第91話 予行練習



「じゃあ今日は、町から出てすぐ北の森に入るって事でいいかな」


「そうですね。昨日は結局、エドさんから聞いていた迷いの魔樹を見たという場所まで辿り着きませんでしたしね」


「まぁ、それは他の個体を一体倒せたことで……よしとしとこう。多分、今日も魔物が多いはずだし慎重にいこうね」


「はいっ。それで森から帰って来たら今度こそ魔道具屋さんか、鍛冶屋さんに行くんですね?」


「その予定。ラグナードがギルドに来るのは閉門する十八時以降らしいから、時間的な余裕はあると思う。安全の為にも、ギリギリまでやれるだけやっておきたいんだけど……どうかな?」


「いいと思います。今日こそマジックキノコが見つかるといいですよね。購入費用の足しに出来ますから」


「うん。武器も魔道具も高いけど、少しでもいいものを買いたいもんね」


「ええ、目標額を稼げるように頑張りましょう!」



 昨日、装備を買いにいったんだけど、欲しいものには少しお金が足りなかったんだよね。


 なので頑張って稼いで、帰ったら買い物に行きたい。

 






 開門直後に町から出て、すぐ北の森へと入る。外周付近を通り越し、真っ直ぐ森の奥へと向かっていく。

 ラグナードと合流した時の予行練習を兼ねての事なので、怖くて挫けそうになる気持ちを押し殺して進んだ。


 やはりというか、比較的人の出入りが多いこの付近でも、奥へ行く程人の手が入った場所が減っていき、それに伴い段々と足場も悪くなって来た。それでも、昨日行った所よりはまだましだけどね。


 重なりあった枝で薄暗い場所も増えていき、背の高い草が藪になっていて見通しもよくないので、リノが『嗅覚強化』で、私が『索敵』で警戒しながら進んでいく。




 数分進んだところで早くも『索敵』に反応があった。たぶん、ポイズンラット。それが八体分ある。結構多いな……。


 ハンドサインでリノに注意を促し、慎重に進む。


 今日は、迷いの魔樹討伐まで私の魔力を極力温存する方針なので、最小限の魔法でリノの戦闘をサポートすることに……。


 群れ全体に効く魔法ということで、聖魔法の『聖火』を使って対処することにした。

 目眩まし効果以外にも、小型の魔物ほどこの光を浴びると弱って動きが鈍くなるっていう利点もあるし、保存食作りで使い慣れているから魔力の調整もしやすいからね。



 ――早いな、もう来た。



 左の方の草叢がガサガサと揺れだす。


 我先にと、一斉に跳び出してきたのはやはりポイズンラット。


 知能が高くないので相手の力量に関係なく、条件反射のように襲いかかってくるから、察知されれば回避も出来ない厄介な魔物。


 なんだろ……こう、ヒャッハーって感じ? 


 反撃されるなんて考えてない、勢い任せの奴なんだよ。意外と表情も豊かだし……凶悪な方向でね。牙を剥き出しにしているから可愛くないんだっ。




 弱い魔物とはいえ数は脅威に成りうるので、油断せず着実に倒そうと気を引き締める。


 タイミングを見計らって……。



聖火ホーリーヒート』!



 瞬間、ピカァーッと発光し、辺りが白い光で覆われた。魔物には眩しく感じるらしいので、この攻撃は目眩ましに使えるんだ。



 苦手とする聖魔法の一撃をその身に浴びて、群れの動きが一時的に止まる。


 攻撃に移る時間を稼げたので、リノが素早く前に出て短剣で仕留めていく。

 数が多いから私もまた、奇襲から回復出来ないでいる内にと、残りの個体に万能ナイフで止めを差して回った。


 私達が武器で共闘することは、今までほぼない。でも、いずれは色んな戦い方に慣れないといけないから、弱い魔物で積極的に試していってるんだ。ちゃんと役割を果たせてほっとした。






 魔石だけ取って手早く一ヶ所に集めて燃やし、火の始末をしてその場を離れる。


 リノの防具は、全身を覆うタイプで部分的に金属で覆われた動きやすい革鎧と、ある程度は盾の役割も果たせる丈夫な籠手。

 昨日もこの装備で森の少し奧まで行ってきた訳だけど、防御率が上がっているので今までの紙装備とは安心感が違った。


 それは今日も、ゴブリンと遭遇した時に結果として実証された。


 小柄で身軽な魔物で接近戦になると魔法を使いづらい為、私は『索敵』に引っ掛かった段階で樹に登って頭上から奇襲することに。それくらいの時間ならあったからね。


 相手は五体いて群れで襲ってくるし、ポイズンラットと違いある程度の知性はある。


 鎧や盾などの防具はつけてないし、棍棒や錆びたり欠けたりしたナイフで武装をしているだけだけど、連携して向かってくる。

 四方を取り囲もうとしながらも、頑張りきれずにバラけて突っ込んで来るっていう残念さはあるけど……。

 やはり上位個体……統率するものがいないと、連携も今一と言うか……戦い方がポンコツになるなぁ。こっちは助かるからいいんだけどね。


 それでも知能があって厄介なのは変わらないので、ゴブリンには足止めではなく最初から確実に魔法で仕留める方針で行くことにした。


 ポイズンラットと違って一塊になって襲いかかっては来ないので、群れ全体を一気に弱体化する『浄化』は使えない。


 なので、水魔法の『水矢』で遠方から先制攻撃をお見舞いすることに……。


 最初の奇襲で一体を倒すと、すかさずリノが隠れていた草藪から飛び出して行ったっ。


 残りの四体はダメージを一切負っていない為、先制攻撃をされた怒りで更にスピードを上げて、もう連携無視で突っ込んでくるっ。

 予想以上に一気に近づいて来てしまったので、すぐ長剣を構えて向きあうことに……。


 もう一体くらいは魔法で減らしておきたかったけど、思ったより早く混戦になってしまって援護が出来ないっ。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る