94話

 魔族の国アイスクォールの統治者、魔将スノーとその取り巻き四人は、ユカリの事を勇者だと分かると最初は驚愕な顔をしていたが、正気を取り戻すと笑顔になっている。何故か馬車の中に入り同行している。

 そして、この馬車が向かう先は、魔将スノーがいた城を目指して進んでいる。

 外の様子を眺め、行先を示す取り巻きのリーダーは、御者台にいる。

 俺は、ユカリ達や魔将スノーと取り巻きは、それぞれ会話している中、コベソに現在気になる事を聞き出そうとする。

 ペルセポネも俺の言葉に、若干目を見開く。


「コベソ。 何故、こんな土地まで来たんだ?」

「……。 ユカリ嬢ちゃんが、魔王ノライフを倒すと言ったから……ですが」


――――確かに言ってたけど。最初はアテルレナスで別れると言う事だったが、アンデッド騒ぎでランドベルクに向かい、今度はカツオフィレに魔王ノライフを倒す筈が、いると思っていた場所には居なかった。


 俺としては勇者であるユカリと同行し、魔王を倒せば人族の神エウラロノースと対話出来るかもしれんが。


「魔王討伐するのは勇者のユカリ達、それは分かるが。 それにしても、この馬車やコベソとトンド

の助力の範疇を超えているのではないか? ほぼ無料で武具を渡したり。 馬車を用意して移動したり、ポーションを無償で提供したりと」

「そうですけどね。 実は……」


 頷くコベソは、少し前のめりになり、ユカリ達には聞こえなよう小声で俺とペルセポネに告げる。


「カツオフィレとアイスクォールの販路。 このヒロックアクツが、頂こうかと」


 悪巧みな顔をしているコベソは、その真ん丸な体型を表しているかのように、タダでは転ばないとニヤリと笑う。


――――人族が来ない魔界で、何故か温泉があるのも知っていたコベソとトンド。魔界まで商圏を拡げようとする魂胆だったとは。


 そして、馬車は、先程の温泉施設を後にしてひたすら東北に向かって走っている。いつの間にか街道に入りしユカリ達と魔将スノーと取り巻き四人は、話に夢中のようだ。




 風に粉雪が舞い散る針葉樹林の脇を俺達が乗る馬車は、雪道を走る。

 御者の視界に魔物が、現れると中に居る俺達に伝えてくる。


「さぁ、勇者パーティーの出番!!」


 笑顔で肩を回しながら馬車から降りるリフィーナ。そして続いてユカリ達も降りる。


「なに、あの白いの?」

「ホワイトの……ウルフ?」


 赤い空の影響で赤く染まって見えるが、目になれてきた俺達は、見える魔物の本当の色が分かるようにやって来ていた。

 ユカリ達の向かいには、真っ白な毛並みの狼、体躯は大きく成人男性並の高さ。鑑識眼を使っているユカリの口が開く。


「そう。 間違いなくホワイトウルフ……」

「ちょっ、待って待って。 ブラウンよりも強いしランクB寄り魔物よっ」

「むっ、くるっ」


 一匹、対面にいるホワイトウルフが、喉を鳴らし威嚇してくる。そしてその後ろに三体のホワイトウルフの姿が、現れてゆっくり歩み近づいてくる。


「四体?」

「リフィーナっ。 ユカリ、行くわ。 ミミン援護」


 フェルトの掛け声に武器を手に取り、ホワイトウルフに立ち向かうユカリ達。

 コベソとトンドは、御者台からユカリ達の戦いを観戦しスノー達も乗り出すように車中からユカリ達の動きを見ている。

 そして、俺とペルセポネは、馬車の脇で戦いを見守っている。


 初見のホワイトウルフが、ユカリに向かい走り出し大きな口を開き光る牙とヨダレを吐き垂らし飛び交ってくる。ユカリは、剣で牽制するとホワイトウルフは、身を崩し回避する。

