97話

 痙攣が収まったブラウンドラゴンは、既に息絶えていた。

 内心複雑な気持ちを抑えながら俺は、ペルセポネと共にコベソとトンドが隠れている馬車に戻る。

 途中戸惑っているユカリ達に声をかけるペルセポネ。


「後は、頑張ってね。 ユカリ」

「えっ? ペルセポネさん」

「魔王よ。 魔王っ。 魔王ノライフと戦うんでしょ」

「えっ、あっ、はい!!」

「ちょっ!! ちょっとぉっ貴女、ドラゴンを倒しておいてなんでそんなに平然と」

「さすがですわ。 ドラゴンを倒せるなんて」

「むっーおねぇさまスゴい」

「あんたたち、魔王ノライフがやってくるわよ。 心構え大丈夫?」


 フェルトとミミンは、目を輝かせながらペルセポネを見詰めているとペルセポネは、魔王ノライフを飛ばしてやった遠くの方を眺めながらユカリ達に告げる。

 俺の苛立ちによって遠くに飛ばされた魔王ノライフが、黒いオーラを焚き上げ脇腹を抑え足を引きづり、ゆっくりとこちらに向かってくる。


「おねぇさま、協力……」


 ペルセポネは、ミミンの言葉に手を横に振って。


「魔王を倒すのは勇者とその仲間。 私とハーデスは、あのデブ二人を護衛しないといけないし……。 ドラゴンで疲れたわ」


 頭を振り、疲れた素振りをするペルセポネにリフィーナが一言。


「貴女、一切疲れた風には全く見えない。 それに攻撃受けてないの分かっているのよ」

「はぁ、あんなに走り回っていたら疲れるわよ。 デカブツよ。 デカブツのドラゴン」


 リフィーナに声を掛けられる前は平然と歩いていたペルセポネは、その言葉の後疲れた感を出しながらのらりくらりと馬車に向かう。

 黒いオーラが、次第に大きく見えてくるとユカリ達は、武器を手に取り魔王ノライフを視野に入れ構えている。


「ユカリ、魔王の魔石私が貰うわよ」

「協力してくれたら考えます」

「……まぁ、あのドラゴンがどんだけかで考えとくわ」


 ユカリ達を背に馬車に向かうペルセポネは、手を振りながら先に進む。

 俺自身もドラゴンにトドメをさせなかった心をを落ち着かせようと馬車に持たれ休む事にした。


――――もし、この状況を人族の女の神エウラロノースが、観ていたら。魔王ノライフを倒したのが勇者ユカリで無いとわかったら。あの女の神何するかわからん。いやこの世界は、勇者でないと魔王は倒せない。って俺も勇者のスキルが、あるらしいが……。


「おぉ、ハーデスさん、ペルセポネさん。 ドラゴンは?」

「あそこに置いてあるわ」

「倒しているとは、やはり。 ん〜、ドラゴンの死体回収出来たらぁ」

「ドラゴンって魔石以外何かある?」

「そりゃ余すこと無く素材として使えるんです。 鱗や角、牙、爪は武器に、内蔵とかは薬とか」


 トンドが、目をキラキラさせ答えてくるが、既に魔王ノライフとユカリ達が対峙しあい、その間を通り抜けてブラウンドラゴンの死体回収をするのは……、と呆然とその方向を向いている。


「状況でかな」

「そうしてくれると……」

「あのドラゴン、あの状態のままが良いのだけど」

「トンドよ、諦めろ。 俺も諦める。 ブラウンたし。 これがレッドドラゴンやブラックドラゴンとかなら今すぐにでも回収して欲しいが」

「だな。 ブラウンだから諦めるか。 残ってたら残ってたで」


――――レッドドラゴン?ブラックドラゴン?やはりいるのかブラウンドラゴンの上位種。いて当然なのか異世界よ。いや当然だろ、なんせ異世界だ。


 初めてのドラゴンにトドメをさせなかった俺の心が、コベソ達の言葉で落ち着きを取り戻す。

 ゆっくりとこちらに近づく魔将スノーとその取り巻き四天王。静かにペルセポネと俺に言葉を掛ける魔将スノー。


「御二方、どうか勇者ユカリに協力と魔王ノライフの打倒を」

「魔将が、何を言っているの? 魔王を応援するのが魔族なんじゃないの?」

「そうです。 そうなんですが、あの魔王……いえ、魔神の言いなりでは我が民が、苦しんでしまう」


 悔しそうな、もどかしそうな、そんな顔をする魔将スノーは、ペルセポネの言葉に対し非常に悲しんでるように見える。


「ふぅ、まぁそう言うなら貴女達が、ユカリ達と共に魔王ノライフと戦えば?」

「そ……」

「貴様っ。 姫様になんて事をっ。 姫様は平和と平穏を願う方なのだ。 『戦って来い』とよく言える」


 何か言おうとしていた魔将スノーの後ろからアイスクォール四天王全員が、すごい剣幕でペルセポネに迫る。


「魔王ノライフが、言ってたじゃない。 あんた魔将スノーは、レベルが高いって。 あんた達は低いと言っての聞いてたわ」


 ペルセポネの包み隠せない笑顔から発せられる言葉に、アイスクォール四天王は、悔しそうに歯を食いしばると魔将スノーが、咳払いをし話し出す。


「確かに、そう思います……」

「ひ、姫様?」

「勘違いしないで、貴女達がレベル低いとか言っているのでは無いの。 魔王ノライフに圧され民を犠牲に出来ない。 やはり、この手で厄災を払い国の平和を掴みとらないと」


 手を握り締め空を見つめ魔将スノーの目からひしひしとやる気が伝わってくる。


「貴女達も、勇者とその仲間を助け魔王ノライフを退け……。 いや倒しましょう」

「「「「はいっ」」」」


 まっすぐな目を向ける魔将スノーの方向が定まった言葉にアイスクォール四天王は、元気よく返事をし武器を手に持ち魔王ノライフとユカリ達の所に向かっていく。


「貴女達やユカリ達がピンチになったら助けに入るわ。 ねぇハーデス?」

「ん、あぁ、そうだな。 俺としては勇者が、死んでしまっては、一大事だからな」

「その時は、お願いします……。 みんなやるわよ」


 袖をまくった魔将スノーとアイスクォール四天王を見送るとペルセポネが、ボソッと呟く。


「魔王、アイツらとユカリ達に注視してくれたらあのドラゴン回収できるのに」

「もしかして、それで行かせたのか?」

「それはあわよくばで、あの魔将、スノー。 実力あるんじゃないの? なんで魔王倒さないのかなぁって」

「魔王倒すのは勇者しか出来ないんだろ?」

「あっ、そうだった」


 ど忘れしていたのか笑顔で誤魔化すペルセポネは、可愛くそして綺麗だった。だが、その後ろに俺の言葉に頷いていたコベソとドンドがいた。


――――ペルセポネの可愛らしさ、何か気分が害されたような気がする。


 ペルセポネの視線は、魔王ノライフとユカリ達の戦いよりもドラゴンの死体に向いており、回収の算段を考えているように見える。

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