第62話 午前中の成果



 魔物がいっぱいいる森の中で、安全な場所を探すのは難しい。


 人が隠れられるような洞窟とか木の洞とか、都合のいい所はまずないし、大きな樹に背後だけでも守って貰うか、見通しのきく少し開けた場所を探すくらいしか思いつかない。


 今までは、私がエルフで木登りが得意だから、易々と魔物が登って来れないような高木の上でいつも休んでいたけど、今回はリノもいるし先程怖い思いをしたばかりだしで、どうするか相談してみた。


 すると、よく分からないので今まで通りの方法で良いと言ってくれたので、彼女でも安心して登れそうな高さの木を探すことにした。


『索敵』しつつ、周囲を見回しながら歩いていると、次の採取場所に向かう道筋にちょうどいい木があり、これなら大丈夫、登れるというので、お昼はその木の上で休憩することに決めた。




 町を出てくる前に、屋台で仕入れた昼食を食べる。


 串焼き肉とパンの実、それにちょっとだけウルルの実を添えた、一人で食べてた時と変わらない、いつも通りの食事。


 なのに、二人で一緒に食べたほうがずっと美味しいと感じる。何かいいなぁ、こういう時間。



 ほんわかした空気に和んでいると、リノが話しかけてきた。


「午前中の成果、どう思います? 結構、色々と討伐も採取も出来ましたよね?」


 まずは討伐だけど、戦闘は全部で五回あって、ホーンラビットが二体、ポイズンラットが九体、スモール・ワームが三十七体となってる。


 十級の冒険者同士が組んだパーティーとしては、まずまずの初成果だと思う。少なくとも、私一人で活動していたときより多い結果になっているし。


「そうだね。討伐だと特に、ホーンラビットを二体倒せたのがよかったと思う。大きな個体だったからいい値段で売れるだろうし。そのまま丸ごと買取にだすっていうことでいいよね?」


「うううぅっ……はいぃ。お金、いっぱい要りますもんね。籠手だけでも早目に買わないと戦闘中危険ですし。分かってはいるんですけど……でも初討伐のやつ、食べてみたかったなぁ。ホーンラビットのお肉、ジューシーで旨味があっていっくらでも食べれるくらい美味しいんですよねぇ、じゅるりっ」


 ――そういえば、初めて会った時に渡したお肉も、スライム講習会後の串焼肉も、さっき食べたのも、同じ屋台のホーンラビットの肉だったし、確かにいっくらでも食べれてるね。好物なのかな? いやでも、それ以外のもたくさん食べてるから参考にならないか。


「そりゃ私も残念だけど、二人ともお金も装備もないから仕方ないよ。数日間一緒に頑張れば今度こそ食べれる……かもしれない、から!」


「あうぅっ、お金がないって、辛いですね。 目の前にこんなに美味しそうなのがあるのに……じゅるりっ。これは売り物で、食べちゃダメなやつなんですもんねぇ……」


「う、うん。でもほら、ウォークバードがあるからっ。これなら自分たちで食べてもいいからさ。前にリノに渡したのと同じやつだよ。結構美味しいお肉だったでしょ?」


「うおおっ、あの時のお肉がそうなんですか! このウォークバード、村では見たことない種類ですけど、確かにとってもいいお味ですぐに全部食べきっちゃったんですよね。 ホーンラビットよりは少し固かったですけど、噛めば噛むほど旨味がジュワーっと出てきて! もう一度食べれるの、楽しみです!」


 よしよし、いい感じにこっちへ興味が移ったみたいだね、よかった。



 ――しっかり別の、買取価格が安いお肉を確保しておいて。



 リノがウルルの実を採っている間、樹の下に近寄って来ていたウォークバードがいたので、一匹だけ狩っておいたんだよね……彼女の胃袋事情を考えると絶対必要になると思って。


 魔物さえいなければ、頑張って食べたいのを我慢しているリノに、この場で調理した焼きたての熱々を食べさせてあげられるんだけど、森の中ではおいしそうな匂いが漂っちゃうから避けたいし。


 一旦街道沿いに出ることも考えたけど、魔法の補助があるとはいえ先程の事もあって精神的には疲れてるだろうし、休憩を取ってない今の状態でそこまで移動するのは危険だから辞めておいた。


  私一人ならスキルを使って切り抜けられるけど、リノと一緒だとそこに行くまでに出てくる魔物を全て、回避するのは難しいっていうのもあるしね。


 なので、下処理だけここでしといて、早目に帰って無料で使える宿の炊事場で調理して食べよう、という事になった。




「採取は、ウルルの実だけですよね」


「うん、そうだね。森の中だとどうしても魔物討伐に時間を取られるから、たくさんの種類を採りたくても難しいかも?」


「確かに次々と魔物出て来ますもんね。ローザの『索敵』スキルがなかったら、もっと戦闘も多かったでしょうし。じゃあ、このくらいのペースで丁度いいんでしょうか?」


「だと思うよ。それにウルルの実は一個一個の実が大きいから大きな袋が三つ、一杯になったしね」


「総数は少ないんですけどね。これで単価が高いとうれしいんですけど、採取は基本的にお安いですよね?」


「残念ながらね」


 実の状態によって一個で1~3シクルとなり、買取価格だけみればまあまあいけてるんだけど、メロンくらいの大きさがあって重いから数を運べない。


 安全な採取中心に活動するなら東の草原に行くしかないし、こんなもんだと思う。




 ウルルの樹にはスモール・ワームが群がっていたから、食べられてそんなに残ってないと思っていたのに、嬉々として集めてくれた誰かさんのおかげで、結構な量のキレイな状態の実が採取できている。


 ただ、このままだと背負子を圧迫するので、自分たち用の実だけ、魔法でちょっと水分を抜き取って軽くしとこう。


「じゃあ、採ってきた実の仕分けだけしとこっか。傷付いてるのはドライフルーツ用にして、少し下処理しとこうと思う」


「あ、それなら仕分けと下処理は私にやらせてください。ローザは魔法処理の方をお願いしてもいいですか?」


「うん、了解」


 昼食後、食休みをしている時間を使って、途中まで魔法で処理していく。本格的にドライフルーツを作るには時間も魔力も必要だから軽めにだけどね。それでも三つあった袋を半分まで減らせたのでよかった。




 午前中の成果を一通り整理し終えたので、午後からのことを話し合う。


 スモール・ワームとホーンラビット、ウルルの実を乗せた二人の背負子は、だいぶ重くなってきたし、そんなにスペースも残ってない。


 町までの帰り道もけっこう距離があるからまた、魔物に遭遇するかもしれないし、あと一種類だけ、ここから近い場所にある小さな種類の果物の採取をしたら、少し早いけど今日は帰ることに決めた。





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