怪人戦隊アクトウジャー

橋本ジェミニ

第1話 登場! 平和を守る三人の悪党!

第1話・その1


「まーたファンタズマチャンネルが発生したってさ」


 通知で震える手元のスマホを見つめながら、女子生徒――瀬戸浦昴は呟いた。

 すぐ隣に立っている男子生徒、天浪魁に向かって言ったつもりだった。が、いつまで経っても反応がない。


「ちょっと、聞いてる? ボクらの出番でしょ――」


 昴は頭をもたげる。

 八界学院高校三階廊下の窓際で、魁は外を見つめていた。


「言われるまでもない。俺たちの出番だ」

「……結構すぐそばなのね」


 昴は魁の視線を追いかけて、納得した。


 巨大なアンモナイトが宙に浮いていた。


 正確には、アンモナイトをモチーフとした飛行物体、と言うべきだろう。アンモナイトのてっぺん――外殻の上部にプロペラ翼が生えている。それが回転して浮力を得、宙に浮いていた。

 当然、現実にはあり得ない光景だった。

 だが、そこに広がっているのは現実とは少々異なる空間、ファンタズマチャンネル。チャンネルの中では、いかなる奇妙な事態も実現する。

 校内のスピーカーが機械的な音を発して、少し慌て気味な女性教師の声が、学校中に響いた。


『……えー、つい先程ファンタズマチャンネル警報が発せられました! 本日の授業は打ち切りとします! 生徒諸君は今すぐ下校し、速やかに退避して下さい! 繰り返します……』


