96話

 ふと気付くとペルセポネも、ユカリ達に魔将スノーと四天王が、俺と同じように上空にいる者に凝視している。


「クックククッ。 まさかな……」


 低い声で不気味な笑いをするカツオフィレの騎士の鎧を身につけた金髪の女性、カツオフィレの聖女だ。

 だが、今は魔将スノーが話していた事を思い出すと、あそこに浮いているカツオフィレの聖女は、魔王ノライフ。


「な、なんの。 何故こんな所にいるっ」

「分かっているのだろう。 魔将である貴様に魔族たる何なのかを教示しにだ。 それにしても……、この魔界に何故、人族がいるんだ?」


 見下ろす魔王ノライフ、ユカリ達に視線を動かすと顔が険しくなる。


「……そうか……そうか。 フフフッ、堕ちたなスノー。 まさか、人族に助けを求めるとは。 人族よ、この魔界に入った事に後悔するが良いっ!!」


 大きな影に俺達が包み込まれると、魔王ノライフよりも上、翼をはためかせ旋回するドラゴンは、少しずつ下がり地面の雪を吹き上がらせ、俺とペルセポネの前に降り立つ。


「こ、このドラゴンッ」

「確か、あの時の。 ローフェンに向かう時にすれ違ったドラゴンですわ」

「あいつ、魔王ノライフは、最強種ドラゴンの中でも弱いとされているブラウンドラゴンを使役していた」

「ブラウン……ドラゴン」


 ユカリとフェルトは、巨大な丘のようなブラウンドラゴンを目の前にしても怯まず、構えを崩さない。


――――それにしても、ブラウン。つまり茶色の鱗なのたが、何故傷だらけなんだ?弱い方だというが、最強種なのだろうけど。上位にやられたか?それとも……。


 俺は、視線を魔将スノーとアイスクォール四天王へ動かすが、魔将スノーは、赤くなるほど拳を握り締め、アイスクォール四天王は、手持ちの武器が、分かりやすい程震えている。

 視線を魔王ノライフへ移すと、魔王ノライフの瞳が赤く染まると直ぐに青い光が混じり合い紫色へと発光する。


「クックククッ。 私が手を出す必要はなさそうだな。 魔将スノーとそこの四人。 レベル変わらん。 四十と三十前半辺り……」

「鑑識眼を使えるなんて?」

「何を言う当たり前だ。 魔王でこの体は、聖女なのだ。 使えて当然。 それよりも人族のっ。 スノーの取り巻きより強いとは……んっ!? そこの黒髪の女ァァっ!!」


 魔王ノライフは、ユカリを睨みつける。


「貴様貴様ァァ、勇者かっ!? そう、そうか勇者だなっ」

「そうよ。 私は、勇者ユカリ。 貴方を倒す者よ」

「ククク、勇者ユカリ。 その近くにいるのは仲間なら……。 人族としては、レベル三十半ばから後半か……。 勇者も四十とは。フフフッ、だがなぁ。 それでは、私には勝てん」


 ユカリは、剣の切っ先を魔王ノライフに向け突き上げるが、不敵の笑みを浮かべる魔王ノライフ。


「ハッハハハァッ。 まさか勇者を探す手間が、省けるという物だ。 さぁブラウンドラゴンよっ。 勇者とその仲間に魔将スノーを殺せッ!!」


 魔王ノライフは、腕を振り指示を出すとブラウンドラゴンが、俺達を見廻すように頭を動かす。そして大きな口を広げながら咆哮し威嚇してくる。

 腕を振りかぶり鋭い爪を立てながら空を切る音を立て、ペルセポネを狙う。

 ぶつかり合う衝撃、弾け飛ぶように地面に合った雪が再び舞い上がる。


「まずは、人族一人目の犠牲者だなぁっ」


 魔王ノライフは、ほくそ笑みながら俺達に届く声で呟く。

 だが、ブラウンドラゴンの爪は、ペルセポネの二本の剣に寄って遮られ、弾き返されると同時にブラウンドラゴンの爪が、粉々に砕け手や腕から血を噴き上げバランスを崩し、よろけ後退りをする。

 目を見開くブラウンドラゴンは、悲痛な鳴き声をすると、傷が塞がっていく。それを見て首を傾げるペルセポネに魔将スノーが、魔王ノライフを指さして示す。

 魔王ノライフは、険しい顔でブラウンドラゴンを睨む。


「もしかして自然治癒みたいなのある?」

「あれっ。 魔王ノライフが、回復させています」

「おいおいっ!! ブラウンドラゴンだぞ。 何故人族が傷つけられるんだぁっ。 これ掛けてやるから絶対に殺せッ」


 威勢を増して咆哮するブラウンドラゴン。

 傷は塞がりはしたがそれでも傷跡が、残ったブラウンドラゴンに、光が包まれる。

 損害庇保殻膜、勇者や聖女が扱えるスキルで掛けられた者は、敵から受けるダメージを代替えする。それが、ブラウンドラゴンに掛けられ、更に回復した爪と手に腕を振り回している。


