第2話 ネーミングセンスをください
「なんだ? ドロップアイテムってやつか?」
俺だって多少異世界転移や転生などには理解がある。ガチオタってほどじゃないが、弟に勧められるがままにライトノベルってやつも読んだ。結構好きだった。
弟は俺が全国動物らぶらぶ愛好会のメンバーのように、漫画やアニメの愛好会みたいなものに入ってたりするらしい。……とまぁ、今はそんなことどうでもいいか。
俺は地面に横たわるバトルアックスと謎の紙のようなものの側に足を運んだ。白猫は俺の足元を離れないようにしてついてくる。やっぱり猫様最高に可愛い……。
「これは……カードか? なんかさっきのイエティもどきが書かれてるけど」
手のひらにちょうど収まるサイズの紙は触ってみると意外としっかりしており、まるでトランプのようだった。
「モンスターNo.12……エイティ。ってイエティじゃねえのかよ。なんだよエイティって……」
カードの文字は俺でも読めた。
日本語なのは流石におかしいから、もしかして見る人が分かる言語に自動で翻訳されているのかもしれない。ここは恐ろしいバケモノが出るような異世界だ。普通じゃありえないこともまかり通る。
俺はモンスターの描かれているカードを裏返した。全体が赤く塗られており、中心には黒い蛇のようなマークが描かれていた。
俺はとりあえず勝った記念にと、カードをスキニーパンツのポケットに入れる。
「あとは……このバトルアックスか。軽いけど邪魔だな。だけど、一応持っておくか。またバケモノ出てきたらヤバイし」
「みゃーおっ!」
「ははは……そのときはまた俺を守ってくれるのか! ありがとうな!」
ほとんど表情は変わってないはずなのに、白猫が嬉しそうにしているように見えた。
「……っとそういえば、さっき白猫がエイティ? だっけ、あれを動けなくさせたのは何だったんだ? ……もしかして異世界の能力……」
ありえる。
以前借りたライトノベルでは、主人公やその周囲の人間たちが魔法や能力スキルを使っていた。
しかも戦いの前に読んでいた手紙には、転移のために特典をくれると書かれていた。
「もしかして、俺がこいつを軽々扱えるのも……その能力なのか」
拾い上げたバトルアックスに視線を向ける。それは俺の身長と同じくらいの大きさで、見るからに重力感がある。こんなものを軽々使えている人がいれば、俺も二度……いや三度見はするに違いない。
「みゃーお」
足元で鳴く白猫を見下ろすと、いつのまにか先ほど読んでいた手紙持ってきていた。エイティが来る前、適当に地面に置いていたのだ。
「おお。見つけてきてくれたのか、偉いな」
「にゃっ」
俺は足元にある手紙を拾うと、もう一度文面を眺めた。
「あれ。さっきは無かった文字、増えてねえ?」
繰り返し読んだはずの手紙には『追伸』と書かれた文章が増えていた。
俺はその文字を目で追う。
『才能ギフトと能力スキルはどうだ? いい感じだったんじゃないか? あと、おそらく近くにいるはずであろう猫。あいつはお前についていきたいと私に頼み込んできたから、おまけとしてモンスターに変えて送り込んでやった。その猫の初期能力スキルの《魅了》は大したものだろう。……ああ、言い忘れていた。才能ギフトや能力スキルを確認したければ心の中で“ステータスボード”と言えば出てくるぞ』
ステータスボードか。
あれだよな? よくゲームにも出てくるHPやMPとか、そういう感じの。不思議と心惹かれるのはなんでだろう。ロマンか? ロマンなのか?
