第146話 やっぱり拠点を移そう!



 そこら辺の事情がよく分からなくて心配だったので、ラグナードに聞いてみたら……。


「大丈夫だ。俺の友人の狼人族が、一ヶ月くらいなら自分の家に泊めてくれるはずだから、心配しなくていい。それに、どんな素性の奴が泊まるか分からない宿より安全だし、お前たちを守りやすいしな。行くなら話をつけてやるが……どうする?」


「ありがとうございます。ローザ、どうしましょう?」


「うん、ラグナード達に迷惑にならないなら、願ってもない話だし、ここはご厚意に甘えたいと思うんだけど……リノもそれでいい?」


「はい、大丈夫です。ローザが行くところには一緒に行きます。ただ私達、宿代をあと数日分前払いしてますが、それはどうしますか?」


「う~ん、それがあったか」


 前払い分は返ってこないんだよね……。万年金欠の身としては、ちょっとのことだけどもったいない気がしてしまう。でも、命の安全には代えられないし……。




 どうしようかと迷っていると、ラグナードに諭された。


「どうせ行くなら一日でも早い方がいいぞ。なんなら、魔道具屋も今から行っとくか? どうしても必要なのは、隠蔽の魔道具と防水性が高い外套くらいだっただろう? それぐらいなら立て替えておいてやるから、そうしろ」


「……でも」


 独り立ちを決意したばっかりなんですけど……甘えちゃっていいのかな。


「なに、マジックキノコで稼げればすぐ返せる額だし、それぐらいの援助ならいいだろ? そしたら明日、冒険が終わればその足でジニアの村に入れるんだぞ」


「無駄がないですねっ。すごくいいと思います。ね、ローザ?」


「……確かに」


 ラグナードが言うように、一日でも早く拠点を移すことは身の安全に繋がるし魅力的だ。 私もリノも、元々、防水加工の外套を買える分のお金は持っている。私に関していえば、レベル1の魔道具を一つだけなら買える蓄えはギリギリあるし。


 後は魔道具のレベルをどれぐらいの高さにするかで、資金不足になるくらいだから、数日頑張れば返済出来る目処がたつ……か?




 とかなんとか考えているうちに、そわそわと落ち着かなげに揺れていたラグナードの耳としっぽが、段々しゅんと垂れそうになってきてしまう!



 ――あああぁぁぁっ、落ち込ませてしまった!


 い、いやいやいやっ、違うんですよ!?


 迷惑とかそんなのでは全然なくって、ご厚意はとても嬉しいんですって!


 ただ、人って楽な方に流される生き物だから、優しくされるのに慣れ切ってしまうと際限なく甘えて依存してしまいそうでですね、少し怖くなって躊躇してしまっただけですから!



 ――でも、もふもふの狼さんを悲しませるのはよくない。



 ここはもう素直に頼っておこうっ。


「そうだね……じゃあ、お言葉に甘えてお願いしてもいい?」


 そう言った途端、耳がピンと立って嬉しげに尻尾が揺れだした。


「ああっ、勿論。決まりだなっ」


「はい、よろしくお願いします!」


 ほっ、良かった!




 買い物には、魔法の練習で魔力を使い切り、へばってしまったリノを宿に置いて二人で出かけることにした。


「……すみません」


「気にしないで。すごく頑張った結果なんだから。どう、これで少しは動けそう?」


 聖魔法の『治療』と『浄化』、支援魔法の『HP回復』と『MP回復』を重ね掛けして、体力、魔力の回復をはかる。


「はい、ローザが魔法を使ってくれましたし、魔力補給の保存食も食べてますから。もう少ししたら大丈夫だと思います」

 

 リノはにっこり笑ってそう言ってくれたけれど、朝から魔法で回復する機会が多かったから、徐々に効き目が落ちてきているはずなんだよ。


 その上、仕事の後にも『隠蔽』スキル獲得に向けて練習するのに、いっぱい掛けたから。


 支援魔法って、MP・HP回復を無限に出来る仕様だったら最強なのにね?


 やっぱりそこら辺は、努力しないと結果が出ないっていう世界だから仕方がないことではある。楽して強くなれる方法なんて、ないんだろうなぁ。




 でも本人申告通り、顔色もそれほど悪くなさそうだし、ゆっくりとなら復活してくれそう。

 嫌な言い方だけど、彼女は魔力不足の状態に長年慣れているから、本当に切羽詰まっているときの見極めは上手いのだ。


 今も、HP・MP回復効果のある下級ポーションの摂取を薦めたのだが、これくらいなら大丈夫だと断られてしまった。


「そう、分かった。じゃあ、動けるようになったら下の食堂で夕食をとってね。食べれるなら私の分も食べていいから」


「いいんですか?」


「うん、私はさっきのでお腹いっぱいだし」


 焼肉パーティーで思う存分お肉を中心に食べまくったもんなぁ。あれは本当に美味しかったけど、まだまだお腹が苦しい……。なので、買い物に行くのはいい腹ごなしになりそうなんです。


「ありがとうございます。そうします」


「うん。じゃあ、行ってくるね」


「はい、行ってらっしゃい」



 ――というわけで、 超ご機嫌さんになって尻尾をパタパタさせているラグナードと共に、急遽、魔導具屋さんへと行くことになったのでした。





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