第43話 迷いの魔樹①
リーダーを倒されて一瞬動揺したゴブリン達も、すぐに奇声を上げ、棍棒を振り回しながら押し寄せてきた。でも連携は取れてない、バラバラに突っ込んで来ているだけだ。
大丈夫、後は弱い個体だけだし、いつも通りに慌てず、一匹づつ『火弾』で倒していこう。
なるべく頭部に当たるように、よく狙って……。
『
よし、全部命中した!
やっぱり木の上からの攻撃っていいねっ。
周りがよく見えるし向こうの攻撃が届かなくて安全だから、こうやって落ち着いてできる。
結局、今回は一度も外すことなく全ての殲滅に成功したから、火事を起こさずに済んだしね。緊張したけど、火魔法を使ってよかった。
これはもう、ノーコン返上してもいいんじゃないかな!? 『魔力操作』スキルのおかげもあると思うけど、中々腕を上げたと言えるんじゃないでしょうか。
飛んでいったゴブリンソルジャーからも魔石を回収し終えると、最後に側に落ちていたロングソードを拾った。
ゴブリンが持っているのにしてはいい剣で状態もよく、もしかしたら元は冒険者の物かもしれない。少し研ぎ直しに出せば使えるかも。
お金に替えてもいいし、せっかくだからこれも持って帰ろう。
――トレントの一種である、迷いの魔樹の討伐。
これが昨日、ギルドから受けた最優先の緊急依頼。
巨木群の辺りを狩場にしているのは私ぐらいだから、冒険者ギルドでよく担当してくれてるエドさんに、買取のついでに森の様子を聞かれるんだよね。
変わったことがないかって、こうしていつも冒険者から情報収集しているらしい。
その時に迷いの魔樹の話になって、何体か見つけていると言ったところ、すぐにギルドで間引き依頼を出すので、最優先で討伐をして欲しいと要請された。
大きさにもよるけど、依頼料と合わせてだいたい銀貨二枚以上と、高額で買取してくれるとの事。
すごいっ、装備費用なんてすぐに整えられそうなくらい、単価が高い!
なので喜んで受けて来たんだけど、普通のソロでやってる十級冒険者には危険な魔物みたいだね。
なんでも成木の擬態を見破れる人が中々いない上に、割りと広範囲の幻術も使ってくるらしく、この幻術への耐性が人族にはほとんどなくて討伐が難しいんだとか。
最優先で見つかるだけ全部狩ってきて欲しいと依頼された。
一体だとそれほど強い魔物ではないけど、ボトルゴードのような辺境の町では、近隣の森で年に何回かは見つかり、その都度真っ先に討伐されてきたらしい。
――何故なら、特別珍しい魔樹ではないけど爆発的に増える当り年というのがあって、そうなるととても危険だから。
普段だと、私が活動しているような森の浅い部分までは出て来ないみたいで、いても森の中奥付近なんだとか。
なので、外周の森で見たということは、積極的に狩らないと短期間で気づかないうちに数を増やし、手に負えなくなる可能性があると言われた。
――なにそれ、知らなかった!
そういえば、冒険者ギルドからもらった討伐一覧表、単価が安くて弱い魔物討伐ばっかり見てて迷いの魔樹のような高い依頼料のものはまだ、チェックしてなかったや……厄介なものはやっぱり依頼料も高いんだね。
当たり前だけど、異世界の森の中ってやっぱり、想像以上に危険なものがいっぱいいるんだなぁ。
迷いの魔樹って、ただの大きな肉食の食虫植物だと思ってた……。
魔物でも幻術で引き寄せて食べているらしいから、減らしてくれるならラッキーとか思って放置していたのに駄目だったみたいです。
私はエルフ族だし、迷いの魔樹の幻術に耐性があるからほぼ引っ掛からない。
他にこの辺で活動している人もいないし、危険性は低いと思って特に気にしていなかったたけど……。
むしろ、人がいないせいで、見つからずに数を増やせるから危険度は増しますと説明された。
エドさん曰く、樹の魔物らしく火に弱いので、火魔法を使って倒すか、斧で切り倒すのが一番いいそう。
――逆に絶対使ってはいけないのが水魔法。
水魔法の魔力ごと取り込んで元気にパワーアップして強くなってしまうので、気をつけてくださいと言われた……。
おぉぅっ、それは確かにマズいですね。 ついうっかり間違えてやらかさないよう、肝に銘じます!
私向きの依頼だったし、早速北の森に来たわけだけど、初めて倒す魔物っていうのはやっぱり緊張する。
色々とアドバイスをもらったから大丈夫だと思いたいけど、失敗したらゲームと違って生き返らないからね。
助けてくれる人もいないことだし、慎重に、シュミレーション通りにやろう。
幸い、私には『マップ作成』スキルがあるので、迷いの魔樹の場所もマッピング済みだったからよかった。すぐに討伐に行けるから。ただし成木のみだけどね。
若い樹はゆっくりとだけど移動するから把握しにくいみたい。でも、成長した樹はほぼその場所を動かないからマーキングしやすいらしい。
進行方向にいる魔物を倒しながら、迷いの魔樹の方へ進んで行くと……。
――あった。この樹だ。
ポイントマークにしたがって、こっそりと目視出来る所まで近づいていく。
間近で見てもその姿は他の樹に紛れて擬態しててわからない。『鑑定』がないとやっぱり見た目では区別がつかないや。
それにこの距離だともう幻術の範囲内らしい。なんか背筋がモヤモヤっとするし。
けど大丈夫、私には『鑑定』様が付いているから絶対見失わないし、幻術も違和感があるだけで全く効いてないから!
擬態が解けない内だと奇襲出来て、安全に狩れるってエドさんも言ってたし、今なら簡単に倒せるはず!
――じゃあ、行くよ!
『
ズドンっと大きな音を立てて着弾し、一気に樹の真ん中らへんが燃え上がって真っ赤になったっ。
魔樹の擬態が解ける!
「ゴ オ゛オ゛オ゛オオオォォ――――!!」
幹の部分に顔のような洞が現れ、地鳴りのような叫び声を上げたっ。
根っ子をズルズルと地面から引き出し、枝を揺らし、それを使って火を消そうと暴れる暴れる!
火の粉が舞っちゃってるってば! 飛び火しちゃうから早く倒さなきゃっ。
ちょっ、ちょっと、そんなに動かないで!
狙いを付けにくいから――!
木の洞っぽい顔が弱点と聞いていたため、それに向かって火魔法を連続して打っていく。
『
――あ、当たった!?
その内の一本がガスッと命中したみたいで、やっと大人しくなってくれました。はぁ、よかったぁ。
戦い敗れてがっくりとうなだれたような姿になっちゃった魔樹は、ちょっと哀愁漂ってて可哀想かもしれない。魔物に同情しちゃダメって分かってるんだけどね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます