第21話 お披露目会へ
夕方になり、そろそろ出かけようかという時間帯になった。会場は立食パーティー形式になっているそうで、夕ご飯は食べていかないようだ。会場で思う存分食べて欲しいからだそうだ。
「それでは行きますよ」
「はい、母上」
見ず知らずの貴族たちが集まる社交界とあって、さすがの俺も対貴族用の言葉遣いに変更した。
母さんに使ってみたら、いつもと違う雰囲気だったので中々楽しめたようであり、楽しくはしゃいでいた。
馬車へ乗り込み王宮へと向かう。道すがら周りを見ると綺麗にライトアップされたりしていて、さすがは王都だと感じた。
王宮へ到着すると何台もの馬車が止まっていた。門には衛兵というよりも騎士といった感じの人が立っている。
「さぁ、中へ入りましょう。そろそろ始まるわ」
「時間ギリギリなのに、ゆっくりしていて良かったのですか?」
「だってケビンは、あまり来たくはなかったのでしょう?」
「――ッ!」
「ふふっ。ケビンの驚いた顔が見れただけで、今日はもう満足よ。伊達に母親はやっていないのよ? 可愛い我が子の悩みなんかお見通しなんですから」
「母上には敵いませんね。一生勝てない気がします」
「そうね。母は強しと言うでしょ? 簡単には勝たせてあげませんよ」
そう語りあいつつも王宮の中へと入り、大ホールへ向かうのだった。
大ホールへと到着すると、タイミングよく開催の挨拶が行われた。豪華な服に身を包んだいかにも偉そうな地位の人が一歩前へ出る。
「第17代 アリシテア王国国王陛下が参られる。皆、静粛に」
へぇ……ここってアリシテア王国っていうのか。興味なかったから全然知らなかった。それだけでも来た甲斐はあったかな。
それから奥の舞台袖らしき所から、これまた煌びやかな服装に身を包んだ老齢の男性が出てくると、その後に女性と少女が順に出てくる。
「今日の善き日に、皆が集まれたことを心から感謝する。ライル・ド・アリシテアの名の元、今年度のお披露目会の開催をここに宣言する」
その宣言と共に花火が上がる。こっちの世界って花火があったのか? それとも魔法か魔導具か?
外へ出ることのできる窓際をキープしているせいか、花火がよく見てとれた。
それからは皆思い思いに過ごしているようだった。王様に挨拶へと向かう者や、知人と挨拶を交わす者……
それにしても子供をダシに王様への挨拶とか強かだな。下心丸見えだろうに。
俺にとってはどうでもいいお披露目会だから、当初の予定通りに晩ご飯代わりとして色々と食べ物を物色していこう。
「母上、お飲み物は何になさいますか? お取りしますよ」
「そうねぇ、果実酒にするわ。種類はケビンに任せるわね」
「母上のご期待に添えるよう努力します」
「ふふっ。お願いね」
俺の言葉遣いが楽しいのか、終始ご機嫌である。
俺はドリンクコーナーへ向かうと、給仕がいたのでオススメの果実酒と自分用にジュースを受け取る。
それを両手に母さんの所へ向かうと、テラスでゆっくりしようということになった。
何気に母さんは俺が飲み物を取りに行っている間に、食事を取り分けて準備していたようだ。
「外の方が静かでいいですね。こういう食事もたまになら悪くないです」
「そうね。ケビンは陛下に挨拶とかしなくていいの? 王女様もいらしているそうよ? 恐らくケビンと同じ初等部に入学するからお友達になれるかもよ?」
そういえば挨拶組の子供は王女の方へ集って行ってたな。あれに混ざれというのか……想像しただけでも無理だな。
「母上も人が悪い。こうしてここで一緒に食事が摂れていられれば、私はそれで満足ですよ。母上に勝るものなどありません」
「ふふっ。そうね、ケビンはそういう子だものね」
ひと時の食事を楽しんでいると、あたりの空気が少しだけ変わった気がした。ふと母さんの様子を窺うと、母さんも何かに気づいたようであった。
「どうやらネズミが紛れ込んだようね。さて、どうしたものかしら? 知らせてあげてもいいのだけれど……」
「騎士たちがいるので平気なのでは?」
「それもそうね。面倒事は騎士たちに任せましょう。それよりもケビンとの食事の方が大事ですもの」
「一応、警戒だけはしておきます。万が一母上に怪我でもされたら居た堪れないですから。母上は私がお守りします」
「相変わらず優しいのね、ケビンは。代わりに私はあなたを守ることにするわ」
二人で楽しく談笑しながらも食事を続ける。賊が潜んでいるにも関わらず緊張感はないが……
『サナ、賊が紛れ込んでるみたいだから警戒を怠るなよ』
『イエス マイロード』
なんか雰囲気出してきたな、おい。頼むからネタに走って失敗してくれるなよ。
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