第19話 2年後……

 あれから2年の月日が経ち、俺は5歳になろうとしている。どうやら貴族の社交界ではお披露目会なるものがあるらしい。一般ピーポーであった俺には理解の外だ。


 そんな俺も例に漏れず、お披露目会に参加せねばならないみたいだ。ぶっちゃけ面倒くさい。行きたくない。ゴロゴロしていたい。


『もう諦めましょうよ、マスター』


『諦めきれるか! 何とか参加しないでいいような方法をお前も考えろ』


『無理ですよぉ。【病気耐性】を持っている以上、病気になれないんですよ?』


『世の中にはな“仮病”という病気があるのだよ。これはどんな人間であろうとも防ぐことのできない難病なんだよ』


『それは限定的な人種のみが罹る病気でしょ。普通の人は罹りませんよ』


 なんて使えないサポートナビだ。今サポートしないで一体いつサポートする気なんだ。休めるような勝利の方程式まで俺をナビゲーションしろよ。


『そもそも俺はまだ5歳じゃないんだぞ。何で出席しなきゃいけないんだ!』


『それは誕生日に合わせてたら何回もお披露目会を開かなきゃいけないからですよ。今年で5歳となる子供を一堂に会して、一回で済ませようとする大人の陰謀ってやつですよ。経費も少なくて済みますからね』


 ここへきてまさかの大人の陰謀だと……何回もするのが嫌なら最初からするなよ。


『それに国の行事として決まっていますから、無くすこともできないんですよ。毎年ある恒例行事ってやつです』



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 数日後……色々と欠席するための手段を考えたが、何1つ上手くいかず結局参加するハメになってしまった。


 朝方、憂鬱な気分で食事を摂っていると母さんから話しかけられた。


「ケビン。今日は初めての王都だから楽しみでしょ?」


「(お披露目会さえなければ)楽しみです。どの様な街並みなのか早く見てみたいです」


「それに、アインたちにも久しぶりに会えるかもしれないものね」


 それに関しては素直に同意したいが、姉さんに会うのは少し遠慮したい。もみくちゃにされそうだ。


「奥様、本日は何時頃出発なさいますか?」


 カレンが話の途切れを見計らって尋ねてきた。


「そうね、折角だからお昼は王都で食べましょう。その為には、朝のうちに出発することになるわね。ケビンもそれでいいかしら?」


「はい。母さんに任せます」


 ぶっちゃけお披露目会のせいで、気分が上がらない。何かを決める気力すらない。


『なぁ、サナよ。明日まで時間を飛ばす魔法とかないのか?』


『そんな都合のいい魔法なんか知らないですよ。知ってても教えませんけど』


『サポナビ失格だな』


『そんなことで失格になってなるもんですか。諦めてお披露目会に出席してください』


「ケビン? 何か考え事でもしているの?」


 おっと、サナと会話していると、必然的に無口になるから気をつけないとな。


「えぇ、お披露目会とはどのようなものか少し気になりまして」


「特に大したことはないわよ。同年代の顔合わせみたいなもので、ちょっと規模の大きい友達作りの場よ。大人たちにとっても新たなコネクションを作ったり、旧交を深めたりする顔繋ぎの場でもあるわね」


 もうそれ大人たちだけで良くないか? 子供をダシに使うなよ。ますます行きたくないな。


 そのようなことを思っていると、馬車の準備ができたようで出発の時がやってきた。


「奥様、馬車の準備が整いました。何時でも出発可能です」


「分かったわ。ケビン、行きましょう」


 玄関先に出ると皺ひとつない燕尾服を見事に着こなしたアレスが待ち構えていた。今回もアレスが御者か。


「お待ちしておりました。今回は王都までの往復を務めさせて頂きます。なお、王都到着予定はお昼前になります」


 王都まで近くて助かった。遠くの領地に住む貴族とかは何日も掛けて移動するんだろうな。


 馬車へ乗り込むと母さんの隣へ座る。しかし、母さんがそれを許してはくれない。俺を抱きかかえると安定の膝上へと乗せる。人目がない時は大体こうなる。


 母さん、俺はもう5歳なんだが……


「では、出発します」


 父さんは王都での仕事もあるから、領地の中でも王都寄りに自宅のある街を作ってる。そのせいもあってか、お昼ご飯に合わせて馬を休ませたりしながらのんびりと進んだとしても、王都まではどれだけ遅くても4時間弱で到着することになる。さっさと移動してしまえば、2時間弱で到着できそうではあるが。


 それにうちは男爵だから領地自体が狭いし、特段街の位置も変になってないはずだ。他の場所にもそれなりの街はあるみたいだし。


 それと比べたら上位の爵位持ちの人は領地が広い分、王都に来るのは大変だし統治にも手間が掛かりそうだ。その分、税収は上がり贅沢な暮らしをしているのだろうが。


 爵位の低い家が何故王都近くの領地を与えられているのかは知らないが、普通は爵位の高い人が貰うべき場所なのではないのか? 辺境伯は別だろうが。


 やはりと言ってはなんだが、朝早かったせいと馬車の揺れと母さんの温もりで俺はコクリコクリと船を漕ぎ始めた。


「ケビン、眠かったら寝てていいのよ。落ちないようにお母さんが抱いててあげるから」


 そう言うと、しっかりと抱き直してくれて体が安定する。お言葉に甘えて俺は母さんの温もりに包まれながら少し眠ることにした。

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