第25話 気が合ったんじゃない?

 僕は転移場から転移して、五日ぶりに廃村に戻った。


「お!? おお!?」


 僕は驚きに声を漏らしてしまう。

 なんということでしょう。

 旅立つ前はただの廃村だったのに、五日経過した現在では廃屋はすべて撤去されていた。

 残骸はまったくなく、綺麗に清掃されている。

 畑は拡張されており、耕し終えたようで綺麗に整備されていた。


 村の端っこには墓があった。

 僕は人骨をまとめておいてとしか指示していなかったが、まさか埋蔵して墓まで作っているとは。

 たった五日でもうここまで。

 ちなみに怪我は服で隠しているのでみんなにはわからないはずだ。


「ああああああああああああああ!

 ワンダだ! おかえり! 心配したんだぞ!?」

「まったくやっと帰ってきた。もう帰ってこないかと思ったわよ」

「ワンダ班長殿! 御無事で何よりです!」


 コボくん、ドーラちゃん、ジットンくんが僕の下へ走り寄ってきた。

 みんな元気そうで何よりだ。


「すまない。色々あってな。種を手に入れるのに難儀した。

 だが、最終的には手に入ったぞ!」


 僕は荷車に視線を移した。


「おお! これは、種か!? 大量だぞ!」

「うん。いい感じね。これなら六百食分はあるかしら」

「さっすがワンダ班長! 素晴らしい手際です」

「ふっ、みんなこそ。まさかここまでやってくれているとは思わなかったぞ。

 廃村だったのが嘘みたいに綺麗になっているじゃないか」


 僕が言うとコボくんとジットンくんが得意気に胸を張った。


「えっへん! おいら頑張ったんだぞ! 一杯畑を耕したし、残骸も運んだし!」

「おっと私を忘れてもらっては困りますよ!

 補助魔術を使ったり、残骸を処分したり、白骨死体を埋葬もしておきました!」


 ビッと親指を立てる二体。

 なんだ、五日の間に結構仲良くなったのかな?

 ちらっとドーラちゃんを見ると、肩をすくめた。


「気が合ったんじゃない?」


 そうか。それならそれでいいかな。

 仲が良いのは素晴らしい。

 連携もしやすくなるし、絆も生まれる。

 うん、いいことずくめだよ。

 ちょっとだけ寂しいけど。

 僕もそこにいたかったなぁ。


   ○●○●○●


 任務開始から二十八日目。

 すでに育った作物を収穫し終えた僕達は籠の中身を確認していた。

 大量のニンジンとダイコン、そしてカボチャ。


「……全部でニンジンが千本、ダイコン八百本、カボチャが六百個だな。

 これなら十二分に六百食分を補えるだろう。任務達成だっ!」


 僕が言うと全員が喜びに笑みを浮かべる。


「やったぞ! 今回も任務達成だな!」

「いやはや何とも作物とはすごいものですね。

 特にドライアドと土の妖精の力は目を見張りました」

「ああ。みんな頑張ってくれたが、特にドーラちゃんと土の妖精ちゃん達には頑張ってもらった。

 本当に助かった。感謝する」


 疲労からか地面に座り込んでいるドーラちゃんと土の妖精ちゃん達。

 眠そうにしながらドーラちゃんは手を振った。


「任務だからいいわよ……たださ、なんか特別手当くれないかしら。

 さすがに疲れたわ……」

「ああ。もちろんだ。オレにできる限りの手当を出そう」


 彼女がいなければこの短時間で作物を育てることはできない。

 コボくんやジットンくんも頑張ってくれたのは間違いないが、ドーラちゃんや土の妖精ちゃんたちは不可欠だった。

 僕にできることがあれば報いるのが当たり前というもの。

 ……またお金が出ていきそうだけど、生きているだけ儲けものだし、いいさ。

 ちなみに前回の反省を活かして、それぞれの種は保管しておくことにした。

 まあ長持ちはしないけど、その内使えるかもしれないしね。

 ニンジンとダイコンは根なのでそのまま育てて花を咲かせて種を採取。

 カボチャはまだ種を取っていない、中にあるからね。

 後で取ろうと思う。


「さて、作物を収穫したらまずやることがあるな」

「そうだ! あれをしないと!」

「ええ。楽しみだわ」


 土の妖精ちゃん達も、何があるのかわかったらしく急に元気に飛び回る。

 盛り上がる僕達を見て、ジットンくんが訝しげに言う。


「あれとは一体?」

「あれはあれさ。さあ、火を焚こう」


 僕とコボくんは手際よく薪を集めて火を着ける。

 ドーラちゃんは疲れが溜まっているのでその場で待機。

 ジットンくんには人家に残っていた無事な食器や調理器具を用意してもらった。

 調理過程は割愛。

 いや地味だしね。

 それに調理器具が少ないし、調味料もないから結構手間がかかるんだ。

 そしてできたのは。

 カボチャのスープ。ニンジンのソテー。野菜炒め。以上である。

 まあ野菜だけだしこんなものかな。


「おお!? これは!?」

「料理だ。食べるといい」

「料理! これがかの有名な料理ですか!?」


 魔物は料理をしない。

 何かを作ることもしない。

 絶対ではないが、ほぼ皆無と言っていい。

 まあ僕は全部していたわけで。

 他にも僕のような奇特な魔物はいるかもしれないけど。

 ジットンくんは料理を見つめて生唾を飲み込む。

 出された料理を凝視し、観察し、スプーンをぎこちない所作で持ち、そしてスープを口にした。


「んまーーーーいっ!」


 ほっぺたを膨らませてちょっと目を潤ませて感動に浸るジットンくん。

 勢い激しく一気に料理を口にしていく。

 僕とコボくんとドーラちゃんは顔を見合わせて笑う。

 そしてコボくんとドーラちゃんも食事を始める。


「美味い! これは前と同じくらい美味いぞ!」

「へぇ、悪くないんじゃない?」


 食事をしながらキラキラと輝く土の妖精達。

 料理に舌鼓を打つみんな。

 うん、みんな満足してくれたみたいだな。

 僕も料理を楽しもう。

 新鮮な野菜を口にして、旨味に心を躍らせる。

 満足感に浸り、僕達はゆっくりとした時間を過ごした。

 これなら申し分ない。

 きっと任務は達成できるはずだ。

 なのに、なんだろう。

 この言いようのない不安は。

 何か気になる。

 気になるというか……あれ?

 もやもやする?

 そのもやもやの正体がわからないまま、僕は夜を過ごした。

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