俺の妹が俺の年上の訳がない。

花見和ノ如く

序章



 景星十八年、陽暦1987年4月。

 何てこともない春の日にのことである。

 俺こと横川 敏彦は憂鬱そうにとある学校の校庭を眺めていた。

 高校生活が始まってから、4日が過ぎた。

 粗方の決めごとは終わり、授業が始まったのである。

「横川君…横川君!!」

 俺は先生に呼ばれる。

「は~い」

「は~いじゃありません!今までの内容聞いてましたか?ずっと窓の外を眺めてばっかりで…先生は心配ですよ!」

 俺の数学の教諭、神宮司。

 俺らのことを子供扱いしていると感じるこの教師。俺は少々小癪だった。

 まあ知ってる。此奴だって一生懸命なんだろう。

「全く…横川君はまた話を聞いてなかったのかしら?」

 後ろの席の青髪のロングヘア、成本 衣美は俺に話しかけてきた。

「悪いか?」

 俺は聞いてみる。

「別に~~?」

 今の声神宮司に聞かれてたら正直ヤバかっただろう。

 だが、幸いなことに彼は授業に夢中になっているようだ。

「ふう」

 矢張り憂鬱であった。


 此処は東京24区域内、タイトウの外れの高校である。

 しかしタイトウの中では一番大きい高校であり、名門高校とも言われる。

 そんな特に長所も短所も少ないつまらない此処に俺は入学したのだ。理由はとても簡単で、一つは楽しそうだったから、二つは安いから、三つは成績がまあまあ優秀だから、というわけだ。

 他の奴らは青春だの何だのと過ごしているらしいが、俺はそのようなことを一切考えてなかった。そして意外にも楽しくもなく、とにかく何もなかった。だから俺は憂鬱なのだろう。


 ホームルームを終え、俺たちは帰り始めた、その時である。

「敏彦~!今日も勝負だぜ~」

 俺の一番の親友、海貝 翔汰は隣のクラスから嗾けてきた。

 沢山の荷物を背負い俺は1つの溜息をつく。

 勝てる訳がないであろう。これほどまでに重い荷物を背負って。

 俺にいつも元気に話しかけてくる彼は、ある意味迷惑でもある。

 そしてバスに乗り、電車を降りた俺。

 周りを見渡し、気付く。先に行っていた海貝が前に居なさそうだということを。そして絶対に後ろから来る算段だろうということを。

「よ!敏彦」

 後ろから呼びかけられる。

 予想通りだった。

「海貝…良くそんな元気出せるな……」

 海貝はその質問を笑いながら答える。

「お前より俺の方が早くに昇降口から出られたじゃねえか!しかも4日連続!!元気で当たり前だぜ」

 いやあ。元気って良いな。

 そうである、俺は前回もその前回もこの海貝って奴に負けたのである。

「いや~出だしは順調順調♪これからも宜しくな~~」

「ああ…そーだなー…」

 俺は棒読みの言葉を放ち、彼と別れた。

 此処からはいつもの道である。

 俺の通っていた中学を見ながら、俺は思った。

 ああ…中学時代に戻りたい。

 矢張り入学してから4日でそう思うのはおかしいだろうか。

 だが無理もない。毎日が憂鬱と感じてしまうことは今まで無かったのだから。


 そんなこんなで俺はついに俺が住んでいるアパートの俺の部屋の扉を開けたのであった。

「ただいま~」

 そう言っても俺の身内は皆海外にいる。誰も反応してくれるはずがない。此処は俺一人の家なのだ。

 …と、思っていた。

 この瞬間までは…。


「お帰り、お兄ちゃん。もうご飯食べる?」


 エプロンをした美少女が、俺の目の前に立っていた。

 ………え?

 俺はボーッとした。


「誰だ?お前」


 俺のこの言葉から、物語は始まるのである。

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俺の妹が俺の年上の訳がない。 花見和ノ如く @aokingyorin

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