 昼食をとり終えたばかり、廊下を行き交う生徒達の態度は様々だ。午後の授業を受けずに済むと喜ぶ者もいれば、顔を青くしてすぐさま下校準備に取りかかる者もいる。

 魁と昴も、下校準備のため教室へ戻る。しかし、彼らが下校するのは、ファンタズマチャンネルから逃げるためではない。

 ファンタズマチャンネルを潰すためである。

 歩きながら、魁はふとあることに気づく。


「そういえば、蓮生はどうした?」

「レンショー? さあ? あいつのことだから、警報を聞いた途端に飛び出したんじゃないの?」


 投げやりに答える昴。

 魁は窓から校庭を見下ろす。

 校庭に、凄まじい勢いで自転車を駆る一人の生徒の姿があった。

 その生徒は全力で校外へ飛び出していった。

 背中しか見えなかったが、間違いない。魁と昴の共通の知り合い、織園蓮生だ。


「あのバカ! 一人で行くなって何度も言ってるのに! しかも自転車とか……!」

「バカだから仕方ないね。急ぐよ」


 魁は吐き捨て、昴は肩をすくめた。




 ファンタズマチャンネル。

 東北の地方都市、八界(やさかい)市内でのみ発生する怪現象。

 ある日ある時ある地点で、天に向かって一本の光が放たれたかと思うと、一瞬で半径数百メートルの光の柱に膨張する。

 柱が輝きを保つのは十数秒程度。光に飲まれた区域は、それ以前とはまったく異なる風景に塗り替えられている。

 ある時は、ビルが並ぶ中心街が、突然荒野と化す。

 またある時は、郊外の田園風景が、数十年昔の古い街並みと化す。

 またある時は、住宅街が、特撮番組に出てくる正義のヒーロー達の基地と化す。

 もともとの街並みは一時的に消失し、ファンタズマチャンネルが消滅するまで戻ってくることはない。

 そして、光に飲まれた人々は、というと――


「……助けてえ! どうなってるの!?」


 ファンタズマチャンネルの境界近く。元々の街並みとチャンネル内の風景とがつながっている、その路上。

 緑色の全身タイツに身を包んだ人々が、大挙してチャンネル内から逃げ出していた。

 その姿はまさしく、特撮番組に出てくる戦闘員だった。恐竜の頭蓋骨のような白い模様が描かれた覆面をかぶっている。

 ただし、特撮内の戦闘員とは異なり、誰もが困惑し、混乱していた。

 彼ら、彼女らは、たまたまファンタズマチャンネルの光に飲まれた人々。

 光に飲まれた結果、強制的に戦闘員に変身させられたのだった。


「落ち着いて下さい! 3Sが皆さんを保護します!」


 逃げ惑う戦闘員達を迎えるのは、黒い防護スーツに身を固めた人員。

 ファンタズマチャンネルに対応するために編成された組織、スペシャル・シューティング・サービス。通称3Sのアサルトチームが、戦闘員達の保護に奔走する。


「すごい光に照りつけられて、気がついたらこんな変な格好になっていたんだよ! もうどうなってるんだか……!」

「大丈夫です! そのスーツを着たままでも害はありません! 避難所に誘導しますので、落ち着いて下さい!」


 アサルトチーム援護班の面々が、戦闘員達をなだめながら後方へ誘導し、人員輸送車へ乗せていく。

 そんな中、アサルトチーム突入班班長、狩野竜也は通信機能付きヘルメットで本部からの呼びかけに応じていた。


『狩野君! 戦闘員と遭遇したかね?』

「はい! 彼らの容姿についてですが、――」

『緑のタイツ、顔面に恐竜の頭蓋骨。ではないかな?』

「その通りです! もう映像見ましたか!?」

『いや、まだだ。だが、あの空飛ぶアンモナイトを見れば想像はつく』


 狩野は天を仰いだ。巨大な空飛ぶアンモナイトは、プロペラ音を発してその存在を主張していた。


『あれは空中戦艦アンモノイデア、「恐竜超人ダイノロイド」に出てくる主人公達の本拠だよ。よって、戦闘員はその中で出てくるサウルス兵と察しがつく』

「ということは、魔害獣はダイノロイドとやらの主人公ですか!」

『この作品の主人公たちは三人でチームを組んでいる。その誰かだろうな。全員剣を持った近接戦のエキスパートだから、近づくのは危険だよ。遠距離からの牽制に留めて、君達は戦闘員の保護に力を注いでくれたまえ』

「近づくな、とは……また、どこの馬の骨とも知れぬ奴らの力を借りろって言うんですか!」


 怒りをむき出しにして、狩野は怒鳴った。

 しかしヘルメットの奥の声は、軽い調子を崩さない。


『仕方ない。我々の兵器は、魔害獣どもに対しては無力なんだから。人命救助が第一だってこと、忘れないでくれよ』

「それはそうですが……!」


 狩野が反論しかけたところ、部下からの鋭い声が飛んできた。


「隊長! 魔害獣が現れたッス!」

「来たか……!」


 アサルトライフルを構え、狩野は前方に鋭い視線を投げる。

 ファンタズマチャンネルの向こう側には、古い街並みが広がっていた。

 おそらく、狩野が生まれるより以前の、八界市の風景である。信号機のデザインは古く、サイズは大きめ、もちろんLEDではなく電球タイプ。それらを支える柱はところどころ赤くボロボロに錆びている。今は地下に埋められているはずの電線がやたら多く、それらを支える電柱はすべて木製。横断歩道は昔のハシゴ状のデザインだ。

