第6話 初戦闘!



 ◇  ◇  ◇




 おはようございます。


 嫌味なくらい爽やかな朝ですねっ。朝日が目にまぶしいぜちくしょ――!


 今日は昨日よりましな生活をしたい。


 うん、出来る気がする。あれよりダメにはなりようがないと思うし。


 ……低い目標だな――。


 まあでも何事もなく一晩、こんな人跡未踏の大自然の中で過ごせてよかったよ、本当。


 時折、カサカサと何かが這い回る音や不気味な遠吠えとかも聴こえてきて気が気じゃなかったし、その度に怖くてビクッてなってた。だからウトウトしたくらいであんまり寝れてないんだけど、それはもう仕方がないし。


 昨日は一応、街道から『索敵』の範囲内にずっといたけど、誰も通らなかったと思う。


 異世界人との初遭遇をちょっとは期待してたんだけど、そう上手くはいかないか。


 車輪の跡とかはあったから使われてないことはないと思うんだけどね。




 ――ではさっそく移動開始しますか。



 とりあえず太陽の位置からすると、街道は南北に走っているようなので、なんとなく勘で南に向かってみることにした。


 樹の上から確認した時に、南の方が少し緑が薄くなってて深い森がない気がしたので、人里があるかもと思って。


 今のところ何かを判断出来るだけの情報はないしね。『幸運』スキルを信じてこのまま行ってみます。


 でも、街道を直接歩くのは怖いからまだやめておく。


 エルフに限らず長寿種族を害する土地もあるらしいし、まだここがどこかも分からないからね。


 ばったり会って即戦闘っ、とかになったら目も当てられないし、用心して街道から少し離れたところを歩いて行こうと思う。




 そして一時間程、あらゆる生き物達からコソコソと隠れながら進んでいると、『索敵』に危険を知らせる反応があった。


 

 ――魔物だ。



 どういうわけか、これが魔物の反応だとはっきりと分かる。便利だからもう理屈とかは考えないよ。


 そして……う~ん? 向こうは私に気づいてないっぽい?


 それにこの感じ、なんとなくだけど、さほど強くなさそうに感じるんだよね……これもスキルのおかげなの?


 だとしたらすごいです『索敵』様、頼りになります!




 この距離ならまだ魔物を避けて通ることも出来そうだけど、逃げちゃダメだ。


 どうせいつかは戦わないといけないんだし……弱そうなのに当たったのはラッキーだと思って立ち向かわないと。


 ううっ……こ、怖いけど、やってみますか。


 昨日は『隠密』使って全力で避けたけど、今日は頑張るって約束したしね、自分に。


 よし、やろう。




 私が使えるのは、火魔法と水魔法。


 攻撃に使うのなら、レベルの高い火魔法の方がいいよね?


 火魔法のLv2には一応、広範囲を一撃で狙えるの『火炎噴射』があるし。昨日からこのスキルだけは少しずつ練習して、初回よりはちょっとだけ微妙に威力も増してる。


 森の中で使うには火災のリスクもあって危険だけど、でもこの辺りならそれほど草も生えてないし、火が燃え移る心配も少なそうだから大丈夫なはず……ノーコンじゃなければだけど……いざとなったら水魔法もあるし。


 ………………。


 ま、まあ昨日は偶々ノーコンだっただけかもしれないし!? 今回はそれでいっとこう、うん。







 ――100mなんてすぐだ。


 相手はそれなりのスピードに乗って近づいて来ているし、あってないような距離になる。

 

 素早く樹に登り、息を潜める。


 上を取った方が有利だと誰かも言ってたしね。



 カサカサカサっ!



 予想より早く音がして、視界に入って来たのは大きなネズミっぽい魔物。


『鑑定』スキルによると、ポイズンラットというらしい……のが六体。


 素早く、固まって移動してくる。毒ネズミかぁ……弱くても毒は怖いし、なるべく遠くで倒したい。近寄らせないようにしないと。


 幸い、まだこっちの位置は気付かれてない。


 『火炎噴射』の飛距離は10m~20mほど、充分引き付けて……。


 先手必勝、当たれ!



火炎噴射フレイムジェット』!



 バシュっと勢いよく火炎が飛び出す。

 

 よし、先頭の三体に着弾した!



 ――あと半分。


 ババッと即座に散開して向かって来たので、ここからは一体ずつ倒す。


 ちゃんと狙って……。


 今度は『火矢』を打つ。


 わわっ、すばしっこい。毛皮だけ焦げたっ。


 もう一度、よく狙いを定めて落ち着いて……。



火矢ファイヤーアロー』!



 当たった! あと二体。


 でももう距離がないっ。


 ちょっ、樹の下に集まってきた!


 集中しなきゃ!


 今度は飛距離も、連打間隔も短く出来るこれで!



火弾ファイヤーショット』!



 やだ当たんない、え~いちょこまかと!


 ただでさえコントロール? なにそれ美味しいの? な状態なのにこんなに動かれたら狙いが定まらないってばっ。


 カサカサッ、ガサガサッ、ガサリッ。


 はわわっ、樹に登ってくる!


 やだってば!


 こっち来ないでっ。



火弾ファイヤーショット』! 『火弾ファイヤーショット』!! 『火弾ファイヤーショット』ーー!!!



「よし、当たった!?」



 か、勝ったよ!


 無駄打ちいっぱいしちゃったし、決してスマートな闘い方じゃなかった。


 ギリギリだったけど……でもこの世界に来ての初戦闘、一人でやれたんだ!







 ――こうして初戦闘は怪我なく終われた。


 闘ったのは少しの時間なのに、なんかどっと疲れたよ、主に精神的にね……。魔物とはいえ、初めて生きている命を奪った訳だし。


 ううっ、それにしてもヤバかった。


 リアルおっきいネズミ怖い! 何あれ、50cmぐらいあったし!


 ポイズンラットって一見、チンチラ(猫じゃない方ね)を大きくしたみたいな姿で可愛くみえるんだよ? 足短くてコロコロ丸っこくて。

 つぶらな瞳はくりっくりだし、尻尾もショートテールでふさふさしてて、デフォルメされたぬいぐるみみたいだし。


 ――ただ、戦闘時はデビルになる。


 鋭い鉤爪とデカイ歯、っていうか牙?を剥き出しにして、キシャーッ!て襲いかかって来る姿は、とっても好戦的で全然可愛くない。いろいろ台無し。落差がひどいよ……詐欺だ。


 最後は間近で見ちゃって怖すぎて、魔法で滅多打ちにしちゃったからオーバーキルだったかもしんない……。


 でも、これで全部なんだよね? おかわりとかはないよね?


 ………。


 うん、『索敵』にも反応ない。ちゃんと倒せてるし、大丈夫みたいです。





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