第122話 とっておきの食材で



 ――シルエラさんと一緒に作った料理は三品。



 まずはパスタを使った料理から。小麦の生産が少ないため手に入りにくいんだけど、シルエラさんが一緒に食べる時用にとあらかじめ用意してくれていましたっ。うれしい。

 白チーズ茸と塩漬け肉を細かく刻んで入れ、茸が熱で溶けてカルボナーラ風の濃厚なソースになるのを待ってからパスタに絡める。仕上げに、オリジナルのスパイスをパラリと振りかけておく。


 次に、魔物肉を数種類の香草や薬草で煮込んだスープを作った。完成間近の火から下ろす少し前のところで、大胆にぶつ切りにした白チーズ茸をたっぷりと入れる。

 味と共に食感も楽しめるようにと工夫された調理方法だけど、タイミングがとっても難しいらしい。それを、絶妙にコントロールして仕上げてくれた。


 もう一品は白チーズ茸を魔法で乾燥させてから、カリカリになるまで焼き上げるという、スナック菓子風のものだった。

 簡単そうに見えて、実はこのシンプルな一品も難しかった……。結局上手く作れなくて、全部シルエラさん作のになっちゃいました。


 最後に、香草入りの白チーズ茸のディップの作り方も教えて貰った。これもまた火加減が難しかったけど、そこさえ注意してじっくりと熱を加えていけば、ふんわりといい感じになるまで茸を溶かすのに成功したよ。


 これで、パンの実やスティック状に切った色とりどりの野菜、先程作ったスナック菓子風の白チーズ茸にも合う、万能のディップソースが出来上がった。う~ん美味しそうっ。今からつけて食べるのが楽しみです!




 シルエラさんと二人で、食卓いっぱいに出来立ての料理を並べてから、向かい合わせに座る。

 昼食にするには豪華なお料理の数々だけど、そのどれもが食欲を刺激するいい香りを放っていた。


「ローザがお手伝いしてくれたから、あっという間に出来たわね。ありがとう」


「いえいえ、そんな。こちらこそ美味しそうなレシピを教えていただけてうれしいです、シルエラさん」


「ふふっ、そう? よかったわ。では、いただきましょうか」


「はい、いただきます!」


 全力で魔力を使って修行したので、お腹がペコペコなんですよね。堪らずにパクパクと食べてしまう。


 どれも美味しかったけど、その中でも魔物肉のスープが絶品で、ついついおかわりしちゃった。


 シルエラさんも『料理』スキルをお持ちなので、美味しく出来上がるのは当然なんでしょうけど、それにしても美味しい。

 最適にブレンドされた香草のブーケを入れ香り高く風味付けしたスープ。

 肉の臭みや脂っぽさを消し、おまけに少し固かった魔物肉を柔らかな肉質へと変えてくれている。


 後味も口当たり良く仕上がっていた。


 薬草も一緒に入れたはずなのに変な苦味もなく、辛草がピリリと効いていて全体の味を引き締め役割を果たしていた。それが、より秀逸な一品にしていてよかった。


 最後にぶつ切りにして入れた白チーズ茸も半分くらいほどよくスープに溶けだしていて、ふわふわでとろとろの食感を楽しめたし。


  複雑に味が絡み合った濃厚なスープなのに、しつこさを感じさせない絶妙な仕上がりでした。もう大満足です!




 そして毎度のことながら、この世界の料理って、使う食材や『料理』スキルのレベルによっては食後にすぐ感じ取れるほどの異変が身体に起きるんだよね。


 もちろんいい意味でだけど。気力、体力、魔力なんかがポーションほどじゃないにしろ、時間は掛かるけどほぼ全回復しちゃうものまである。

 勿論、そこには『料理』スキルのレベルの高さが関係してくるんだけどね。高レベルの料理人が作ったもの程、回復率や回復速度が上がる。

 おかげでシルエラが料理したものだと、土魔法の習得で失った魔力は全部、補充されたよね。すごくないですか、これ? 


