子を差し出し、椅子へと座る王妃はサラに声をかける。


「結婚してからはずっと領地にいたの?」


「そうよ。冒険者は辞めたのだし、旅に出る必要性はないでしょ?」


「てっきり私はSランクに上がってから辞めると思ってたのに。貴女なら楽になれたのでしょ?」


「そこは否定しないけど……そもそもランクに興味がなかったし、強い敵に如何にして戦うかの方法を考えていた方が楽しかったわ」


「貴女らしいわね。ケビン君は元気にしてるの? お披露目会の時は遠目にしか確認できなかったけど」


「とても元気よ。何故か病気に全然罹らないのよね。不思議よね……健康でいてくれるのは嬉しいんだけど」


「洗礼の儀式の時には何か病気に対するスキルとかなかったの?」


「それがスキルや加護は1つもなかったわ。まぁ、普通はそうだし全然気にしてなかったのだけれど、今思えば不思議なことはあったのよ?」


「儀式の最中に?」


「そう。本人が光に包まれるのは当たり前じゃない?」


「そうね、それが普通ね。もしかして光らなかったの?」


「逆よ……本人は光ってたのだけれど、それとは別で神像が光り出したのよ」


「神像が!?」


「そう……てっきり何か凄いスキルや加護でも手に入れたのかと思ったけど、何もなかったから記憶の片隅に追いやっていたわ」


「他にも何か気づいたことはある?」


「そうねぇ……そういえば儀式のあとのステータス表示の際に、一瞬映してすぐに消えたわね。本人は目の前にステータスが現れてビックリしたから手を離したって言ってたけど」


「もしかしてそれ……信じたの?」


「当たり前じゃない! 可愛い我が子の言うことよ? ケビン以外に何を信じろって言うのよ」


「はぁ……溺愛っぷりもここまでくると凄いわね。盲目的に愛してるわけね……」


「何よ、悪い? いくらマリーでもケビンのことを馬鹿にしたら許さないわよ」


「ケビン君のことは別に馬鹿にしないわよ。それよりも貴女よ」


「私がどうかしたの?」


 キョトンとした顔で不思議そうに王妃を見つめるサラは、いかにも自分が正しいと疑わない感じであった。


「私の予想だとね、ケビン君はスキルか加護、若しくは両方を確実に持っているわ」


「そんなわけないじゃない。あの時にちゃんとスキルも加護も表示されていないのをガイル司教と一緒に確認したんだから」


「貴女は本当にケビン君のことになるとダメダメね」


「そんなことないわよ。私はちゃんと母親をしているんだから」


「じゃあ、聞くわよ? もし貴女が現役時代にステータスの中身を知られたくないとしたらどうする?」


「そんなの簡単じゃない。魔導具使って隠蔽するに決まってるわ!」


「それと同じことをケビン君がしたのよ」


「それはないわね。あの時ケビンは魔導具なんて持っていなかったのだし」


「世の中には魔導具無しでも隠蔽できるのよ」


「魔導具無しに隠蔽って……そんなことできたら世の中嘘だらけじゃない!」


「貴女って人は……興味の無いことには本当に見向きもしないのね」


「興味がないんだから見るだけ無駄でしょ?」


「スキルの中に【隠蔽】っていうものがあるわ。これを使うとあらゆるものを隠蔽できるのよ。ケビン君がステータス表示を1度も消さなかったらここまで勘繰りはしなかったわ。普通に不思議なこともあるものねぇって流してたわよ」


 王妃はそう言いながらサラへ改めて視線を向けると、脱力して心ここに在らずといった感じのサラがモノクロな背景を背負い佇んでいた。


「ケビンが私に隠し事……ケビンが……」


「サラ、戻ってきなさい。別に悪いことじゃないわ。貴女の息子は聡明なのでしょう? だったら貴女を守るためかもしれないじゃない」


「そ、そうよね! あの子が私に隠し事するなんてそれしかないわよね!」


(ちょっとサラってチョロ過ぎるんじゃないかしら? 大丈夫かしら?)


「それはそうとして一体何を隠蔽したのかよね? とても気になるわ」


「そんなことはどうでもいいわ。ケビンが私を守ろうとしているんですもの。それに比べたら隠蔽された内容なんて瑣末なことよ」


 ケビンの預かり知らないところで隠蔽の件が2人にバレたが、サラの無類の溺愛で事なきを得たのだった。


 マリーは一抹の不安を抱えながらも、本気でサラのケビンに対するチョロ過ぎる性格を心配していた。


(何事もなければいいけど……)

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