part.3-3 私を救ってくれた人
「お嬢さん、大丈夫かい!?」
イヴァンカの問いかけに答える事無く、その少女は力尽きてしまった。
「まずいな、レイジフォックスはもう仲間を呼んでいる。このままでは囲まれてしまうぞ!」
そう考えたイヴァンカは少女を抱きかかえた。その身体はとても軽く、細い腕は今にも崩れそうだった。
「はは、君ちゃんと食べてるかい?」
そんな母親のような言葉を呟いた後、イヴァンカはゆっくりと身体を起こした。
「君はちゃんと走れるな?悪いが君まで抱えて走ることは出来ない」
イヴァンカはスライムに向かってそう言った。するとそのスライムはぷるぷると身体を震わせて返事をしている。どうやらこのスライムは人間の言葉を理解しているらしい。
「行くぞ!!」
その言葉を合図にイヴァンカとスライムは走り出した。軽いとは言え少女を抱えている為、そこまでに速く走ることが出来ない。そんな中当然レイジフォックスはイヴァンカたちを追ってきていた。少しずつ迫る足音、その数もだんだん増えており、恐らく3〜4匹は追ってきている。レイジフォックスに囲まれてしまうと、最悪1人で10匹以上を相手にしなければならないこともある為、どうやら今はまだましと言うことらしい。イヴァンカは適当な木陰に少女を降ろした。
「ここでしばらく待っててくれ」
眠る少女とスライムにそうささやいて、イヴァンカは腰に下げたレイピアを抜き身にした。
◉ ◉ ◉
「まったく、大変な騒動に巻き込まれてしまった。もしこれがクエストだったら私はいくら貰えてたのだろうな?」
イヴァンカは心にも無いことを呟いた。レイピアを握りしめる右手は小刻みに震えている。しかし相手はたかがレイジフォックス、モンスターと呼ばれる存在でも弱い部類の種だ。
(ここで怯えていたらどうして私が武器を取ったか分からない)
そう思うとイヴァンカは目を強く見開いて、後ろを振り返った。
「ゥゥゥ……」
その時既にレイジフォックスがイヴァンカの目の前まで現れていた。イヴァンカの予想よりも早かったが、数は想定通り4匹だ。遠吠えも無く、これ以上敵が増える気配は無い。
「やああ!」
先に仕掛けたのはイヴァンカの方だった。最も近いレイジフォックスに向けてレイピアを突きつける。しかし、動きの素早いレイジフォックスは彼女の剣をひらりと躱した。
(右!!)
それに反応してイヴァンカは右側の水平方向にレイピアを振った。その剣は致命傷を負わせるには至らなかったものの、レイジフォックスの右足を断ち切った。足を切られたレイジフォックスは恐怖したのか、よたよたと歩きながら逃げていった。
(コイツはもういい、次だ!)
逃げていった敵を放置し、次の敵に目を向ける。すると1匹のレイジフォックスが護衛対象である少女達のいる木陰に向かっていた。
(まずい!!)
考える間もなくイヴァンカはそのレイジフォックスにめがけてレイピアを投げつけた。投げつけたレイピアは見事レイジフォックスを貫いたものの、こうなるとイヴァンカ自身は丸腰である。
「ゥゥゥ……」
じりじりと2匹のレイジフォックスがイヴァンカに迫る。悪い状況だ。これを打開するためには2匹のレイジフォックスの先にあるレイピアを取らなければならない。
(……行くぞ!!)
次の瞬間、イヴァンカは丸腰のままレイジフォックスに突進した。2匹のレイジフォックスは彼女の左右に展開し、突進を待ち伏せている。次の瞬間、右側にいるレイジフォックスが襲いかかってきた。イヴァンカはこれをひらりと躱したが、その時もう1匹のレイジフォックスが飛びかかっていることに気付いていなかった。
(間に合わない!!)
イヴァンカはレイジフォックスの噛みつきを左腕の小手で受け止めた。その獣の牙は彼女が身につけている革製の鎧を貫くには至らないが、それでも激しい痛みがイヴァンカを襲った。
「ぎゃああああああ!」
痛みに叫びながらもイヴァンカは目を大きく見開き、そのレイジフォックスを睨み付ける。噛みついてきたレイジフォックスに右足で蹴りつけた。
「ギャウン!」
蹴りを食らったレイジフォックスは地面に叩きつけられ、反動でイヴァンカの左腕を離した。左手が思うように動かない。恐らく折れてしまっている。しかしこれでイヴァンカはレイピアのある位置にたどり着くことが出来た。
「さあ、形勢逆転だ!」
レイジフォックスの死骸に突き刺さっていたレイピアを抜いてイヴァンカはそう言った。動かない左腕はぷらんと垂れ下がっており、格好が付かないものの、足を動かす分には何ら問題無い。イヴァンカはその足で地面を蹴りつけ、2匹のレイジフォックスめがけて突進した。右手でレイピアを構えているため、自然と右側にいるレイジフォックスが標的になる。
(どうせ突きは当たらない!奴は右に避けるはずだから……)
そう読んでイヴァンカは右にレイピアを振った。しかし、予想は外れてレイジフォックスは左に避ける。そしてレイジフォックスはイヴァンカの懐に入り込んでいる状態となってしまった。
(しまった!!)
懐に入り込んだレイジフォックスはイヴァンカのみぞおちにめがけて頭突きを行う。
「ぐはっ!」
頭突きに怯んだイヴァンカにもう1匹のレイジフォックスが飛びかかってきた。今度は左腕では無く首元に噛みついてきた。鎧の守りが無い場所で、左腕と違い、攻撃を受けると致命傷を得てしまう箇所だ。
「ぐああああああああああああ!!」
首の肉を牙が抉る。それでもイヴァンカは自由が利く右腕に物を言わせ、握るレイピアでレイジフォックスの横腹を突き刺した。
「う、ぅぅ……」
イヴァンカはレイジフォックスの死骸をのけてゆっくりと起き上がる。そして最後のレイジフォックスを睨み付けた。
「よ、くも!やって、くれたな!ぐふっ!」
首を噛まれて上手く喋ることが出来ず、途切れ途切れになってしまう。しまいには吐血までしていた。レイジフォックスはこれを好機とみたのかイヴァンカめがけて突進してきた。
(次で最後だ、この攻撃を外せば私は……)
薄れゆく意識の中に父の顔が浮かぶ。それでもイヴァンカは幻影を払拭し、襲いかかるレイジフォックスを捉えた。レイピアを構え、レイジフォックスを待ち伏せる。
「やあああああああああああ!」
次の瞬間、イヴァンカの剣先はレイジフォックスの額を確かに貫いた。レイピアにはレイジフォックスの重みが掛かり、それに逆らえずに剣を地面に落としてしまう。
「やったよ……父さぁん……」
イヴァンカはそう言いながら、遂に重力に逆らうことが出来なくなり、地面に倒れてしまった。
続く……
TOPIC!!
『アルミラージ』危険度 ★
肉食系のウサギ。
好戦的な性格で自分よりも体格差が大きい人間でさえも容赦なく襲いかかってくる。
見た目は通常のウサギとほとんど変わらないものの肉食獣らしい鋭い牙が生えており、
攻撃時にこの牙を用いた噛みつき攻撃を得意とする。
動きは俊敏ではあるものの、腕力は意外と少なく、
噛みつきや頭突きによる攻撃以外にまともな攻撃手段を持たない為、
最初の一手を躱すと楽に対処出来る。
ちなみに本種の毛皮は黄ばんだ白の色合いであまり綺麗では無いものの
強靱な素材として知られており、
鎧の裏地等に使われていることが多い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます