第100話 薬屋



「とりあえず、私の『索敵』範囲内からは反応がなくなったよ」


 ほっとしてそう言うと、リノも力を抜いて構えていた短剣を下ろした。


「よ、よかったです……もう、体力が限界でしたから」


「ゴブリンも指揮官がいると厄介さが増すよね。それに若干強くなっている個体も混じっていたし……」


「そうですね。魔鉄入りの短剣が刺さりにくくなる程とは思いませんでした」


「うん、確かに。森の奥へ行くにつれて段々と瘴気が濃くなるから、弱い魔物でも能力が上がるとは聞いてたけど本当だった」


「はい。最後は逃げ出してくれて助かりました……」




 あの後すぐ、ラグナードが上位個体のホブゴブリンを倒したことにより、残り僅かになっていた群れが崩壊したんだよね。

 迷いの魔樹討伐から続いてた戦闘が、ようやく終わってほっとする。

 時間にすると短かったんだろうけど、体感時間が長く感じたので精神的な余裕がなかったんだと思うけど。


 リノの怪我を聖魔法で『治療』してから支援魔法も掛け直し、シルエラさん直伝のドリンクを飲んで回復を図っていると、無傷のラグナードが倒したホブゴブリンを軽々と担いで戻ってきた。


 流石六級冒険者(但し実力はもっと上)だけあってゴブリンの上位個体くらいあっさりと倒せちゃうのか……でも怪我が無くてよかった。本当、頼りになります。


「二人とも無事だな。リノ、大丈夫か?」


「正直、ちょっときついです……」


「いつもより休憩時間も少ないし仕方ないよ」


「そうだよな。後始末だけしたら、ここから離れよう」


「はい」


 私の魔法だとすぐに全回復しないので、まだ顔に疲れが出ている。危険地帯から抜け出すためにも、今すぐ万全な体調にしておきたいので、ラグナードが分けてくれたポーションを早速飲んだ。