 その横断歩道を踏みしめながら迫る、一つの人影。

 恐竜――ティラノサウルスをモチーフとした、赤いバトルスーツに身を包んだヒューマノイドが、静かな歩調で歩いている。

「恐竜超人ダイノロイド」の主人公、ティラノスだった。

 アサルトチームの姿を認識するや、地を蹴って駆け寄ってきた。


「撃て――っ!」


 狩野の号令の下、突入班員全員が一斉に射撃する。

 集中砲火を受けて、しかしティラノスはわずかに怯んだのみ。弾丸は恐竜の鱗を模したスーツにことごとく弾かれ、傷一つつけられない。

 駆けながら、ティラノスは腰に吊していたサーベル、「ティラノ剣」を抜いた。


「ティラノ剣・竜巻突きぃ!」


 大声で技名を叫ぶとともに、フェンシングの要領で大きく踏みだし、突いた。

 途端、サーベルを中心に竜巻が水平方向に巻き起こり、突入班を直撃した。

 凄まじい風圧をぶつけられ、突入班員が四人、五人とあっさり吹き飛んだ。

 その更に後方、人員輸送車に乗り込もうとしていた戦闘員たちにまで被害が及ぶ。


「おのれ魔害獣!」


 怒りにまかせ、狩野は一気に踏み込んだ。

 特殊警棒を引き抜いて、ティラノスに打ちかかる。

 ティラノスはサーベルであっさりと警棒を受け止めると、狩野を蹴倒した。

 地面に背中をしたたかに打ち付け、狩野は悶絶する。


「サウルス兵ども、逃がさん!」


 ティラノスは狩野や突入班を完全に無視して、空高くジャンプ。一気に輸送車付近まで距離を詰めると、戦闘員を襲い始めた。

 悲鳴が上がり、混乱が発生する。

 戦闘員スーツに身を包んでいるとはいえ、中身は一般市民である。突然の殺意に晒されて、ただ逃げ惑うことしか出来なかった。

 戦闘員の一人がこけて、ぶざまに転倒する。その背中にティラノ剣が迫り――


「危ない!」


 女性の突入班員、安慶名晴が特殊警棒を掲げ、剣を受け止めた。


「今のうちに逃げるッス!」

「は、はいぃ!」


 戦闘員はどうにか身を起こし、逃げた。

 ティラノスは剣を引き、同時に素早い蹴りを放つ。

 晴は胸部に蹴りを受け、地べたに這った。

 ティラノスは晴の足を踏みつけつつ、サーベルを振りかざす。

 晴が思わず目を閉じた、次の瞬間――


「……オラァァ――ッ!!」


 突然真横から前蹴りが飛んできた。

 ティラノスは吹き飛ばされ、人員輸送車の側面に叩きつけられた。

 晴はゆっくりと目を開く。ティラノスの姿は消え、代わりに別の魔害獣が立っていた。

 その姿に気づいた途端、晴の表情は一気に明るくなった。


「……グレンオー!!」

「待たせたな。相変わらず生身で無茶してんなあ?」


 グレンオーと呼ばれた魔害獣は、口元を歪めて笑ってみせると、軽く手を振って晴に挨拶した。


「な……何者だ、貴様!」


 ティラノスに誰何され、グレンオーは右足を大きく踏み出し、名乗った。


「泣く子も黙る悪鬼羅刹! 不死身のグレンオーたぁ俺のことよ!」


 特撮番組の怪人としか言いようのない、異様な容姿だった。

 燃えさかる炎を擬人化したような、深紅の姿。

 両目とも瞳は無く、白い眼球が虚空を睨む。

 唇は無く、ドクロのごとく歯列剥き出し。

 どこからどう見てもバケモノ、夜間に前触れ無く遭遇したら漏らすこと間違いなしの奇怪な姿である。

 名乗りを受けて、ティラノスは首をひねった。


「不死身のグレンオー……? 初耳だな」

「知らねえのかよ!」


 グレンオーはがくりとこけた。

 すぐに気を取り直し、ティラノスを指さして、文句を叩きつける。


「それよりアンタ、正義のヒーローが無力な一般人を襲うとか、ふざけたマネしてんじゃねえぜ! 力なき人々を守るのがヒーローだろうがよぉ!」

「ヒーロー? 何の話かわからんな。俺の目的はファンタズマチャンネルの拡大! そのためには、もっと人々の恐怖をかきたてねばならんのさ!」


 ヒーローらしからぬ反論に、グレンオーは頭を抱えた。


「なにを悪役みてえなこと言ってんだよ。そもそもあんた、ティラノスと全然キャラクター違うじゃねえか。ティラノスは紳士的な人物で――」

「うるさい!」


 ティラノスはその場で踏み込み、いきなり竜巻突きを放った。

