また教会へ
手伝ってくれる魔術式の研究職の魔術師たちは口々に「これはすごい」と、計画に興奮を隠しきれていなかった。
これほど大規模な実験は初めてということもあるだろう。
教会が、魔術研究への協力に応じ、基点としての許可を出した。
とうとう、『第一回実験日』への準備が始まった。
人員がいる理由は、基点と基点の間の道にも中継用として魔石を配置するからだ。教会と、教会を繋ぐ道中に。
国中を使っての大きすぎる試みだった。
不老不死の魔術式を作ったという『偉業』による異例中の異例中と言えるだろう。
こんなの、一回にどれほどの費用がかかるか。
準備から実行まで、最短で五日。
リーデリアは、主教会担当の一行と主教会に行った。
ここに来るのは、久しぶりとなる。敷地へと入る門へ行くと、神官が複数人待ち構えていた。
その先頭には──にこやかすぎる外面を浮かべた神官がいた。
「王宮の魔術師の方々ですね」
「そうです」
「お話は伺っています。責任者の方はこちらへ、神官長がお待ちです。他の方々は早速作業に入ってくださって構いません。彼らが案内します。ああ、私ですが一級神官の──」
一級神官の名前は、ダライアスと言った。
以前会ったときの倍、にこやかな優しげな神官の姿に見えたのは、太陽の元で見たからだろうか。
ダライアスに案内され、リーデリアは神官長に会った。
神官長は以前耳に挟んだ通り、神に祝福されていると言われている目をした人だった。
そのあとはリーデリアも開始されていた作業に混ざり、魔術師と確認し合い、あちこちから呼ばれながらと忙しく動き回った。
昼休憩を挟む頃になり、とある用事を済ませに姿を眩ませ戻る道。
教会の建物からは少し離れた作業場と化した場所を見ている神官を見つけた。
近くに目がないと確認し、リーデリアは忍び寄る。
「一つ、報告がある」
声かけると、反応した目が、リーデリアを見つける。
「地下のものだが、完全な模造品とすり替えた」
念のため、と短い報告を終えると、神官はにこやかな表情のまま、わずかに目を見張った。
それから、周りに目を配った。
「とんでもねぇ権力持ってたじゃねぇか」
にこやかな表情とちぐはぐすぎる声と、話し方がその口から発された。
「まさかそんなにすごい魔術師だとは思ってなかった。つーか、本当にこういうことになるとはな」
「教会が魔術に理解があって良かった」
「で、俺は魔術なんて全然分からねぇんだが、何をしようとしてんだ」
「実験としては、ここから遠く離れた教会での魔術が発動できるかという試みだ。発動すれば光るということになっている」
「……実際は、違うのか」
「違う。わたしが計画書に記した嘘がそれだ。細かな説明は主目的とされている遠距離間魔術のための魔石の配置の仕方が大部分で、結果を確かめるための魔術が何かなんて二の次だ。それと……」
かさ、と小さな音がした。
リーデリアは口を閉じ、神官と視線を交わす。念のため、人目につきにくい場所からひょいと顔を覗かせ、辺りを見る。
「師匠」
「──弟子、どうしてここにいる」
作業場を横切りながら辺りを見回している弟子が、ちょうどリーデリアを見つけた。
「様子を見に来たんですが、師匠がいらっしゃられなかったので探しているところでした」
弟子は、リーデリアを休ませた日以降、同じような様子は見られなかった。それまでのように、リーデリアに休憩は促すものの、それだけ。
今も、微笑み近づいてきて……神官の姿を見つけた。
神官といるとは思わなかったのだろうか。神官もまたヴォルフを見て、驚いた顔をしていた。
リーデリアは、これはどちらをどちらに説明するが早いか、と思う。
「ダライアス、わたしの弟子のヴォルフ・カルヴァートだ」
弟子を紹介することにした。
「弟子……?」
そういった情報は聞いていないのか、神官は信じられない顔をしながらも、ヴォルフの方に向いて一礼した。
「一級神官のダライアス・ルートと申します。お名前は、存じ上げていました。それから、第五教会にいらっしゃっていましたよね。一方的にですが、お見かけしていました」
「第五教会……?」
首都外にある主要教会は七つ。第一教会から第七教会と呼ばれている。
そして、その第五教会とは、リーデリアが百年過ごしたという教会だ。
リーデリアが弟子を見ると、弟子は何も言わず微笑み、神官の方を向いた。
「魔術師のヴォルフ・カルヴァート。リーデリア・トレンスの弟子です。師匠とは、お知り合いですか」
「知り合い、と言いますか……」
問いに迷っている様子が感じられ、リーデリアは代わりに答える。
「顔見知りかも怪しいところだ。ヴォルフ、彼には、以前教会に行ったときに助けてもらった……」
「助けてもらった、ですか? 何を」
弟子には教会を使わせてもらう許可をもらいに行く体で出かけたことを思い出した。
剣のことは、まだ言っていないことも。
おっと。
「弟子に内緒にしてんのか」
あんな重大なことを、という口調が入り込んできた。神官、口調が剥がれてるぞ。
「していない」
口調の指摘は二の次、即答するが、完全なる嘘になる、ので。
「……している部分もあるが、していない」
「つまり、してるってことだろ」
「師匠、どういうことですか」
聞き流す弟子ではなく、リーデリアは「内緒」という言い方をした神官をちょっとじとりと見た。
「違うぞ、弟子。話すのを失念していただけだ」
「師匠は忘れっぽいですからね。それで、何をです」
「忘れっぽ──。……話はここではできない。今日、戻ってから……夜になるな。部屋で話そう」
頃合いでもあるだろう。
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