先輩の自宅にお邪魔した俺は、妹から逃げて夏が始まるのでした

「お客さんって藤麻君だったのね」

「俺も舞花ちゃんのお姉さんが、優曇華先輩だとは知りませんでした」


 銀髪の子なんて珍しいとは思っていたが、まさか妹とは。

 世間ってやつはつくづく狭いな。


「とりあえず上がってよ、お客さんをいつまでも玄関にいさせるのは気が引けるからさ」

「はい、お邪魔します」


 奥に入ってと優曇華先輩は手招く。

 優曇華先輩って長いから、これからは先輩と呼ぼう。


 居間に着いた俺たちは、小さなちゃぶ台を囲って座る。

 年季の入ったそのちゃぶ台は、足がぐらつくのか新聞紙で足の高さを補ってある。


 そんなことを気にしながら、まずは舞花ちゃんとの話を聞いてみた。


「舞花ちゃんは先輩の妹さん何ですか?」

「そうだよ。舞花、今何年生かな?」

「にねんせい!」


 天使のような笑顔で、両頬にピースサインを作る。

 しかしそれだと四年生だぞ。


「二年生なのにしっかりしてますね」

「私がいい子に育ててるからね!」


 えっへんと、身体を沿って胸を張る先輩。

 その瞬間、Fカップはありそうな胸が――揺れた。

 母さんの程ではないが、先輩も中々なモノをお持ちだな。


 魅力的なその胸に見惚れつつも、いよいよ本題に入ろうと思う。


 しかしいざ話すとなると、どう説明すれば良いいものか。


『妹から逃げる為に、幹線道路のトラックに乗り移ってここまで来ました』


 なんて。

 信じてもらえる訳が無い。

 ここはうまく誤魔化すか。


「ねえねえ、どうして藤麻君がこんな所にいたの?」

「実はこの夏休みを使って、ゼロ円で何処まで行けるかって企画をやっているんですよ」


 俺は某動画サイトで投稿する、動画の企画だと説明する。

 その内容に興味を示したのか、先輩と舞花ちゃんは目を輝かしていた。


「面白そうな企画じゃん!」

「お兄ちゃん、よーつーばーなの?」

「違うよ。折角の夏休みだから、変わった事をしたかっただけさ」


 これに関しては本音だ。

 あのまま家にいれば、間違い無く今年の夏は監禁生活だった。


 高校二年生の夏休みとは、高校生として遊べる最後の長期休み。

 来年からは受験勉強で、出掛ける暇などない。


 国立などを目指している者は、今年から始めていたりもする。

 俺はそこまで上の大学を狙ってはいない為、夏休みを謳歌するつもりだ。


 そう思うとぱっと出たこの企画は悪くないかもしれない。

 どうせ家には帰れないんだ。

 このまま旅に出るのも良いかもな。


「でもマリーちゃんは悲しむかもね」

「……え?」


 どうしてマリーが悲しむと言うんだ。

 悲しみでは無く、怒りならまだ納得できる。

 今日の朝だってマリーは激怒していた。


 打ち上げの日。

 俺の盗聴盗撮が出来なくなって来てみれば、女子と楽しくお喋りしていた。


 それを見たマリーの顔は、今でも忘れなれない程――恐ろしかった。


「マリーが悲しむとは思えませんが……」

「マリーちゃんだって女の子なんだよ?」


 違いますよ先輩。

 あれは悪魔です。


「まあ、この話は後でしよっか。今はお昼ご飯にしよ!」


 両手を合わせて話をきる先輩は、台所に向かって立ち上がる。

 俺も何か手伝おうと思い、腰を上げるが先輩は手を出して静止させた。


「お客さんなんだから、ここで座って待ってて」

「でも……」

「待ってくれたら、あの日の約束通り――デートしようよ」

「待ちます」


 瞬時に正座で待機する。

 あの日とは、恐らく喫茶店の時の事だろう。


 美人な先輩とデートに行ける。

 これを逃す手はない。


 俺はエプロンを巻いた先輩の後ろ姿を見ながら、舞花ちゃんとちゃぶ台で待つのだった。

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