第18話 基本は常設依頼で 前編
最後に、ギルド証に不備がないかをチェックすることに……。
「それでは左手のギルド証に魔力を少し流してください。先程お伺いした、お名前、種族、特性の他に、ギルドの等級と昇格までのポイントなどが表示された半透明のスクリーンが浮かび上がってくると思います。確認していただけますか?」
おおっ、なんかまたこれも異世界っぽいね!
ワクワクしながら教えられた通りギルド証のマークに魔力を流すと、手の甲の上にスマートフォン程の小さなスクリーンが立ち上がってきた。
画面には次のように表示されてる。
︗︗︗︗︗︗︗︗︗︗
名前 ローザ
種族 エルフ
特性 魔術
ランク 十級
昇級P 0
違反数 0
登録日 四の月、四の日
ボトルゴード支部発行
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……うん、今日が何日か判明したのは知りたかったしうれしいけど、でもこの登録日、不吉じゃないですか?
例の白い部屋で渡されたスキルポイントも44ポイントだったし死を連想する感じで嫌なんですけど。
「大丈夫なようですね。その表示が身分証になりますので、町を出るときには必ず門番に示してください。通行税が免除になります」
なるほど、ギルド証の内容は他の人にも可視化できるってことなんだね。
でもこれ、魔方陣魔法が得意な人だったら偽造したりとか出来そうじゃない?
おじさ、お兄さんにその辺りを聞いてみると、詳しいことは言えないが対策はされているとのこと。
それに最近では、どの町の門の上にも設置されつつある、「真実の鐘」が鳴り響くので偽造は益々不可能になりつつあるらしい。
ギルド証の偽装に限らず、犯罪者を弾く機能も持った便利なマジックアイテムなんだとか。
なるほどなるほど。だから入門チェックが甘くても大丈夫だったんだ。
あの門の上にあった大きな鐘はそういう意味がある魔道具なんだね。でもこれほど重要なアイテムなら『異世界知識』にあってもいいのになぁ? なかったのは最新の情報だからなんだろうか? それともこれは基本の知識とは扱わないのかな? ギルド証の発行に魔方陣魔法や聖魔水晶が使われてるのも今日初めて知ったし。
『異世界知識』って便利だけど頼りすぎるのは良くないかも。ちょっと欠如しているところがあるみたいです。
続けて、昇級や違反数についても説明を受ける。
九級に昇級するのに必要なポイントには、100ポイント。
違反数は依頼に失敗して違約金を支払えない時や、報告義務を怠った時につき、10ポイントを越えると降級処分か脱退処分の対象になるとか。
信用第一らしく、そこら辺は思ってたよりもずっと厳しい。
「それからギルド会員の会費を毎月、銀貨1枚お支払いいただくと、その月の解体料金が無料になるサービスをしています」
へえ、それいいかも。
大体月額一万円でしてくれるってことでしょ? 解体って思った以上に時間が掛かるから。
小型の魔物であるホーンラビット一体捌くのに、ナイフがなかったせいもあると思うけど一時間は掛かったし。
『解体』スキルも持ってないし、スプラッタ苦手だし、そうゆうのを考えると安いよね。
「さらに、文字の読める皆さんにはこちらの討伐・採取常設依頼一覧表を、本来なら銅貨5枚で販売するところ、無料でお付けします!」
お兄さん(お名前はエドさんだそうです)が見せてくれたのは小冊子。
依頼期間や金額などが書かれたもので、何枚もある。様々な種類の依頼があって、これなら仕事に困ることもなさそう。
この情報誌は毎月、月始めに一回更新して発行されるそうで、毎月の会費の支払に併せて受け取れるとの事。
「それに加えて、討伐・採取に必要になる、大きくて丈夫な作業用の革袋、これをどこよりもお安く、ギルド会員価格の銅貨5枚でお買い求めいただけます! さらに今なら、小さめの採取袋もひとつオマケにお付け出来ますが、いかがでしょうか!?」
……なんかエドさんキャラ変わってきてませんか?
テレビショッピングのお兄さんにしか見えなくなってきたんですけど。
でも、エドさんの軽快なトーク力にやられた訳じゃないけど、確かに会費を支払ったほうが色々お得なのは大変よく分かりました。
必要経費だし、ここは魔石の買取の査定と併せて精算をお願いすることにした。
冒険者ギルドの基本的な利用方法についても色々と説明を受ける。
特にこの討伐・採取常設依頼一覧表について……。
以前はギルド内の掲示板に依頼票が貼り出され、割りのいい依頼を求めて朝早くから並んでいたが、混雑もすごく揉め事も絶えなかったらしい。
ギルド職員たちもその被害を被り、各地のギルドで同じ問題が頻発し業務が滞るという悪循環が続いた為、やり方を一新し、支部毎の統計をとって常設依頼を増やすことにしたみたい。
この方針転換によって常設依頼は等級関係なく受けられるようになり、昇級のための強制依頼以外は冒険者がいつでも自由に選べるようになった。
一応、ギルド推薦の依頼難易度が書かれてはいるので、死にたくなければそれを目安にして下さいと言われるくらい。
この改革によって冒険者の死亡率は確実に上昇したけど、ギルドとしては説明責任は果たしているので、あくまで本人の自己責任に任せる方針らしい。
それに、以前より暴力沙汰が減り、安全で清潔になった冒険者ギルドには、これまで少なかった女性や若年層の加入が増加するといううれしい副産物があったので、全体としての冒険者の数は減っておらず、依頼をこなすのにも問題はないらしい。
その結果、日々確認した方が多少お得になるのが報償金の変動ぐらいになった。
ギルドの外にある掲示板に変更時だけ張り出されるけど、それも駆け出しで収入の少ない冒険者以外、ほとんど気にならないぐらいの差額だから、見ない人も多いんだとか。
もちろん今も以前のように、緊急の討伐・採取依頼は貼り出される。
ただ、報償金は高額でも依頼主や内容が厄介な場合が多く敬遠されがちで、結局ギルドからの指名になる事が多いみたい。
護衛任務はそもそも傭兵ギルドの仕事だからこっちにはほとんど回ってこないし。
そんな訳で、朝早くからギルドに行く必要がほぼなくなり、朝の暴力的な混雑が解消された。
ただ、町中の依頼は日雇いが多いから別。安全で確実に収入のある、堅実な依頼を受けたい場合はやっぱり取り合いになるからね。
今、朝早くからギルドに行くのはこういう人たちにみたい。
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