 一瞬で回復したらしい……。


 ポーションすごいっ。こんな劇的に効くのか……町に戻ったら絶対買わなきゃっ。




 リノには荷物の見張りをお願いして、動かなくなったゴブリン達を集める。


 数が多かったので、ラグナードが魔法で大きな穴を開けてくれて、魔石と使えそうな少量の武具だけ剥ぎ取り、次々と投げ入れていった。


 手早く処理して最後に火魔法で焼いてから、埋め戻しておく。




 その後は魔物を倒しながら、比較的安全な街道沿いまで最短距離で戻った。


 安全地帯でゆっくりとお昼を食べてから、リノの体調も考慮し、これ以上の討伐はせずに町へ帰ることになったのだった。









 あれから早々に町へ戻り、まずは久々に魔力切れを起こしたリノ用に、回復アイテムを買うことにした。


 今日は新パーティーを組んでから初の活動日で、彼女の身体の限界を見極めるため支援魔法も休憩も減らして動いていた。

 その上、森は奥へ行くほど徐々に瘴気が増し魔力や体力を奪う特性があるから、早くバテてしまったと言うのもあるんだけどね。

 不安要素は早めに把握して、減らしていった方がいいから有意義な時間だった。


 今回はポーションで回復したけど、出来れば常時発動する魔道具も身につけておきたい。回復方法は、幾通りもあった方がより安全だから。


 リノだけじゃなく、魔法中心に戦う私にも必要なアイテムだしいつかは買いたいと思っていたし、良いのがあるといいな。




 冒険者ギルドで今日の成果を精算して貰った後に、この町に一軒しかない魔道具屋さんへとやって来た。


 早速、店主のマールさんに、聖魔水晶と残りの魔石を全部買い取ってもらう。

 結構いい値がついて、冒険者ギルドの分と合わせて三等分すると一人当たりの稼ぎは996シクルになった。すごいっ。

 一日の活動時間としては短かったはずなのに、パーティーに熟練の戦士が一人いるだけでこんなにも収入額が違うんだ……。


 これだけあるならリノも私も「MP全回復+1上昇」のやつが買えそう。魔道具型のネックレスになっていて、お値段は1000シクルだった。


 一応、専門家の意見も聞きたいのでマールさんにも相談してみた。すると、その効果が私達のパーティーにとっては微妙な事が判明した。

 何でも、「MP全回復+1上昇」は支援魔法のレベル1と同程度の効果しかないらしい。

 う~ん、それだと私の負担は減るけど、彼女は今までと同じで回復が追い付かないかもしれない。


 皆で話し合って購入は見送り、「MP全回復+2上昇」以上が買えるお金が貯まるまでは、即効性のあるポーションを買うことにした。







 ポーションは薬屋で売っているらしい。


 この近くにあるというので、ラグナードに案内して貰ったそこは、十人も入ればいっぱいになってしまうような小さな店舗だった。


 ショーケース付きのカウンターには小瓶に入ったポーション類が並べられ、その後ろにある壁には一面に大きな棚があって、粉薬や丸薬の他に薬草類がきれいに瓶に入れられて収まっており、独特の匂いがしていた。

 私は大丈夫だけど、『嗅覚強化』スキルのレベルが高い二人にはちょっときついかもね。


 ここのショーケースにもスライム素材が使われているみたい。『鑑定』スキルが無ければガラスケースとの見分けがつかないほど、透明度が高くて綺麗だ。

 そこにはあの時彼がリノに渡してくれたパワーポーションと言う、黄色い液体の入った小瓶もあった。


 あれってよく効いたし、相当高価だったんじゃないかな?


 ドキドキしながらお値段を見てみると、一本600シクルとなってたっ。うわぁっ、日本円にすると六万円ですよ、とってもお高い!

 HP・MP回復効果のある下級ポーションだったみたいで、彼女と一緒に一本100シクルと格安で譲って貰ったんだけど良かったんだろうか……。

 

 ゆっくり時間を掛けて回復していく魔道具と違ってポーションは即効性が売りだから、安全に冒険するためにも常備しておきたいアイテムだよね。

 でも、このお値段を見てると躊躇してしまうなぁ。お金のない冒険者にとってはすっごく高額なんだもん。




 でも、そういう人用にここでもお得な裏技があったんですっ。


 薬師のお弟子さん達が作成したものを中心に、安く購入できる品があるんだって。


 通常のより回復量が少なく効果が低い為、商品として店頭に並べて置けない、所詮不良品と呼ばれるやつだけど、お客さんに相談された時にだけこっそりと教えて販売しているみたい。ありがたいよね。

 他にも消費期限間近のポーションが割り引き対象になるみたいだけど、あいにく今はないらしい。


 店の奥から出してきてくれて、ラグナードにもアドバイスを貰いながら、一通り見てみることに……。


 その中からリノは、一本200シクルのを四本購入することにしたみたい。

 お弟子さん作で回復率が通常のものより少なく三分の一程度になるやつだった。支援魔法もあるしそれくらいでいいと思う。


 私も一本300シクルで、通常の三倍は回復速度がかかるものを二本、買っておいた。こっちのは薬草の品質が悪くて基準を満たせなかったものらしいけど、回復率は同等なのでいいかなって。

 通常価格のだと回復までの速度が一瞬なのは魅力的だけど少し落ちるだけ……お得な割引価格で手に入れられてよかった!







 その後は宿の裏庭を借りて、『剣術』スキルの練習をすることに……。


 ラグナードが強化の為に、武器スキルを教えるよって言ってくれたんだっ。うれしい!


 二人で、長剣の型を習ったんだけど、リノは既に、『短剣術』と『棒術』という二つの類似スキルを取っているので、剣術系統は覚えやすいらしい。


「基本が出来ているからな、簡単に習得出来ると思う。頑張れっ」


「はい、ありがとうございます!」


「ローザも一つ取れたら次は早いから。エルフだし、魔術よりも習得に時間は掛かるが、見たところ『短剣術』はもうすぐ取れそうだしな」


「本当? 毎日練習して今日で四日目なんだよね。そっか、もう少しなのか……頑張るよっ」


「おうっ」




 一通り教えてくれたラグナードが帰ってからも、夕食の時間まで二人で繰り返し型の練習をした。


 結局、その日中の習得は無理だったけど、あとちょっとらしいし諦めずに明日もやるつもりです!





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