 前の世界にも、栄養価が高く体に良い効能があると言う食材や健康食品なんかはあったけど、ここまでの即効性はなかったし効果も万人に効くっていう訳じゃなかった。

 薬膳料理って言葉はどちらの世界にもあるけど、この世界のは本当に読んで字のごとく、薬の効能が実感できるお膳なんだよね。


 料理でさえこの効き目なんだから、多種多様なポーションを作ることができて出回るのも納得できる。

 ポーションの材料についてはそれほど詳しくはないけど、薬草や薬樹からだけじゃなく、マジックキノコや魔石などを使用し作成されているのは知っている。いずれも使った瞬間に効果があるんだからすごいよね。


 一応、私も含めたパーティーメンバーはありがたいことに、今のところ怪我に関してはレベル2の聖魔法で治せる程度で済んでいるので、ポーションの出番は少ない。

 でも即効性があるので、魔力を回復させる為にお世話になっています。万一の時のためにいつも常備しているけど、すっごくいいお値段がするから、お財布に優しくないけどねっ。







 食後のお茶を飲みながら、エルフなのに、エルフの事を何も知らないに等しい私に、シルエラさんが色々と話してくれる。


 ……ほら、私って、気が付いた時は知らない森の中に一人でいて、記憶を失っていたと言うことになってるじゃない?

 本当は知っての通り、微妙に違うんだけどね……異世界から来ただっていう辺りが。


 だから心配してくれて、機会がある毎にこうしてさりげなく教えてくれてるんだ。ありがたいよね。




 今回はちょうどいい機会だからと魔樹を含め、エルフという種族がどう森と向き合ってきたのかについての話になった。


 人族側からだけの偏った知識じゃなく、エルフの側から見たトレント全般についてや、シルエラさんが魔樹の討伐に参加しなかった訳なんかもね。


「ちゃんと理由があるのよ……」


 魔樹の討伐に消極的だった理由。それは何も、人族に対する過去の遺恨からというだけじゃなかった。




「もちろんそれも全くないとは言わないけど、根本的に人族とエルフ族では森に対する考え方が全く違うの。人族は森をとても恐れているのよ、私達からすると過剰なくらいにね」



 大陸全体を覆う森との接し方について、積極的に排除しようとする人族と、共存を望むエルフ族を含めた長寿種族の間には、そうした根深い対立があるらしい……。


「あれは必要悪でもあるというのが私達の考え方よ。自分たちにとって脅威だからといって、全てを排除し尽くすのは早計だわ。きちんと森の声に耳を傾けなくてはいけないの」



 例えばこの間討伐した蔓状の魔樹も、森が健康でいるために必要なんだという。

 繁殖力が旺盛過ぎる森は、尽きることなく豊かな恵みをもたらしてくれるけれど、成長が早すぎるという問題がある。

 何もせずに放っておくと、樹木が必要以上に密集しすぎることになるし、森自体に悪影響が出てしまう。


「確かに、困ったものよね。でも、その状態を改善してくれるトレントもいるのよ」


 その内の一つが、蔓状の魔樹なんだという。


 暗い場所を好む特徴があるため、密集しすぎて薄暗くなった場所に好んで根を下ろし、周囲から集められるだけの魔素や魔力を貪欲に集める。


 草藪を枯らし、増えすぎた樹木を減らし、森の中に開けた場所をつくって陽の光を入れる。


 魔樹にその意図があるのかどうかはともかく、結果的に間引きをして風通し良く健康な森へと再生してくれているんだ……。




 それにもう一つ、森にとっての重要な役割を果たしていた。


 ――森で生きる、あらゆる生命体の魔物化への阻止だ。


 息苦しいほど木々が密集してしまった不健康な森では、魔素は瘴気に変化しやすい。

 瘴気が溢れていくほど大気が淀み、大気中や地中にある魔素もいつも以上に汚染されてしまう。

 そうした環境下においては、森の中のあらゆるものが魔物化しやすくなってしまい危険なんだ。


 元々、この世界に生きているものは全て、たとえ普通の木々や草、野生動物であっても魔力を持っているのだから、魔物を生み出す元になる瘴気を浴びて魔樹や魔物に変化しないわけがない。


 それを、未然に防いでいるんだと教えてくれた。


 間引きを終えた蔓状の魔樹は、陽の光が入って明るくなった所を嫌い、自らの好みである暗く、魔素や魔力が集まる場所を探して移動していく……。そしてまた、別の場所で濃すぎる魔素を取り込み、間引きを繰り返す。




 ――はぁ、なるほど。そうだったのかぁ。



 どうやらただ討伐すればいいってものじゃない、らしい……。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る