「お前の能力は《魅了》なんだな。その美しさに違わぬぴったりな能力スキルだ」
「みゃお!」
「おおそうか、俺のも早速見てみないとな。まぁ、さっきの戦闘からみて予想通りなら――」
俺はトクトクとはやる心臓を抑えながら、早速心の中で「ステータスボード」と唱える。
「おお……すごいな、これ」
すると、自分の目の前に文庫本2冊ほどの大きさの透明な板が現れた。そこには日本語でなにやら文字が書かれている。
どうやら俺自身の情報らしく、早速眺めてみることにした。
・・・
識別No.4548714【NO NAME】
固有ギフト:魔物大好き(モンスターマニア)
スキル一覧:《怪力》
テイムドモンスター【白猫】LV.3
HP:30/30
MP:20/30
スキル一覧:《魅了》
・・・
「おお! 本当に書かれてる。【NO NAME】ってたしかに自分の名前思い出せないけど。あれ? だけど、俺のHPとかMPは書かれてないな……しかもモンスターマニアって。たしかに生き物全般大好きだし、魔物にも興味あるけど……識別ナンバーってのは、日本でいうマイナンバー的ななにかか?」
俺は眉間にシワを寄せ、少し考え込む。
「白猫のMPが20/30なのは、スキル使ったからか? ということは一回使用毎に10減るのか。白猫のレベルは3か。さっきの戦闘で経験値とか入ってたりするのか?」
分からないことはまだまだたくさんある。
けれど、自分で考え込んでいても仕方がない。誰か教えてくれそうな人に聞いてみるべきだと思った。
モンスターマニアがどんな固有ギフトなのかよく分からないし、手紙の主も特典とか言っているのだ。
謎ばかりな分、一応周囲警戒すべきか? ……口が固い人探して聞いてみるべきかもな。
杞憂の可能性はあるけれど、下手をこいてとっ捕まったら嫌だし。
「……っとそれよりも、名前決めるべきだよな。【NO NAME】じゃカッコつかないだろうから。思い出すべきなのかもしれないが、正直名前に未練もないし……名付けてくれた親には悪いが。白猫も【白猫】じゃあ可哀想すぎる」
俺は白猫の近くにしゃがみこみ、名前を考える。
正直言って、ネーミングセンスはゼロを超えてマイナス100くらいだと自覚している。よくサークル仲間に笑われたのだ。
けれど、周囲には俺以外に誰もいないし背に腹は変えられん!……いや、別にそんなことないとか言わないでね、そこは。
「うーん…………よし、決めた! お前の名前はミーコだ。そんな感じの鳴き声だからな」
「……みゃー」
「そうかそうか! 気に入ってくれたか」
少しばかり不満そうな雰囲気を出している気もしないが、俺はこいつをミーコだと名付けた。顎を指でくすぐると、少しばかり機嫌が良くなったようだ。
「ステータスボードも名前が【白猫】から【ミーコ】に変わってるな」
自動時に変更されるステータスボードは予想外にハイテクで。俺はなんだかテンションが上がる。
「あー、俺の名前どうしよう…………もういっそ、パーカー着てるから【パーカー】でいいか。なんちゃって」
そう言ってため息をつき、落としていた視線をステータスボードへと移す。
「……ってうっそ……マジで【パーカー】に変わっちゃってるんだけど。冗談ですよステータスボードさーん」
当然なんの反応もない。
「そうか、えーっとやっぱり藤四郎にしようかな。それともアレクサンドラとかの方がいいか」
……ステータスボードは相変わらず【パーカー】の字を映している。
いや、純日本人なのにパーカーはないだろう。それくらいネーミングセンスない俺だってわかるぞ。さっきはアレクサンドラとか言ってたが!
どうしても頑固なステータスボードに白目を剥きそうだが、これも俺自身の油断で招いたことだから仕方ない。諦めるしかないのか。
「はぁ。もういいや、パーカーで! どうぞこれからパーカーとお呼びくださいまし……ってなんか一人で言ってて寂しくなってきた……」
俺はわずかに哀愁を漂わせながら、白猫のミーコーを撫でる。
ああ、これで心のHPは満タン回復だ。
ちなみにパーカーは普通の洋服のパーカーのイントネーションではなく、【パ】だけにアクセントをつける方にしようと心の中で決意した。そっちの方が、まだマシな気がする。パーカーさんとか海外の方でも苗字で見るし。
「ミーコ。そろそろ動こうか。遭難したときはあまりその場を動かない方がいいとか言うけど、多分そういうのはこの世界で通じない気がするし」
「にゃあ」
「エイティ倒して少し腹も減ってきたし、とりあえず誰かいないか歩いてみるしかねえな」
俺、パーカーと白猫のミーコはとりあえず森の探索を始めることにした。
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