 グレンオーは横っ飛びし、竜巻の直撃を避ける。


「チッ! 口で言って分からねえなら、ブチのめす!」


 背負っていた棍を片手で取り、頭上で一回し。

 空を裂く音とともに、その先端に炎が立ち上って、刃の形となって槍頭に宿る。

 槍の穂先、枝刃、そして月牙が一体化した刃を持つ戟、方天戟と化した。


「いくぜぇ――っ!」


 グレンオーは炎の方天戟を振り回し、力任せに横薙ぎ。

 ごう、と派手な音を立てながら刃は空を裂き、地面に炎の軌跡を描いた。

 一瞬遅れて炎の壁が立ち上り、二体の魔害獣の間を分かつ。

 炎の壁に飛び込んで、グレンオーは方天戟を叩きつけた。


「ぬうっ!」


 壁の向こうから飛んできた一撃を、ティラノスはサーベルで辛うじて受け止める。

 防がれたと見るや、グレンオーは戟をくるりと回転。石突きの側でティラノスの胴を突く。

 ティラノスはひょいと後方に飛んで、突きを回避。

 グレンオーは更に踏み込んで、豪快な斬撃を繰り出していく。凄まじく早く、凄まじく力強い攻撃を連打。

 しかしティラノスも雨あられと飛んでくる攻撃を一つ一つ受け、防いでいく。

 常人の域を遙かに超えた戦いは、とうてい余人が手を出せるものではなかった。

 特撮番組内でしか見ることができない立ち回りに、安慶名は興奮を隠さなかった。


「これはすごいッス! こんな戦いを目の前で見ることができるなんて、たまらないッスねえ!」

「そんなこと言ってる場合か!」


 狩野は安慶名を叱責する。しかし狩野も、魔害獣の戦いをただ見守るしかない。

 グレンオーは攻めに攻め、ティラノスをチャンネルの内側に押し戻していた。しかしティラノスは的確に方天戟の攻撃を受けて立ち回り、さほどのダメージも負っていない。

 趨勢はまだ見えず、戦いは長引きそうに思えた。


「チッ! 力任せで勝てる相手じゃなさそうだな! だったらこれはどうよ!?」


 グレンオーが仕掛けた。

 チャンネル内部の歩道に立つ裸婦像に斬りかかり、上下二つに裂く。

 上半身の方を高く空へ跳ね上げると、自らも地面を蹴り、高く飛んだ。

 一飛びで軽く数メートルは舞い上がったと思うと、空中で回転。


「くれてやるよ! メテオシュートだ!!」


 オーバーヘッドキックで裸婦像を一撃。炎が像に乗り移り、隕石のような火の玉となってティラノスを襲う。

 見た目は派手だが、弾速がことさら速いわけでもなく、なにより予備動作が大きすぎる。この程度、回避するのはたやすい――と思いきや。


「うっ!? うあっ……うああああ!!」


 燃える裸婦像を目にした途端、ティラノスは突然恐慌状態に陥り、悲鳴を上げた。

 頭痛に襲われたみたいに頭を抱え、その場に釘付けになる。

 防御すら出来ず、裸婦像の直撃を食らい――

 大爆発。

 地面が抉られ、大きな爆風と白煙が立った。

 白煙が流された後に現れたのは、大ダメージをくらって地に這ったティラノスの姿だった。


「な……何が起きた……!? アレを見た途端、とてつもない恐怖が……!」


 震える声を絞り出すティラノス。

 方天戟を担ぎながら、グレンオーは大股に近づいた。


「そりゃおめえ、ダイノロイドは隕石を見るとパニックになるんだぜ。特にティラノスにはてきめんに効く。原作の設定通りよ」

「……なんだと……!」

「魔害獣は能力だけじゃなく、弱点も原作に準拠するからなあ。自分の弱点を知らなかったおまえが悪い」

「……ググ……!」


 瀕死状態でありながら、ティラノスはサーベルを地に突き立てた。

 最後の力を振り絞って立ち上がり、グレンオー目がけて突撃する。


「楽にしてやる! 不死身のグレンオーの必殺技、とくと味わえィ!」


 グレンオーは右手一本で柄の真ん中をつかみ、回し始めた。

 高速回転する方天戟が、グレンオーの頭上に炎の輪を生む。

 バトントワリングのごとく、炎の輪を右へ左へ振り回し、そして振りかぶり――


「業火! 剣嵐!!」


 必殺技名を叫びつつ、投げつけた。

 轟音を立てながら、炎の輪はティラノスに迫り、炸裂。

 赤い斬撃がティラノスの脳天から足の先まで刻み込まれる。


「地獄で待ってな!」


 グレンオーが決め台詞を叫び、石突きで地面を叩く。