 ユカリ達が、武器を持ちながらペルセポネに近づく。


「ペルセポネさん、私達も戦います」

「私が、きたから任せな」

「何言ってるのリフィーナ。 援護できれば」

「むーっ、おねぇさまの援護するぅっ」


 だが、真剣な顔をするユカリ達にペルセポネは、対し鋭い眼差しでユカリ達を睨むつける。


「要らない」

「要らないって。 貴女、ドラゴンよっ。 ド、ラ、ゴ、ンッ」

「ペルセポネさん、そうです」


 ユカリとリフィーナが、険しい顔でペルセポネを説得するが、呆れ顔になるペルセポネに向けて再びブラウンドラゴンが、覆い被さるようにペルセポネに風を切りながら爪を立て狙う。


「ユカリ達。 あんた達はっ、魔王ノライフを牽制して……なっ、さい」


 ペルセポネは、二本の剣を振るいブラウンドラゴンの爪や指を切り裂くと斬撃が、腕まで入り血飛沫を撒き散らす。

 響き渡る程の鳴き叫ぶブラウンドラゴンは、よろめき翼をはためかせている。


「な、なんでそんなに簡単に……」


 フェルトは、呟くが直ぐに皆と同様に口が開いたまま驚いて固まる。聖女の姿の魔王ノライフも目を見開いている。


「んっ? 損害庇保殻膜は!? 掛からなかったのか?」


 魔王ノライフは、ブラウンドラゴンに回復魔法をかけ腕の傷が塞がる。目を赤く睨みつけるペルセポネに大きな口を広げ突撃をするブラウンドラゴン。

 開いた口に集まる光る玉から、放たれる電撃がペルセポネに向けてほとばしる。

 それを躱すペルセポネ。

 そして、ブラウンドラゴンが放つ電撃は、ペルセポネを追いかける。


「めいお……ハーデスッ。 手伝ってよ」

「おぉ」


 俺は、ハルバードを持ちペルセポネを追撃するブラウンドラゴンの胸を斬り付ける。血を噴きだすブラウンドラゴンは、ペルセポネの追撃を止め上空に向けて頭を左右に振るい、悲痛の声を上げる。

 魔王ノライフが、手をかがげブラウンドラゴンの傷を回復させようとするが、俺とペルセポネの攻撃が、止まらず塞がる傷が開き悲痛の声が、次第に枯れていく。

 翼が、まるで枯れ葉のようにボロボロになり飛べなくなり落ちてくる。そして、ブラウンドラゴンは、地面に落ち這いつくばり痛々しい声を出しながらもがいている。


「ブラウンドラゴンッ。 立てぇっ。 回復しているだろう。 何故だぁ人族の攻撃に回復が、追いつかん」


 魔王ノライフの焦る声。

 唖然と見守るユカリ達と魔将スノーと四天王。

 のたうち回っていたブラウンドラゴンが、傷から血を吹き出しながら歯を食いしばり、両手を地面に付け立ち上がる。


「ドラゴンと言うだけあって、大量に血を出そうとも倒れないとは……。 凄いな」

「何、感心しているのよ。 こいつ硬すぎじゃない」


――――ペルセポネの剣技でも切断出来ない。そう、何故神力使わない? 何か理由あるのか?


 『硬すぎじゃない』の言葉にふと俺は疑問が過ぎる。


 そう考えているとペルセポネの剣が、無数の弧を描きブラウンドラゴンに数多くの傷を付けている。ブラウンドラゴンも倒れまいと必死に耐えながら、首を大きく振りペルセポネと俺を引き離そうと攻撃を仕掛けてくる。

 だが、それを避けつつ斬り付けているが。


「なぁ、こいつあの電撃以外、新しい攻撃してこないだが……」

「何か、底力、奥の手見たいのあると思ってたけど見当違いかもね」


 俺とペルセポネは、ブラウンドラゴンから間合いを取り様子を見る。

 数多くの切傷から血を流し、やっと立っているのが分かるほど微かに震えているブラウンドラゴン。


「そろそろ、終わらせてやるとしよう」

「そうね。 神力使わなくても切り落とせるかなぁと思ったんだけど、やはりドラゴンは強固だわ」

「そうだったのか。 何故神力使わずに剣を振るっていたのか気になっていてな」

「まぁ、魔石持ち確定だからあっさりとたおしても良かったんだけど、いい運動よ」

「いい運動か……」


 俺とペルセポネは、それぞれの武器に力を込め走り出す。


「させるかぁっ」


 魔王ノライフが、突然ブラウンドラゴンの間に降り立ち、俺とペルセポネの攻撃を阻もうと手を広げる。

 数多くの火の矢が、魔王ノライフ周辺に現れるたが、既にその横にいた俺。


「魔王……。 邪魔っ、だっ」


 ギョッとする魔王ノライフ。

 俺は、魔王ノライフにハルバードの石突で横腹を突く。

 魔王ノライフの体が、くの字になり雪の大地に長すぎる線を引きながら飛んでいく。


「ギャァオォォッ」


 その時、断末魔の叫び声が大気を震わせ響き渡り、地面に振動が走る。

 崩れ落ちるブラウンドラゴンの胴体、そして首の切断面から血を噴き白目を向いた頭部が、地面を転がっている。


 剣に付いた血を拭って鞘にしまうペルセポネの顔は、何故かスッキリしたように見えている。

 ユカリ達に魔将スノーやその四天王は、唖然と突っ立って固まったまま。


――――異世界来てドラゴン見れたも良しだが、希少の存在と良く言うだろう異世界では。なら次、いつ遭遇するか分からないドラゴン。戦ったは良いが、倒してはいない。倒しては……。


 そう思う俺は、魔王ノライフの邪魔に、苛立ちが籠る。

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