好事家は風の流れに笑みをこぼす

千鳥 涼介

プロローグに代えて〜最上川正隆の独り言〜

 好事家。


 物好きな者を指す言葉。


 私、最上川 正隆も、またその一人だ。


 私は思う。


 多くの人にとって瑣末であり、面倒事であり、手間である事こそ、趣味であり、こだわりなのだ、と。


 私は決して、そのこだわりを他者に得意げに語ることはない。


 こだわりは、他人に押し付けるものではないと、知っているからだ。


 しかし、私は求める。


 こだわりの先にある、喜びを。


 これは、そんなこだわりを持つ私、最上川正隆が、己のこだわりを再確認するだけの……生活録。


 誰にも語らぬそのこだわりを、覗き見ることができる。ただそれだけの物語。


 こだわる事で、何かが変わるだろうか。

 こだわる事で、人生は潤うのだろうか。


 答えは、無い。


 私は笑う。


 嘲笑でもなく、失笑でも、哄笑でもない。


 私はただ、風の流れの中にその小さなこだわりを感じ、ふっと、微笑む。


 こだわりとは、そんなものだ。

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