 ティラノスは大爆発した。

 爆風が周囲を揺るがし、爆炎が大きく立ち上る。


「隠れろ……!」


 戦いを傍観していたアサルトチームの面々は、咄嗟に物陰に飛び込み、飛来物から身を守った。

 やがて風が吹き付け、煙をかき消し、戦いの場に静寂をもたらした。

 爆心地には、一人の男性が仰向けに寝転がっていた。

 着衣は整い、怪我一つしている風もない。

 唯一奇妙な点として、胸部――シャツの上に二枚のカードが突き立っていた。

 カードが乗っているのではない。ATMから排出されたキャッシュカードのごとく、その一端は男の身体にめり込んでいる。

 カードの内一枚にはティラノスの姿が描かれている。しかしもう一枚は黒一色。

 グレンオーはぶらぶらと男に近づくと、無造作に二枚のカードを引き抜いた。

 と同時に、ファンタズマチャンネルの境界線に光の壁が立ち上った。

 光の壁は退行し、あっという間に消失。その後には、元の街並みが戻っていた。

 くるりと振り返り、グレンオーは突入班に呼びかける。


「おーい! こいつはもう大丈夫ぜ! さっさと保護してやってくれ!」


 方天戟の炎を消し、柄を背負い直すと、グレンオーはふらりとその場から歩み去る。


「ぐ……! これで何度目だ! あいつに助けられるのは……!」


 狩野は歯がみをしながら、グレンオーをただ見送るしかなかった。

 安慶名が狩野に声をかける。


「仕方ないッスよ。現状、魔害獣を倒せるのは彼らしかいないんスからねえ」

「わかっている。……被害者男性を保護しろ! 引き続き、チャンネルに巻き込まれた人々の保護も行え!」


 部下達に指示を下して、狩野は倒れた男性のもとに駆け寄った。忸怩たる思いを押し殺しながら。




「ティラノスの弱点を的確につけて、実にいいデキだったな! もっと早く思いつければ良かったんだが。とにかく帰ろっと」

 グレンオーは細い路地裏に入り、こっそりと止めてある自転車のそばまで歩み寄った。

 変身を解除すべく、右手をこめかみあたりに寄せようとして――突然、誰かの手がグレンオーの右腕を掴む。

 反射的に振りほどこうとするも、相手の正体に気づいて、グレンオーは緊張を解いた。


「……あ、なんでえ。魁じゃねえか。はい、回収したカード」


 そこにいたのは、制服姿の天浪魁、そして瀬戸浦昴だった。

 蓮生は二枚のカードを魁に引き渡す。

 魁はひったくるようにカードを奪い、冷たく険しい表情を浮かべた。


「蓮生! 一人で飛び出していくのはやめろ、と何度もさんざん言ってるよな?」

「いやー、それは……ほら、俺って、チャンネルを見たらじっとしていられないタチだし?」

「それに今、変身を解除しようとしたな? 変身するのも解くのもチャンネルの中でやれ! 正体がばれて困るのはおまえ自身だぞ!」

「それはそうなんだけど……昴! ちょっと魁をなだめてくれない?」

「そんな義務、ボクにはないね。掟を破った蓮生が悪いんじゃないの」


 つれない態度のまま、昴は小さく肩をすくめた。


「とにかく、さっさとここから立ち去るぞ」


 魁はカードを取り出した。グレンオーから回収したのとは別だが、デザインはほぼ同じ。サイズはおおむねクレジットカードだが、絵柄はなし。ほんのりと黄金色の輝きを放っている。

 そのカードを、魁は眼前のビルの壁に無造作に突き立て、さながらカードキーのごとくスライドさせた。

 すると、壁全体に四角い亀裂が走り、扉状に開いた。まるでそこに隠し扉があったかのごとく。扉の向こうからは白い輝きが漏れ出していた。


「ほら、入れ!」


 魁はグレンオーを扉の中へ押し込んだ。


「あ、ちょっと! そこの自転車俺のなんだって!」

「持って行ってやるから、さっさと行くんだ!」


 抵抗むなしく、グレンオーは輝きの向こうへ消えていった。

 それに続いて、昴が静かな歩調で扉をくぐり、消える。


「まったく……手間をかけさせる」


 魁は自転車を抱えつつ、最後に扉を通った。

 三人の姿が消え去った後、扉はぱたりと閉まる。

 亀裂は消滅し、後にはただの壁が残るばかりだった。

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