part.8-5 それが『世界』と分かるまで
……、
………、
「……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
恐怖で僕は飛び起きる。どうやらここは僕の部屋らしい。
「夢だったのか……」
そう言って安心しようとした次の瞬間、左腕が全く動かない。金縛りとはまた違った感覚で、動かそうとすると途端に激痛が走る。
「うっ!!」
そして、起き上がろうとした瞬間、背中に猛烈な痛みが走った。何かに引き裂かれたような痛みに襲われる。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
痛みで僕は叫ぶ。かろうじて動く右腕はベッドのシーツを必死に掴んでいた。
「う……ぐっ……ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
必死に叫ぶが、痛みが消え去ることはない。
「んんんんんん……」
僕の叫び声で茜が起きてしまったらしく、眠そうな目をこすりながら僕の部屋へとやって来た。
「どぉしたの?しょーたぁ……」
言いながら、茜は部屋の照明を入れる。部屋に光が入った途端、茜の表情は次第に青ざめていった。
「しょーた……ち、血が……」
言われて振り返ると、ベッドのシーツが血で汚れていた。
「な……何だこれ……」
理解が追いつく間もなく僕はそう呟いた。次第に痛みと共に焦りが襲ってくる。
「なんだこれ、なんだこれ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「私、救急車呼んでくる!!」
言って、茜は僕の部屋を離れていった。
◉ ◉ ◉
かくて、僕は救急車で搬送され、そのまま緊急入院することとなった。応急手当を受けた後、僕はそのまま病院のベッドに横たわる。
「……どうだ?気分は落ち着いたか?」
医者の人が僕にそう聞いた。
「ええ……大分落ち着いてきました」
僕はそう答える。
「ふむ……君の怪我だが、左腕の骨折に頭を殴打している。そして何より引き裂かれたかのような背中の裂傷だ」
と、医師は言った。その怪我のどれもがあの夢で起きたクイーンフォックスとの戦いで受けた傷だ。
「まさかこんなことが寝ている間に起きたとは言うまい?」
医師は僕に疑いの目を向けてそう言った。
「……本当です。本当に僕は寝ていただけなんです!」
「……まあ良い、君の怪我は全治3ヶ月の大怪我だ。暫く安静にしていなさい」
医師が未だ僕に疑いの目を向けたまま、そう言った。
「はい……」
僕が返事をすると、その医師はその場を去って行った。それと同時に今度は茜が病室に入ってくる。
「しょーた、大丈夫なの?」
細々とした声で茜はそう言った。
「大丈夫……と言ったら嘘になるかな?でも、ひとまず一命は取り留めたよ」
「ばか!!!!!」
僕が言葉を言い切る前に栞はそう言い放つ。
「私、言ったじゃん……君まで居なくならないでって……なのに、どうしてこんなこと……」
茜はそう言いながらも僕が寝そべっているベッドの端に顔を押し当てて泣きじゃくる。茜のこんな姿は今までに見たことが無い。
「……茜、すまない……」
僕は言いながら茜の頭に手を伸ばそうとしたが、何分骨折した左腕はギプスで固定されており、その一切を許さない。
「……ねぇ、教えて?一体何が起きたの?」
充血した茜の目はこちらを向き、喉をきつく絞るような声で問われる。
「……今から言うこと、信じてくれるか?」
「うん、信じる……信じるよ……!」
僕の問いに茜はそう答えた。
◉ ◉ ◉
それから僕は夢で起きた全ての事を話した。クイーンフォックスとの戦いで大怪我を負ったこと、そしてその傷が現実世界に引き継がれていたこと、それだけに留まらず、イヴァンカの事や栞の記憶が戻ったこと……全部を茜に話した。勿論こんな事は非現実的な現象であって本来馬鹿馬鹿しい話しだ。それでも茜は笑うこと無く、ただ真剣に僕の話を聞いていた。
「……大体こんなところかな?」
粗方異世界での出来事を伝えて僕はそう言った。
「そっか……教えてくれてありがとう」
既に泣き止んでけろりとしていた茜はそう答えた。
「それで?今日はどうするんだ?」
と、僕は茜に聞いた。
「夜遅いしここで寝る」
「ああ……それが良い」
茜の言葉に油断して少し安心したような声を出してしまう。やはりこんな事が起きてしまった以上、茜に限らず僕も怖いのだ。そんな中で誰かがそばに居てくれる、というのはやはり安心出来る。
「……おやすみ」
どちらからとも無く発せられた言葉で僕らは自然にその目を閉じた。
続く……
TOPIC!!
佐伯 翔太
本作主人公。
端正な顔立ちで好青年な印象を受けるものの、
ひねくれた感性と人見知り気味な性格のせいで友人は少ない。
科学部の部長を務めているだけあって、学業の成績は優秀だが
運動面はあまり得意では無く、体育は苦手。
そんな彼が何故か突然異世界に飛ばされ、
現状、現実世界と異世界を行ったり来たりの生活を繰り返している。
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