第128話 延寿の樹の葉



 三回目からは近くで空気が動いたのを感知されたらしく、私達の接近を気づかれた。隠密行動はここまでか……。


 動き出そうとしているのか、地中からは触手がゆっくりと這い出てきている。


 ただ、幸いなことにフォレスト・ファンガスの攻撃のタイミングは分かりやすいはずなんだよね。

 胞子や体液の白い汁を飛ばす前に、頭というか傘の部分を一旦後ろに反らせる動作をし、その反動で勢いをつけて飛距離を稼ぐみたいだから。


 今回は生まれたてというか、魔物化した直後に来れた事もあって余計に動きが鈍く、スローモーションを見ているようだったので助かった。


 この群生地にいる魔物化した茸は元々数が少なくて、三人で一斉に狩っていたため残りは僅かだ。

 見つかるのを気にする必要がなくなったので、スピード重視でいくことにする。


 反撃してくる前にと攻撃し、三人で倒しきった。ラグナード以外は失敗した時もあって、少し汁が掛かってしまったけどね。


 でもすぐに聖魔法の『治療』で治したので、かぶれて赤くなった皮膚も即座にきれいになった。よかった。


 最終的には、合わせて十一個を手に入れる事が出来たよ。初めてにしては中々の成果です。




 早速、手袋をしたまま慎重に拾い上げてみると、掌に乗るほど小さいのにずっしりと重たい。たっぷりとミルクを含んでいる証拠だ。これ一つで小さなカップ一杯分になるんだとか。


 採れたてを搾り取り、加熱処理することでかぶれの原因となる毒素も消える。そうして加工されたミルクは、原液のままでは濃すぎるのでお湯などで薄めてから飲むんだけど、美味しい上に様々な効能もあって栄養価も高い為、高値で取引されるらしい。


 特に、傷のないものほど効能も高いからいい値が付くんだとか……。普通は五日程で劣化が始まるのに、無傷だとその倍くらいは鮮度が保たれ効能も落ちないからって。


 今回は、殆どの茸がきれいな状態で採取出来たと思う。ふふっ、換金するのが今から楽しみです!




 期待は高まるけど、その前に一つ問題が……。


 どうすれば、汁気が多くて衝撃にも弱い乳茸を損ねず町まで運んで行けるか……。まだ来たばかりだし、あと半日程は討伐に採取にとアクティブに動くことになる。緩衝材のようなものが何かあればいいんだけど。


「それなら、これに入れてけばいい」


「あ、やわらかい……」


「本当だ。手触りもいいね」


 迷っていたら、ラグナードがフワフワの布とよく鞣してある革製の袋を出してくれた。


 なるほど、こうゆう小物も必要になってくるのか……勉強になります。


「ありがとう」


「うん。一つずつ包んでおけば破損を防げるからな」


「はい、分かりました」


 さっそくお借りして、傷つかないように丁寧にくるみ込んでから、重ならないようにして革袋に仕舞っていった。


 後は背負子の一番上に乗せ、なるべく揺らさないよう注意して運べばいいよね。







 次に、最初の目的である薬樹、延寿の樹の葉を採る事に……。


 水光茸スイコウダケ、三つ葉の花、魔石と共にパワーポーションの原料となる素材らしい。


 成木だと10m程の高さになる常緑樹で、私の感覚では十分大きい方だと思うんだけど、この世界の樹木は全体的に巨大だから低木扱いになるみたい。

 100m級ので普通サイズなんだよ……。ここにいると、何だか自分達が小人になっちゃったかのような気分になるなぁ。


 薄暗い場所でも育つために、乱立する巨木群の隙間に紛れ込んでしまうので、ラグナードが案内してくれなければ発見が難しかっただろう。


 太陽の光が届きにくい中、垂れ桜のように垂れ下がった枝についた可愛いハート型の葉っぱは、僅かな光を反射し淡く輝いている。

 葉色は、緑から朱金までのグラデーションになっていて、まるで紅葉し初めたばかりの樹みたいな見た目だけど、色彩によって効能が変わったりするんだろうか?


 疑問を解消するためにもさっそく『鑑定』してみると……。




【 延寿の木の葉:薬樹葉


 効能:HP回復効果 持久力回復効果


 可食:生食不可

    熱処理をすれば可能だが、苦味が強い

    

 採取:魔素を溜め込み、朱金色に変化した葉を採る

    樹全体に毒素を持ち、触ると危険

    僅かな刺激を与えるだけで、葉を落として

    攻撃してくるため注意 】




 となっていた。やっぱり葉の色には意味があったらしい。


「朱金色の葉を探せばいいんだね。続きは……って毒持ちだから接触も僅かな刺激も危険で駄目って……えっ?」 


「うんうん、そうなんだよな」


「……それは難しそうです。僅かな刺激も駄目っていうと、樹から直接葉っぱを採るときの振動でもいけないってことなんでしょうか? それに何かの拍子で、頭上に葉を落とされでもしたら……」


「確かに、危険だよね。専用の道具が必要なのかな」


「心配しなくても大丈夫だ。今から教えるから。分かってしまえば案外簡単な事なんだよ」


「そうなんですか?」


「ああ。まずはここから少し離れようか」


「うん、分かったよ」


「了解です」




 数十歩程離れたところでラグナードが足を止め、採取方法を説明してくれた。


「無理に採ろうと考えなくていいんだ。刺激を与えると葉っぱを落とす特徴があるんだから、単純にそれを利用して刺激してやればいい」


「えっ?」


「……あっ、そうか」


「うん。後は落ちてきた葉を拾うだけでいいんだ」


「なるほどぉ。だからここまで離れたんですね」


「そうだ。僅かだが風もあるし、この葉は広範囲に舞い散り安いからな」




 刺激するのは何でもいいということなので、その辺に落ちていた石を拾って投げてみることに。


 距離的にはざっと見て、野球のピッチャーマウンドからホームベースまでくらいはありそうかな? 結構遠いな……。


 ラグナードの話では、軽く一当てするだけで十分とのことなので、威力よりも精度が求められる。今回は『投擲』スキルを持つリノに、挑戦して貰う事に決まった。


「頑張りますっ。じゃあ行きますよ~、えい!」


 スキルを発動させて能力強化した上で、延寿の木に向かって小石を投擲する。


『聴覚強化』された耳は、微かな風切り音を聞き取った。


 コツン……と小さな音を立てて、木の幹に小石が当たる。


 次の瞬間、ブワッと樹全体が震え、葉を落とし始めた……成功だ。


「よしっ。後は葉が落ちきるまで待ってから拾いにいこう」


「「了解!!」」





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る