苦しい静寂。

獺野志代

苦しい静寂。

わたし、好きな人が出来たんだ。どうしたらいいと思う?」


 わたしもどうしたらいいか、聞きたいものだった。あまりにも残酷すぎる。


 私は、アナタが好きなのに。


 アナタの隣で良き親友を始めて早1年半。良き親友を演じ始めて早5ヶ月。甘い初恋は、酸っぱさを知らずに苦々しく溶けていく。


 どうもこうも、どうもしないでよ。


 私は須臾しゅゆに気持ちを整理する。

 ごたついて、バラバラにくずおれる。

「この子は、私の親友だよ。」と心に繰り返し唱える。


「どうしたらいいか、なんて聞くくらいならそんなに大層な恋じゃないんじゃない。」


 ハッ、と我に返った。

 自分自身に言い聞かせる言葉に手一杯で、肝心の相手に聞かせる言葉を完全におろそかにしていた。


 しかし、言ってみれば本当にそうなのだ。

 本気で結ばれたいのであれば、猪突猛進するべきなのだ。

 私は、心を傷めた。

 完全にブーメランである。


 こんなつっけんどんな言い方をするつもりはなかった、と言えば嘘になるが、そう言いたかった、と言っても嘘になる。


 傷つけたくはない。


 でも、ここで優しい言葉をかけてあげられるほど、私は人が出来ていない。分かりきっていたことだが、大事な場面でよりその事実が首をきゅうきゅうと締め付ける。


「ううん。これは、正真正銘大層な恋だよ。そこに狂いはない。」


「‥‥‥そっか。」


 暫時ざんじ、静寂が私たちを包む。

 なんと苦しい静寂だろう。

 私は、こんな静寂を知りたくはなかった。


 私は口を開けずに、アナタの目を見続けていた。


 私は、アナタのその優しい瞳に惚れたのだ、とふと思い出した。


実琴みこと、やっぱり、君は反対するの?」


「やっぱり」とは、一体なんのことだろうか。

 "やっぱり"、アナタは私の親友だ、ということだろうか。


 私は、隣にいれれば幸せなのだ。

 時折なら、誰かに隣を譲るのも悪くはないのかもしれない。


 私は、甘いなあ。


 苦しいなあ。


「私は、杏菜あんながそう思うのなら、何も咎めるつもりはないよ。」


 あまりに使い回された常套句じょうとうくに、嘘臭さがまるで隠し切れていない。

 とは言え、それがアナタを幸せにすると言うなら、あながち嘘とも言えないのかもしれない。


 私は、アナタが好きだから、好きな人を愛するアナタのことも好きになろうと思う。


「‥‥‥ありがとう。」


 くしゃっと笑うあなたの姿を、恋する私が見届けるのをこれで最後にします。


 がんばれ、杏菜。


 がんばれ、私。

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苦しい静寂。 獺野志代 @cosy

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