 ホワイトウルフの掛け合う声の後四体が、一斉にユカリ達に飛び交かり攻撃を仕掛ける。

 ユカリとリフィーナは、手持ちの武器でホワイトウルフの攻撃に合わせ斬り付けるが、身を躱され再び離れる。残りの二体は、フェルトの大盾でミミンを守り押し返していた。


「この、ゆき、雪が……あっわっ」

「みんな足、気を付けて」


 リフィーナは、足を滑らせふらつく。

 身を立て直し息を乱していたが、直ぐに落ち着き呼吸を整えていた。

 四体のホワイトウルフは、白いの毛並みからうっすらと血を滲ませ、ユカリ達を睨んで喉を鳴らす。

 地面の雪には、ホワイトウルフの足跡が、たくさん出来る。牙と爪を光らせユカリ達に襲いかかっては離れていた。

 ユカリ達も、ホワイトウルフの攻撃に翻弄されているのか、雪の地形のせいで動きが悪そうにみえる。


「ホワイトウルフ、間合いに入らせないようにしている」

「この地面で、こんなにも速い動きを出来るのなんて凄いわ」

「フェルト、感心している場合では無い」

「このままで、無闇に攻めないで。 ユカリ、リフィーナ」

「ちょっ、それじゃぁ。 どぉするの?」

「離れた時に集まる奴らにミミンの魔法で」

「むー。 私の魔法でホワイトウルフを倒す。 そして、おねぇさまに抱き締めて貰うぅっ」


 ミミンは、願望がぎっしり詰まった言葉を高らかに上げ後ろにいるペルセポネの方に振り向く。

 ペルセポネは、ちょいっと顔を逸らし、まるで森を見てい素振りをしていた。

 少し頬を膨れるミミンは、ユカリ達の掛け声で正面を向き直す。


 ホワイトウルフの素早い動き。

 突進に踏まえ翻弄する左右にステップし、四体が入れ替わってユカリ達を攻撃するが、ユカリ達も押し返す。ミミンの二又とんがり帽子が、微かに明るくなり消えると、その光がまるで腕を介し杖に流れ先端に向かっていく。

 ミミンは、先端をホワイトウルフの上空を指す。


「爆炎魔法……インフェルノォォォッ」


 フェルトは、大盾で押し返し転がりながらもたち直すホワイトウルフは、舌を出し口から白い息を吐く。

 四体のホワイトウルフが、ユカリ達から離れ再び襲いかかろうと体勢を整えてながら喉を鳴らし睨みつける。

 たが、ホワイトウルフの上、一点に集まる真っ赤な球体は、まるで灼熱の鉄球が現れた途端、一気に破裂し爆炎と共に爆発する。

 その爆発によって発生した衝撃波、突風が、辺りの雪を撒き散らしユカリ達もだが、俺達にも馬車に吹き付けてくる。

 薄めになり吹き付けてくる粉雪を、両腕で防ぐ。

 ホワイトウルフ四体がいた一帯、爆煙に包まれた。それの煙が薄くなるとホワイトウルフの姿が、薄らと見えてくる。


「みんな、大丈夫?」

「ええ、平気」

「フェルトの大盾助かったぁ」

「むーっ。 あんなに威力あるなんて」


――――初めて使ったのか?強くなったとか言ってたから、最近使えるようになった魔法なのだろう。


 煙に包まれたホワイトウルフ二体は、よろけながらも立ち上がり、残りの二体の内一体は、地面に横たわり鳴き声を上げもう一体は、横たわるも身体が、破損してその場は、より濃い赤に染まっている。

 そして、煙が無くなると見えてくるホワイトウルフと、先程まで雪だった地面が、茶色の土の表面を見せていた。


 立ち上がっている二体のホワイトウルフは、更に唸り声を上げユカリ達に、よろけながらも歩み寄り、雪を踏みつける音が、俺にも届く。

 そして更に、雪を踏みつける足音が、不思議と俺の後ろからも聴こえてくる。

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