拘束具を解かれた俺は、狂人と鬼ごっこを始めるのでした
椅子に固定された俺は必死に拘束から逃れようとする。
拘束はとても簡素なものだ。
手足の首を手錠で繋ぎ、それを椅子の足に繋いでいる。
単純明快である故に逃れられないと理解させられた。
「やめてくれ花ちゃん!」
「私ね、藤麻君が好きなんだ」
心底愉快そうな花ちゃんは語り出す。
子供の様にはしゃぐその姿は、先程までの花ちゃんとは違う人間なのだと確信させる。
「藤麻君の――赤色が好きなんだ!」
その言葉に身体の震えが更に大きくなった。
俺はすぐ様拘束具から逃れようとする。
拘束具から脱する事が不可能と理解していても抵抗せずにはいられない。
繋がれた両腕を必死に引っ張る。
手錠が肉にめり込み、その箇所に痛みが生じる。
アドレナリンが分泌されている今、興奮によって痛み自体は然程感じない。
自分が出せる力全てを両腕に入れて、鎖を外そうと試みる。
痛みによって少しずつ力が抜けてゆくがそれでもやめない。
――やらなければ殺されるのだから。
「がああああああ!」
「壊そうとしてるの、がんばって!」
カッターをくるくると手元で回転させる花ちゃんは俺の脱獄を応援してきた。
俺はその間に力一杯鎖を引っ張る。
花ちゃんは『赤色』が好きだと言った。
赤と言っても様々な種類がある。
朱だったり、紅だったり。
茜なんて種類もある。
しかし花ちゃんが指す赤色は『色』の種類では無いことが直ぐにわかった。
「ふふ、それじゃあ手伝ってあげるよ!」
その言葉と同時に、繋がれた全ての鎖が外れた。
突然外れた為、前のめりになっていた俺は地面に倒れ込む。
鎖は花ちゃんのカッターによって切られた。
どういうわけか俺を椅子から解放した。
「――鬼ごっこしようか?」
真っ白なワンピースに身を包む花ちゃんは恐ろしい笑顔で話す。
恐怖で身体が硬直している俺は、提案を聞くことを余儀無くされた。
「ルールは簡単、この家から私に再度捕まらずに逃げ出したら藤麻君の勝ちでいいよ」
口角を上げ、目尻を下げて花ちゃんは笑顔で話す。
――しかし細目から見える瞳だけは全く笑っていなかった。
花ちゃんに捕まらなければ俺は無事に逃げ切れる。
簡単な話だ。
それなら捕まったらどうなるのか?
それは馬鹿でも分かる事だ。
聞く必要すら無い。
「それじゃあ刃が出切ったら始まりだから――頑張って逃げてね?」
限界まで伸ばしたカッターの刃を一気に仕舞う。
すると今度はゆっくりとスライダーをずらして刃を出していく。
あの刃が出切ったら鬼ごっこ開始という事らしい。
あの感覚だとこのままいけば十秒後に始まってしまう。
俺は身体を起こして直ぐに白い空間から飛び出した。
背後のドアから『カチッカチッ』と音がする。
タイムリミットが迫っている中、俺は震える身体で走り出した。
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