第66話 考察 



 有意義な夕食の時間を過ごした後は、二階にある二人部屋に入った。


 昨日私が使っていた可愛い花柄の部屋と比べると少しだけ大きいけど、ベッドや家具が二人分あるので、全体的な印象としてはちょっと手狭に感じられるかな?


 でも、白い壁紙を使い家具をベージュの濃淡で揃えることで、部屋を明るくする工夫がされていて落ち着く色合いになっているし、圧迫感みたいなものも感じられない。


「うわぁっ、綺麗な部屋ですねぇ。清潔ですし、バスやトイレまでついてるんですか!」


「長期滞在者用の部屋は全部そうみたいね。私も昨日から利用しているけど快適だよ」


「いいですねぇ。ベットもフワフワですし、今日はよく寝れそうです」


 リノが泊まっていた所は一泊45シクルだったらしく、部屋もベッド以外はサイドテーブルだけでいっぱいいっぱいの狭さだったとか。ちなみにトイレは一階のみ、お風呂は無かったみたい。


 お風呂がないのは村で慣れてるので別によかったらしいけど、リノ的には食事が悲惨だったそう。

 朝夕二食付きではあるけど、何しろ量が少ない。二食共、パンの実と具の少ないスープのみで、不味くないのだけが救いだったとか。


 食事の良し悪しは、食べないと動けなくなる彼女にとっては死活問題だもんね。

 この宿は一泊のお値段が少し割高なだけあって、私だとお腹いっぱいになるくらいの食事が出る。


 それでも彼女にとっては足りないだろうけど、二人部屋だと宿泊費も押さえられるしその分食費にまわせるから、前の宿よりずっとよくなったみたいでうれしそうだった。




 今日この後の予定としては、私がドライフルーツ作りをしている間に、彼女には基本魔法教本を読んで貰い、基本魔法の習得を目指して練習してもらう事になっている。

 教本の貸出期間は今日を合わせてあと九日間なので、その間に残り三つのスキルを身につけるのが目標だ。


 文字自体は村にいた時、将来を心配してくれていた神父様から習っていて読めるそうなので、後は魔法書に書いてある文字を文章として理解出来るかどうかなんだけど……。




 シルエラさん曰く、魔法書は、総魔力量がその魔法を使えるレベルに達してないと読み解くことさえ出来ないとの事だったので確かめる必要があった。



 そこで今朝彼女に、北の森に行く前の時間を利用して、事前に教本を見て貰ったんだ。


 予想外に『幸運』スキルの件があって時間がなくなり、少し読むだけになっちゃったんだけどね。

 その時は、「読めるけどずっと見続けているとクラクラします」って言っていたから、若干まだ、読み解くには魔力が足りないみたいだった。


 今日は初めて、弱いとはいえ五十体以上の魔物討伐をし、たぶんだけどパーソナルレベルも上がり総魔力量も微量ながら増えているはずなので、今は解読する為の魔力も足りてると思いたいっ。


 二人してドキドキしながら覗き込み、確認してみると……。


「あぁ、普通に読めますっ、クラクラしません!」


「おおっ、やったね! 検証成功なんじゃない?」


「はいっ、これもローザにラストアタックを優先的に譲ってもらったおかげです。ありがとうございました」


「うんうん、それが今日の目的だったんだしね。結果が出てよかったっ」


「私もホッとしました。それに、こんなに体調が良かったのって記憶にないんです。これなら魔法の練習をいつもより多めに出来そうで……うれしいですっ」


 ずっとあったという、突然、力が抜けるような感覚も薄れていってるみたい。


 討伐に採取にと動き回り、普段なら倒れていてもおかしくないのに一度もなかった。

 何故かと考えてみたところ、今日初めて一日中、支援魔法と聖魔法を受け続けていたからじゃないかと思ったとの事。


 特に、何度も聖魔法の『浄化』したのがよかったみたいで、昨日よりも体がすごく軽くなったのが体感出来たんだとか。

 主に戦闘や採取の汚れを落として臭いで魔物を寄せ付けない為にとこまめにやっていたんだけど、確かに掛けるたびに思いの外、身体の内側まですっきりして暖かかったと言ってたもんね。


 支援魔法も途中で倒れてしまう心配もあって、用心のために頻繁に重ね掛けしていたのがいい結果になったみたい、よかった!


 でもこれで、この二つを並行して続けていくのが早く治る可能性が高まるってことが実証できたんじゃないかな?

 聖魔法で治療をしつつ支援魔法で補強し、魔物を倒して階位を上げ、体内魔力の底上げをするという……。




「活動魔力がたぶん少ないんだろうなっていうのは生まれつきじゃなくて、原因不明なんだったよね? 確か、五才の時だっけ? う~ん? なんかその年、昆虫かなにかに刺されて湿疹が出来ただとか、いつもと変わったもの食べて吐いたとか、そういうのなかった?」


「そうですね……親からはそういうことは聞いていなかったかと。――ただ、その年は長雨の影響で食べ物が少なかったそうです。飢饉まではいかなかったみたいですけど。なので、普段と違うものは、何か食べてしまったかもしれません。小さい頃から食べること自体は、とっても好きみたいでしたから」


「そうだったんだ……」 


 今のところ、『浄化』が一番効いてる事を考えると――もしかしたら、悪さしてる何かが体内にいて、それは、寄生虫みたいなものなのかもしれない。




 ――例えば、なんだけど……。


 リノが五才の時、食糧難で食べ物がなかった時期があった事から考えて、小さな子が飢餓感に抗えずに、親の目を盗んで何かを食べたのかもしれない。そう、兄弟が食べなかった何かを。


 そして、その何かが体に寄生して、魔力を吸収する性質がある、魔物まではいかなくとも悪い魔素を持ったものが入り込んだのかもしれない。『治療』よりも『浄化』の方が効いているみたいだし。


 で、体に入り込んだ時期が、元々魔力の少ない幼少期で、食糧難によって免疫力が落ちている時と重なってしまったこともあり寄生を排除できず、活動魔力まで持って行かれてしまう結果に。


 焦った身体が魔力を補填しようと活動魔力の奪い合いをし、足りない魔力を食べ物で補おうとして食欲が暴走。止まらなくなってしまったんじゃないかなぁ?




 と、いうようなことを推察してリノに話してみた。


「確かにっ。今までで一番、その仮説が可能性あると思います」


 村でも出来る範囲で治療はしていた。人より魔力総量が少ないのが原因ではといわれてからは、魔力が多い食べ物をたくさん食べるようにしたけどあまり効果がなく、今回一番効果があると実感できた聖魔法の『浄化』は、村には使い手がいなくて試したことはなかったから。


 空腹感はいままで通りっぽいけど、食べ物をみると見境が無くなるというか、理性でコントロール出来ないような飢餓感が消えつつある。


 この強迫観念のような強い飢えが常にあって、すごく苦しかったらしい。確かに一緒に食事をしていると、そっちのも欲しいっていうギラギラした視線を感じたよね。あれは自分でもどうしようもなかったのか……それは辛いね。想像以上に深刻だった。




 今は、食べる事を純粋に楽しめるようになってきた事がうれしいと、すっごく喜んでくれたんだ。これまでと違って、美味しく味わって食事が出来るようになったって。それが新鮮でつい食べ過ぎちゃうらしい。


 うん……最後の方でそこはかとなく食費とかが不安になる言葉を聞いたけど、それを除けばこれはもう完治に向かっていると言っていいんじゃないかなっ?


 このまま続ければきっと、魔力も少しずつ増やしていけるし魔法も使える様になるはず!





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