第63話 トゲトゲベリー
◇ ◇ ◇
――今回採取しようとしているのは、トゲトゲベリーの実。
今いる場所から向かう道筋にある蔓性の小低木で、やたらと多い大きめのトゲさえ除けば野苺に似ている。
リノ的には、色んな果物の収穫を楽しみにしてただろうし私もそのつもりだったんだけど、この森にはウルルの樹みたいに比較的おとなしく収穫させてくれる果樹が、あんまりないんだよね。
そのウルルの樹も、実がなる時期はスモール・ワーム付きみたいだし。以前、冒険者ギルドの受付に討伐したのを持っていった時、エドさんが教えてくれたんだ。この時期は、この実に一番群がってる事が多いんだって。
もう大丈夫と元気にしているものの、さっき木登りで怖い思いをしたばかりだから、今日はもう高い樹に登るのはやめておきたいし。
ポポの樹なんかだと、登らなきゃいけなわ採取しようとすると枝に逃げられるわで難易度高めだし、挑戦しない方がいいでしょ? 慣れればアトラクション的な面白さがあるんだけどさ。
色々考えた結果、ここから近い所で木登りせず、安全に収穫できる小さめの果実と言ったら、やっぱりトゲトゲベリーが一番いいと思ったんだよね。
私みたいにドライフルーツにしてもいいし、ジャムにしても美味しいらしいし。ちなみに、ジャムにするには、お砂糖は高いから、代わりに森で採れる甘草を入れて、弱火でコトコト煮詰めるといい感じに仕上がるって、宿屋の女将さんが言ってた。是非、一度作ってみたい。
というようなことを、私が以前、採取した方法と併せて話したところ、賛成してくれたので、その場所へと向かうことにした。
『索敵』スキルで魔物を回避して、『マップ作成』のマーキング通り進めば、順調にトゲトゲベリーのある所まで来れた。近いところにあって良かったよ。
「うわぁ、いっぱいなってますねぇ。美味しそう!」
「そうだね。でも、それ以上近づくとトゲを飛ばしてくるから。ここでちょっと待ってて」
「わかりましたっ。じゃあ先に採取の準備をしときますね」
「うん、お願い」
――前回、『鑑定』してるんだけど、念のためもう一度……。
【 トゲトゲベリー
効能:身体強壮作用
可食:果皮ごと可能 生食も可
ドライフルーツやジャムにすると栄養価が高まる
採取:黄色く熟した実を採る
果実を採ろうと近づくとトゲを飛ばして攻撃してくる
一日経てばすぐトゲが復活するので注意 】
となっていて、初撃のトゲさえ防げば後は採り放題ってことなんだけど……うわぁっ、本当にもう復活している!
さすがというか確認してみたら、この前来た時抜け落ちたトゲが完全復活していたのが見てとれた。
『鑑定』情報で「一日経てばすぐトゲが復活するので注意」と知ってても、やっぱり自分の目で直接見るとびっくりするから。
成長早すぎだよ! さすが異世界、これも立派に不思議植物なんだなぁ。
まず、『索敵』で周囲に魔物がいないかを確認しておく。
前回は水魔法を使ったけど、今回は新たに習得した風魔法でやってみることに……。
少ない魔力で発動させ、果実まで落としてしまわないよう手加減してっと。段々とリノとの共闘の成果が出てきて、威力を調整出来るようになり、使い勝手が良くなってきたんだ。
『
フワサァッワサァッと、風の弾丸で空気が動いて軽く葉っぱを揺らす。
トゲトゲ攻撃を誘発するためなので、これくらいでいい。
茂みを揺らされたトゲトゲベリーは、何かがが近づいてきたと勘違いして、シュパパパッと、次々トゲを飛ばしてくる。
その大きさは2~3cmほどで、小さいうえに数が多く、近くにいると全部を防ぎきるのは難しい。
確認したら飛距離は1~2mほどあって、殺傷力はそれほど無いとはいえ当たりどころが悪ければ怪我ぐらいするし……例えば眼球とかね、当たると失明しそうで怖いからっ。
魔法があると、遠距離から攻撃できてトゲ問題は一気に解決して比較的簡単にベリーを手に入れられるし、とても便利なんだよね。
その辺に落ちてる棒とかで突っついてみたり、投擲したりとかして揺らしてみてもいいと思ったんだけど、やっぱりこっちの方が安全だから……。
トゲトゲ攻撃が落ち着いたところで、二人で実を採取していく。
帰りのことを考えて、小さめの袋一つに詰め込める分だけにしといた。
ここでもリノさんは素晴らしい食欲を発揮して、採っては食べ、食べては採りを繰り返し、食べ頃のベリーはあらかた食べ尽くして満足そうにしてた。ヨカッタネ。
――尚、水分の多いウルルの実や、小さくてもすごい量のベリーをいっぱい食べたリノは、何度もトイレに行くはめになり……これからは森の中で大量の果物を食べるにはやめると、泣く泣く決心したらしい。
あれだけ食べれば予測がついたけど、まあ、そうなるよね……。
うん、私もその方がいいと思うよ!
帰り道、街道に出るまではもういいってほど、ポイズンラットの群れと遭遇しまくった。
本当、どこからでも出てくるし、一匹見つけたら三十匹は居るみたいな某G並みの多さだったよ……。
『索敵』しつつ、忍び足でこそこそと移動してたんだけど、それでもこの遭遇率の高さで避けきれず、私も積極的に参加し、二人で共闘して倒していった。
後始末の為に、火魔法の『小爆発』と『消火』のコラボをフル活動させたので、ちょっと疲れちゃったかな。今日はよく魔法を使ったから魔力残量がヤバいかも。
少しヒヤッとする場面もあったけど何とかかすり傷程度で無事に切り抜け、もうすぐ街道に出るところまで歩いてきたとき、たぶん冒険者なのかなぁ、『索敵』スキルに三人引っ掛かった。
直接は会わなかったけど、ここを拠点にしている冒険者はいるってことみたい。
面倒な事にならないうちにと、さっさとその場所から離れることにした。
採取物などが多くて早めに切り上げたこともあり、今日も冒険者ギルドが混み合う前に町に着けたので、すぐに精算が終わった。
本日の稼ぎは三等分して、二人の取り分とパーティー費用とに分け、さっそく装備を整えに鍛冶屋へ。ブルボさんに、リノの籠手を見繕ってもらう。
安全の為にもできるだけ良いものが欲しかったので、彼女は自分の取り分からもいくらか足して、指先から肘あたりまで覆うタイプのを買っていた。
「籠手が手に入ったのはとっても嬉しいんですけど、あっという間にまたお金がなくなっちゃいました……」
「頑張って稼ぐのに、全然、手元に残ってくれないよね」
「本当そうですよ…… 今日こそはローザと同じ宿に泊まりたかったのに、その宿代が足りないです。うぅっ」
「で、でも、とりあえず食費は抑えられるはずだからっ。果物もいっぱいだし、ウォークバードのお肉あるし……宿で料理、しよっか?」
「行きましょう!」
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